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狐面  作者: 優希
2/8

一人と一人

そして、何千年と時は流れた。私を追った人間も、もういない。


そんな時に、彼は現れた。


その人間は、決まって私のいる木の根元に座り、分厚い本を開く。

ただ静かに頁を捲る人間を、私は木の上から、息を殺して観察していた。


「特等席だと思っていたんだが…変わった先客がいたようだ」


ある日、人間はそう言って顔を上げた。

いつから、気づいていたのだろう。

咄嗟に隠れ損ねた私へ、その人間は手を伸ばす。


「そんな所に登っていては危ない」


人間の手が私の目の前で動きを止めた。私はその手をじっと見る。

どうして、人間は手を伸ばしたのか。

石や刃物など、攻撃するものは見当たらない。

私が動かないでいると、人間はさらに手を伸ばして私の手をとった。

重力に従って木から落ちた私を抱きとめた人間は、私を優しく地面に下ろした。

初めて真正面から見た人間の顔立ちは整っていて、何故か私の顔にある醜い火傷の痕を思い出した。


「そんな所にいないで、隣に座ればいいだろう」


人間の言葉に、私は小さく頷いた。

触れている手が、温かい。

人間の温かさは、とても懐かしかった。



人間は、私に何も聞かなかった。私も、人間に何も聞かなかった。

私と人間は、”一人と一人”として、隣り合わせの時を過ごした。





「人は、何のために生きていると思う」


ある日、静寂を破った人間の声に、私は隣を見た。

隣の人間も、私を見ていた。

人間は、気味の悪い私を真っ直ぐに見ている。


「僕はその答えをまだ知らない。だから、たくさんの本を読んで、その答えを探している」


私は何も答えず、人間から目を逸らす。

特に返事を求めていたわけではないようで、一時経つと、隣から頁を捲る音が聞こえ始めた。

その微かな音を聞きながら、私は膝に顔を埋めた。

膝に狐の面があたって、少し痛い。

しかし、暖かな春の日差しと頁を捲る音は、とても心地よかった。

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