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スタートライン~はじまりはこれから~  作者: 葵
仙堂 一という男の人生
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最後の日


《仙堂が成長を誓い 三か月が経過した》 


仙堂はあることが気になっていた。

それは彼女と別れてからの三回目のカレンダーをはがした時に気がついたことだった。

カレンダーの日付にひとつ赤い丸が付いていた。

仙堂はその丸の意味がよくわからなかった。彼女が付けたのだからふたりに意味がある日にちなのだろう。

初めてデートした日だっただろうか?

それともオレが彼女に告白した日だったろうか?

いや どれも違う。

この赤い丸はいったいなんの記念日だっただろう・・・。

仙堂がこの赤い丸のついた記念日に気付いたのは、赤い丸の一日前だった。

そう 仙堂にとって最大で最後の後悔の日だった。




《最後の日》


仙堂が赤い丸に気付き、なんの記念日だったのかを考えて十六日が経過していた。

未だになんの記念日だったか仙堂はまだ思い出せなかった。

記念日を思い出してからといって彼女との復縁は望めない。

望めないくらいの別れ方をしてしまった・・・。

けれど仙堂は思い出しかった。

彼女がカレンダーに赤い丸をつけて楽しみしてくれていた記念日なのだから。

自分が覚えていないのは申し訳ない。

仙堂は考えた どんな記念日だったのか

どんな思い出の日なのか 考えた・・・。

でもいくら考えても思い出せなかった・・・。

思い出せないのは自分が記念日に興味がないからなのか。


仙堂は記念日に気を付けていたつもりだった。

彼女にプレゼントを贈ることは忘れないようにしていた。

赤い丸の日のこと考えていると仕事に行く時間が近づいていた。

「あ! やべっ!」

仙堂は焦りながら仕事の身支度をして外へと飛び出し、急いでいつもの電車に乗り込んだ。

いつもの電車に乗ってからは落ち着いてどんな記念日だったのかまた考え始めた。

赤い丸の一日前 仙堂が思い出す時間も残りわずかになっていた。

電車では思い出せなかった仙堂は、会社までを歩いて向かう最中も考えていた。

「なんの記念日なんだ・・・?」

「なにも思い出せねぇ」

仙堂はなにも思い出せなかった。

なにも思い出せないままあの横断歩道の前に来てしまった。

仙堂の人生の道のおわりを告げる横断歩道に・・・。


人生の道の終着点となる横断歩道。

仙堂にとっていつも日常のはずだった。

仕事の行き帰りに通る横断歩道。

しかし 今日は違った・・・。

仙堂は赤い丸の記念日について考えていると 横断歩道の信号が赤へと変わろうとしていた。

急げば渡れそうであったが、記念日を考える時間が欲しかったため、仙堂は横断歩道の前で止まった。

すると 仙堂の横を小さな影を走り去っていった。

小さな男の子が横断歩道を渡ろうとしていた。しかし 

今のタイミングでは途中で信号が赤になってしまう。

あきらかに危険 あきらかにひとり走っている男の子。

仙堂は咄嗟に男の子を助けに向かった。

仙堂は勇敢の方ではない。

どちらかというと臆病の方だ。

物事は考えてから行動に起こすタイプである。

石橋を叩き過ぎて割ってしまうほどの臆病で慎重な男。


いつもの仙堂ならどうして良いのか判断し、行動するだろう。

しかし仙堂は赤い丸の記念日について考えていたため、そちらの方に頭を使っていたからなのか仙堂は咄嗟に飛びだした。

もちろん命の危機 助けない方がおかしい。

けれどどうだろう瞬時に体は動くだろうか?

命の危機とはいえ、躊躇が体を鈍くするはず。

だが仙堂は、赤い丸の記念日に頭の使用していたとはいえ躊躇なく、男の子を助けに行けたのだ。

仙堂は無我夢中で走った。 

無我夢中で男の子を助けに行った結果・・・・・・仙堂の目の前に青い空があった。




横断歩道の青信号が点滅し、赤へと変わろうとしていた。 

男の子は信号など関係なく前だけを見て走る。

信号が赤へと変わった。

車道の信号は青へと変わり車が発進した。

車道の先頭のトラックは、男の子の姿が見えないまま車を進めた。

仙堂が横断歩道へと走る。

トラックのスピードが加速する。 

そこで仙堂の姿をトラックの運転手の目に入る。

運転手は急ブレーキを踏んだ。  

車は急には止まれない・・・ 

大きなブレーキ音が響いた後 人が車に当たる鈍い音がした。


仙堂は宙へと飛んだ・・・・・・

人はこうも簡単に宙を舞うのかというくらい  人は脆く儚い。

仙堂の中では宙に舞ってからスローモーションに感じていた。

ゆっくりと宙を舞い、ゆっくりと地面に落ちた・・・・・・。

もう地面に落ちた痛みは感じなかった。  

痛みなど感じない程トラックに体を強く打ちつけていた。

仙堂の体はもう動かなかった。

仙堂は空を見上げながら倒れている。

目がどんどん霞む耳も聞こえなくなってきた。


仙堂は霞む目を閉じ、耳を澄ませた。

すると事故を目撃した野次馬達の声の中に男の子の名前らしき名前を何度も叫ぶ声が聞こえた。

仙堂は耳を澄ませた。自分が助けようとした男の子の安否が知りたくて。

[翔太! 翔太!  翔太・・・・・]

野次馬をかき分けて子供の名前を叫ぶ声が止まった。

[・・・・・翔太!]

男の子を強く抱きしめる女性。

男の子は仙堂に背中を押され横断歩道を渡りきっていた。


仙堂は男の子を助けることができた。

仙堂は安堵した。

霞む目を開け、男の子を視界に入れようとした。

けれどもう仙堂の首は動かない。 

指一本さえ動かせなかった。

仙堂は確信した・・・ 

もう自分の人生の終止符が迫っていることに。

人は自分の命の火が消えようとしているとき 走馬灯の火が灯る。


人生の道でターニングポイント 心に残る思い出を映し出す。

はじめに仙堂の目の前に映し出されたのは保育園での父親という存在を知った衝撃の映像だった。

そして次に映し出されたのは祖父との再会。

祖父に抱きしめられて感じた心まで温かくなるやさしさ。

心が温かくなった次の思い出は父親とのはじめての再会。

心の温かさではなく、心が締めつけられる思い出。

そして最後の仙堂の思い出は、彼女との思い出だった。

彼女といて楽しかった思い出やケンカした思い出。

別れてしまった悲しさ。  

この思い出を最後に、仙堂の走馬灯の火がゆっくり小さくなって。

仙堂はゆっくり目を閉じた。


仙堂の悲しい事故の野次馬達の誰かが、救急車を呼んでくれたようで遠くの方から救急車のサイレン音が聞こえた。

救急車のサイレン音が近づいてくるにつれ仙堂の意識が遠くなっていった・・・。

『大丈夫ですか!』

救急車が到着し、仙堂の意識確認をした救急隊員。

『意識確認しました』

『急ぎましょう!』

仙堂は救急隊員が救急車へと運ばれ、緊急搬送された。

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