答え
「そういえば、答えは見つかったのか?」
声をかけると、誠一郎は本を閉じた。
「君から話しかけてくるとは珍しいな」
確かに、いつも静寂を破くのは彼の役目だった。
「何の答えだ?」
「君の最初の問いだよ。人は何のために生きているのか、という」
「あぁ。…あれの答えはもう見つけた」
「早いな。まだ半年くらいしか経っていないが…」
「自分だけの答えだからな。大衆に当てはまる答えを見つけようとすれば、また何年もかかるだろう」
誠一郎にのみ当てはまる答え。
それは面白そうだ。
「その答えは、何だ?」
よくぞ聞いてくれた、という風に、彼は微笑んだ。
「この時間だ」
簡潔な答えに、首を傾げて補足を促す。
「桜の木の根元で君と過ごす、この穏やかな時間だ。僕は本を読み、君はじっとしている。…あぁ、最近は僕の持ってきた本を読んでいる時もあるな。そして、ふと思い出したように、言葉を交わすんだ」
誠一郎は、楽しそうに続けた。
「この時間を過ごすために、僕は生きているのだろう」
私は、お面の下で静かに微笑んだ。
きっと、私が”生きている”と言えるのなら、私もこの時間を過ごすために生きているのだろう。
「…良い答えを見つけたな、誠一郎」
「君と過ごした成果だ」
「そうか…そうだな」
私の言葉を最後に、また静寂が戻る。
誠一郎は再び本を開き、私も無言になる。
その空間は全く気まずくなく、むしろ居心地が良かった。
―――――だから私は、薄々”知っている”すぐ先の未来から、目を背けた。
何も、”知ってしまわない”ように。