アイ・デェー
「よし!」
「この親に決めた」
「そうだ じいさんに報告するんだった」
老人への報告を少し忘れていたが、無事に思い出して老人の元へと走って行った仙堂。
「じいさん! じいさん!」
『なんじゃ やっと見つけたか』
老人も少々仙堂の存在を忘れてしまっていた。
お互いがお互いを忘れる程、美人な母親探しに没頭していた仙堂。
「そう! だから早く申請の仕方教えてくれよ」
老人を急かす仙堂だったが老人はそれに動じず、話し始めた。
『そうか。じゃあモニターで申請するからのう。モニターに向かうかのう』
「じゃあモニターに早く行こうぜ。じいさん」
早く申請したい仙堂は早足でモニターに向った。
しかし老人はゆっくりと立ち上がって一、二回腰を叩いてからモニターに向かう。
モニターに着くなり、仙堂は自分の母親となる親のデータを再検索した。
「じいさん この人! この人!」
再検索したモニターを指差して、テンションが上がっている仙堂は老人に紹介した。
『この子で良いんじゃな?』
「いい。完璧!」
『そうか』
仙堂が興奮しているのとは裏腹に冷静な老人だったが、少々驚く事実があった。
『お! まだ誰にも申請されておらんのう』
「マジで!」
『ほれ、ポイントが付いてないじゃろ』
「本当だ!」
生まれ変わるには自身のポイントを申請しなければならないが、仙堂が決めた親はまだ誰にも申請せれていなかった。
「これって、生まれ変わりの候補者がまだ誰もいないってことだよな?」
『そうじゃな』
「ラッキーじゃん!」
『じゃがまだわからんぞ。おまえさんが申請してから他の者が申請するかも知れんからのう』
「大丈夫だって! ぜってぇ~競り勝つから」
仙堂は自信の表れなのか、笑顔を見せて老人に誓った。
『おまえさんの底知れぬ自信はどこから来るんじゃ』
老人は首を左右に振りながら、仙堂に訪ねた。
「・・・・・・わからない!」
自分の底知れない自信がどこから来るのか、真剣に考えたが、仙堂にもわからなかったようだ。
『・・・・・・まぁ~良い』
ため息混じりに仙堂の自信についての話を切り上げ、申請についての話に戻した老人。
『それより申請の仕方教えるが良いか?』
「よい よい 早く教えてくれよ」
『そうか じゃあまずは、おまえさんが申請できるようにおまえさんのアイ・デェーを登録するんじゃ』
「アイ・デェー? IDじゃね?」
仙堂は首を傾げながら老人に聞き直した。
『何が違うんじゃ?』
老人は純粋にアイ・デェ―とIDの違いがわからず、仙堂に聞き返した。
「あ~ ・・・・・そんなに違わないかな」どう老人に説明すればいいのかわからない仙堂はめんどくさくなって、訂正するのやめた。『じゃろう』
「う うん」
『ほれ アイ・デェーをモニターに入ろよのう』
「オレ アイ・デェーなんか知らねぇ~ぞ」
仙堂は老人にアイ・デェーとIDの違いについて説明しなかったせいで、これからの老人との会話はアイ・デェーで通すはめになった仙堂。
そして仙堂が自分のIDを知らないのも事実だった。
『おまえさんの紙に書いてあったじゃろ。ちゃんと見ておらんな』
「紙? ・・・・あ さっきのか」
初めの申請機から出て来た紙をポケットから取り出した仙堂。
「本当だ。オレのポイントの下に書いてあるこれか?」
紙には、自身のポイントが記載されている下に小さくIDが記載されていた。
小さくIDを記載することで他者から確認されないようになっている。
『それじゃ』
「じゃあこれをモニターに入れればいいんだな?」
『名前を入れてからアイ・デェーを入れるんじゃ』
「わかった」
仙堂がモニターを使って申請登録するために自分の名前を入力した。
【ポーン】
【あなたのIDをお入れ下さい】
「え~と 97368051・・・・・561 なげ!」
「こんな長いアイ・デェーにする必要あんのか?」
『当たり前じゃ。何人が亡くなって生まれ変わっておると思っておる』
「え!じゃあこの数字って生まれ変わった人数なのか!」
亡くなった人が無事に生まれ変わった人数が長いIDとなっていた。
【ポーン】
【IDを認証しました】
「できた!」
『それができたら、今度からは名前を入れるだけで良くなるんじゃ』
めずらしく老人ではなく仙堂が小さくため息を吐き、老人にどや顔を向けて言い放った。
「今度はないのだよじいさん~。なぜなら一発で生まれ変わってやるんだ オレ!」
『・・・・・そ そうか』
仙堂の自信満々のどや顔に少し引いてしまった老人。
「それで、次は?」
『次か 次は登録した名前を使って、ポイントを申請するんじゃ』
「ここでポイント使うのか」
仙堂がIDとなる名前をモニターに入力した。
【ポーン】
【生まれ変わりのポイント入力して下さい】
「よ~し! ここはど~んっと、オレのポイントを全額だ!」
『全額はやめておけのう』
「なんで?」
仙堂が豪快にポイントを申請しようとしたが、老人に冷静に止められた。
『おまえさんのポイント全額を申請した後で他の者が、おまえさんのポイントを上回る申請をされたら、おまえさんはお手上げじゃろ』
「・・・・そっか!」
「じゃあ半分ぐらいでいっか?」
何も考えてなかった仙堂は、簡単に老人の提案に従った。
『そうじゃのう半分で良いと思うぞ』
『それに、おまえさんがもし競り合いに負けても、おまえさんのポイントは生まれ変わるまで減らないから安心せい』
「え! 減らないの!?」
『あー 減らない』
『ポイントはここでの通貨のようなものじゃ。じゃが、ポイントは前世での功績の数じゃ』
『前世の功績は来世のためだけに使われるんじゃ』
「そうなのか」
「でも大丈夫だ じいさん!」
「オレは絶対負けねぇーから!」
『・・・う うん』
『そうじゃった そうじゃった』
もう仙堂の自信満々発言を流すことに決めた老人。
「よし じゃあポイント入力っすっかな」
仙堂は老人に自分の自信を流されたことを気付く訳もなく、自分のポイントを半分モニターに入力した。