仙堂 一のはじまりはこれから
《現世 仙堂の実家》
夢は現実で起きたことの記憶を整理している。
ひとつの夢は複数の記憶の一部一部で構成されている。
だから不思議な夢や楽しい夢、悲しい夢へとなる。
夢は複数の記憶から構成される。
しかし、例外となる夢があった。
夢は記憶から作り出されているが、特例として、神様や守護霊からのメッセージを夢の中で伝える手段となっていた。
夢の中で、危険や幸福を知らせてくれる。
今回は神様の力で仙堂は母親に思いを伝える。
実家でいつもように布団で寝ている母親。
すると枕元に人影を感じ、母親は目を開けた。
目を開けるとそこには亡くなったはずの息子の姿があった。
[一?]
母親の目の前に透けている息子の名前を呼んだ。
「母さん・・・・」
「ごめんな・・・・・」
仙堂は悲しい顔で謝った。
[一・・・・]
「早く死んじゃってごめん・・・・」
「親孝行も恩返しもできなくてごめん・・・」
「親不幸な息子でごめんな・・・・」
仙堂は謝り続けた。
謝れるだけ謝った。
謝り続ける息子に母はやさしい言葉をかけた。
「ごめんごめんばかり言わないの」
「あんたは親よりも早く亡くなったバカ息子だけど、最後まで人助けをする」
「いい息子だよ」
母親は嬉しそうに笑ってくれた。
その笑顔が仙堂を包み込んだ。
母親にしかできない包容力。
子供を愛で包み込んでくれる。
人というのは、大切なものを失ってからその大切さに気付く。
仙堂も母親のやさしい愛が、心にしみた・・・・。
「本当にご・・・・ ありがとう・・・・・」
仙堂は謝るのをやめ、生きていた時は照れてできなかった、感謝の気持ちを伝えた。
[はい、ありがとう]
いつもやさしい母親。
「あっ! 体が!」
仙堂の体が消え始めてきた・・・。
[一!?]
息子の体が消え始め、心配する母親。
「時間がきたみたいだ」
[時間?]
仙堂は自分の体が消え始め、真面目な顔で母親に最後に伝えたいことを伝えた。
「母さん聞いて・・・」
「親孝行も恩返しもまだできてなかったね」
「生きている時にたくさんすればよかった・・・・」
「ごめん」
[そんなのいいよ]
[会いに来てくれてありがとう]
母親のやさしい言葉が仙堂の涙を誘った。
しかし仙堂は泣くのを我慢して思いを伝えた。
「・・・・だから、オレ守るから」
「母さんのこと守るから・・・・」
「そばにいるから・・・・」
「元気になってよ・・・・・」
「いつもの母さんに戻ってよ・・・・」
仙堂が思いを伝えている最中も、仙堂の体は消えてゆく。
「笑顔でいてね、母さん・・・・・」
仙堂の体が消えてゆく。
「母さん・・・・」
「ありがとう」
仙堂はこの言葉を最後に、涙目ではあるが、目一杯の笑顔で消えていった。
そこで母親の目が覚めた。
夢の中で再会した息子は、少し心も体も成長した姿で母親の前に現れた。
七年ぶりの息子、親にとってこんなに嬉しいことない。
[ありがとう]
「一・・・・]
母親に笑顔が戻った。
昔から変わらない、素敵な笑顔が。
《神様の部屋》
【どうでしたか?】
【あなたの思いを伝えることができましたか?】
「はい、ありがとうございます」
【そうですか】
【よかったです】
【最後の誓いを終えたあなたは、今から最初の誓いをして頂きます】
【いいですね?】
「はい」
【わかりました】
【今から誓って頂くのは、新たなスタートをきる誓いです】
【守護霊としての最初の誓いです】
【あなたの決意が、守護霊としての力になります】
【あなたは守護する人物の力になり、支えになることを誓いますか?】
「はい! 誓います」
「母をそばで見守り、支えになることを誓います」
「そばで見守り、生きていたときにはできなかった・・・・」
「恩返しがしたです!」
【・・・・・そうですか】
【あなたならきっと、素敵な守護霊になるでしょう】
【あなたの守護霊申請を認めます】
【頑張ってくださいね】
「ありがとうございます」
「頑張ります」
仙堂は守護霊になることができた。
決意の強さがあったから、守護霊になることができた。
母親への恩返しの気持ち。
生きていたときには伝えることのできなかった感謝の気持ち。
それらのすべての感情が、仙堂を守護霊と導いてくれた。
【今からあなた守護霊です】
【あなたは今から現世へと下りて、守護霊として新たなスタートをしてもらいます】
【心の準備はいいですね?】
「はい、お願いします」
神様は仙堂に手をかざし、念じ始めた。
【あなたが守護霊として力を発揮できますように】
神様の手のひらからまた、光の粒が現れ、仙堂の体を包み込んだ。
強い光が仙堂を包み込んで、仙堂は目を閉じた。
そうすると、仙堂の体が消え始めた。
ロウソクの火のように淡く、泡のように繊細に、ゆっくりと消え始めた。
消えゆく本人はとても幸せに包まれていた。
自分の体が消えてゆく感覚は、とても温かかった。
その温かさは、どこ懐かしく、どこか落ち着ける温かさ。
仙堂が眩しさに目を閉じた後、次に目を開けたときには、仙堂は現世にいた。




