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スタートライン~はじまりはこれから~  作者: 葵
死の後~はじまりはこれから~
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現世へ


『さあ 現世に行くぞおまえさん』

「え! あ え~ 行くってまさか、この冷蔵庫で現世に行くんじゃないよな?」

『この冷蔵庫で行かなかったらわざわざボタン押して床から出さんだろ』

「・・・・・え~マジかよ。夢壊れるわ~」

仙堂が想像していたように、アニメのような瞬間移動の夢は、儚く散った。

『おまえさんの夢など知らん。ほれ行くぞい』

『それとも行かんか?』

「いや行くけどさぁ~ はぁ~」

仙堂は現世への行き方があまりにもショックだったのか、背中が丸まり、長くて重い溜息を吐いた。

『なんじゃ 行くじゃったら、シャキッとせい シャキッとぉ!』

「う~ うん」

仙堂は老人に言われたように背筋をシャキッと伸ばしたが、あまりにもダメージが大きかったのか、ゆっくりまた、背中が丸まり始めた。

それを見ていた老人は、ちょっと仙堂がかわいそうに見えてきて、やさしい言葉をかけた。

『瞬間移動できなくて残念じゃったのう』


「よし 行こう!」

『はぁ~そうか』

老人がやさしい言葉をかけると同時に切り替えの早さが長所の仙堂は立ち直ってしまった。そんな仙堂の切り替えの早さにもう驚かなくなっている老人。

『それじゃ行くぞい』

「よし 行こう 行こう」

「冷蔵庫に入ればいんでしょ?」

『そうじゃ。じゃが、まずはわしが説明しながら先に入るからのう』

『しっかり見ておれ』

「そうか」

『まずは冷凍庫を開けるんじゃ』

見た目は一般家庭にもある冷蔵庫のようだ。冷蔵庫が上で、冷凍庫が下に設置されている。

『そして冷凍庫に入る』

老人はなんの躊躇もなく冷凍庫に入ったが、冷凍庫に入るという行動は現世では想像もつかないことである。

それを客観的に見ている仙堂は笑いを耐えるのに必死だった。

「ぷぷっ いけね」

『最後に冷蔵庫を開けると現世に行けるんじゃ』

『わかったかのう?』

「ぷ! わかった」

仙堂は冷凍庫に入っている老人がツボにハマってしまったようだ。

老人は冷凍庫に入るのが全然恥ずかしくないのか、全然照れている様子がない。

『じゃあ わしは先に現世に行っておるからのう。おまえさんもすぐに来るんじゃぞ』

「あ! 」

仙堂はあることに気付いた。

それは、次は自分が冷凍庫に入るハメになることを。


『現世で待っておるぞ』

「・・・・・・うん」

仙堂は一気にテンションが下がった。

本当に気持ちの浮き沈みが激しい男である。老人はそんな仙堂にはお構いなしに、現世と向うことにした。

老人は冷凍庫に足を入れたまま、冷蔵庫の扉をゆっくりと開けた。




すると、ゆっくり開いていく冷蔵庫の扉の隙間から太陽のような強い光が差し込んできた。しかしその光はとても暖かく、その光は、やさしく老人を包み込んでいった。

老人が冷蔵庫の扉を最後まで開けきると、冷蔵庫と冷凍庫の扉が一斉に閉まった。


扉が閉まった姿は、ただの冷蔵庫。

しかし、冷蔵庫は現世につながり、冷凍庫は生の世界へ戻るために存在する。

体は現世へ行き、足は生の世界に残る。

体と足を冷蔵庫と冷凍庫が閉まる際に切り離される。


老人が目の前で消えた いや 吸い込まれた現象を見た仙堂は目を丸くすることしかできなった。

「マジかよ!」

「・・・・じいさん?」

仙堂はまだ老人が現世に行ったのか、信用できないようで、周りを見渡したり、冷蔵庫を一周回って、老人の所在の有無を確認した。

「・・・・マ マジでいねぇー」

「てことは、本当に現世に行ったってことか?」

仙堂はない頭を使って考えた。

もしかして老人が自分をからかっているのではないか。

けれど周りを見渡しても老人は見当たらないし、老人がどこからか出て来る様子もない。

「・・・・・・」

「やっぱ 冷蔵庫入るしかないのか?」

老人が本当に現世に行った可能性が出てきたことで、仙堂は決心した。

「よし 入るか」

仙堂は少々の気合いを入れてから老人がやっていた手順で、冷蔵庫を開けた。


「まずは冷凍庫を開ける」

「そんで入る」

仙堂は冷凍庫に入ったが、冷凍庫に入っている光景は、やはり、第三者から仙堂を見ると滑稽である。

「ふ~ よし」

仙堂はゆっくり息を吐き、気合いを入れて冷蔵庫の扉をゆっくり開けた。

老人が冷凍庫の扉を開けた時と同様に太陽のような光が仙堂をやさしく包み込んでいった。

仙堂の体を包み込んだ光は妙になつかしく、幸せな気持ちになって自然と目を閉じた。


冷蔵庫に立っていた仙堂だが、目を閉じているからなのか、なぜか、体が光の中を浮いているよう感覚になった。

すると やさしい光が切ない程弱まっていくのが目を閉じている仙堂にも感じることができた。

弱まっていく光を不思議に思った仙堂は、ゆっくりと目を開けた。

「おわっ! えっ!」

冷蔵庫に立っていたはずの仙堂だが、目を開けると昔仙堂がお盆などに行った。

見覚えのある場所だった。

「・・・・・墓?」

そう 仙堂は墓の前にいた。

仙堂がお盆のときに自分の祖先を拝んでいた自分家の墓の前にいた。

「・・・そうか オレもここに入ったのかぁ~・・・・」

「ここにオレの骨、あるんだろうなぁ~」

仙堂はしみじみと自分が亡くなったことを実感した。


「でも なんで今オレ墓場にいんだ?」

『おまえさんの現世への入口じゃからじゃ』

「え?!」

老人の声が後ろから聞こえ、振り向く仙堂。

振り向くとそこには老人の姿があった。

生の世界で会ったばかりの見ず知らずの白髪の老人に会えて、なぜか老人が無事だとわかり、安堵した仙堂。

「じいさ~ん よかったぁ~。急に居なくなるから死んだのかと思ったよぉ~」

『わしらはもう死んでおるじゃろ』

仙堂は老人に無事に会えたことで、老人の安否が確認できて安心したが、老人は仙堂が心配していることなど関係なしに、仙堂に冷静にツッコミをいれた。

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