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スタートライン~はじまりはこれから~  作者: 葵
仙堂 一という男の人生
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33/44

父親


《祖父が入院している病院》


仙堂は二度目となる父親との再会をする。

夢で出会えたことはとても嬉しかった。

しかし今回は違った。

不安と恐怖しかない。

夢で出会った父親の顔。

目を閉じたときに思い浮かぶ父親の顔と十五年間生きてきて初めて会う父親の顔。

仙堂が夢をみたのは小学校高学年のとき。 

夢の中では仙堂はしゃべれない程の子供だった。

自ずと仙堂が夢でみた父親の顔からも十五年の月日が流れていることになる。

十五年・・・それは仙堂の心と体の成長と共に、父親の老化していることを示した。

仙堂は怖かった。

自分が思い描く父親を顔が壊されるようで・・・。


仙堂は逃げ出したかった。 


けれど逃げ出す勇気も力もなかった。

ここで逃げ出したらいけないこともわかっていた。


わかっているからこそ逃げ出したい。

わかっているということはとても残酷である。


ドクン! ドクン!

仙堂の鼓動は最高到達点を超えてしまった。


ドクン・・・ ドクン!


病院に入ってから母親が父親と公衆電話で話すまで。

ずっと放心状態の仙堂。

気持ちここにあらず、頭の処理能力をはるかに超えている。 

今起きているひとつひとつにおける自分の気持ちがわからない状態が続いた。

処理能力が追いつかない仙堂の頭はパンク寸前、心も壊れる寸前だった。

そんなエラー尽くしの出来事。 

もう限界に近い仙堂の前にあの人が現れた・・・。


〔元気だったか?〕

男性の声が聞こえた。 

声を掛けられ確信しつつも仙堂はゆっくりと振り向いた。

そこには仙堂にとって壁であり、越えなければならない人物がいた。 

父親が病院に来てしまった・・・。

父親は子供達の壁でなければいけない。

父親の背中を見て子供は大きくなる。

そして身長や力などすべてのものが父親より上回り、父親を越えていく。


しかし仙堂の場合は父親の壁を越えるの意味が違う。

父親という存在を受け入れることが壁なのだ。

十五年間会ったことのない父親。

母親と姉が昔話をしていても仙堂はその輪の中には入れない。

昔の記憶などないに等しいのだから。

初めて会った人があなたのお母さんです。お父さんですと言われて【はい そうですか】となる人は余りいないだろう。


戸惑い、困惑がつきまわる。

祖父にはじめて出会った時も戸惑い、困惑した。

今回父親と会うことは、以前祖父と出会ったときよりも戸惑い、困惑は増している。

父親の背中を見て育っていない仙堂。 

どういう気持ちでどう父親を見たらいいのかわからない。


祖父とはじめて会った時は祖父とは知らず、祖父として出会ってなかったが、今回は違う。

父親が来るとわかっているのだ。

ましてやもう来ているのだ。

仙堂にはもう逃げ場はない。

「・・・・・」

〔元気だったか〕

〔大きくなったなぁ〕

「・・・・・」

仙堂は父親の問いに答える余裕がなく、首を縦に振るので精一杯だった。


仙堂が小さく頷いたのを確認した後父親は姉に話し始めた。

姉は仙堂よりも落ち着いているのか父親と会話をしていた。

姉は幼いとはいえ父親と暮らした記憶も顔も覚えているから父親と話せたのだろう。

姉も両親が離婚してからはじめて会う父親にちょっと緊張しているのも事実でだった。

姉も恐る恐る父親と会話をしていた。

姉との会話を終えると父親は母親と話し始めた。 

〔元気だったか?〕

父親は仙堂達に気さくに声をかけてくるが、父親と仙堂達の温度がかなり違っていた。

父親は三人に会えたことを嬉しく思っていた。

しかし仙堂は放心状態。

姉は久しぶりに会った父親の少し冷めきっていた。

大きくなった姉にはもう父親の重要性はなかった。

母親はとにかく父親に会いたくなかった。

会いたくないから離婚したのである。

父親が姉や母親と会話しているのをボーっと見ている仙堂。

どこか他人事のようで、なにかあきらめてしまった仙堂・・・。

男の人がしゃべっている・・・ 

「あ・・・ 母さんが答えた」

男の人が老人に話かけた・・・

「あ・・・ 老人が答えた・・・」

「あ・・・ あ・・・」

棒読みの心の声。


他人事。

ギリギリ母親は認識しているが、父親と祖父はただの男性と老人と認識になってしまっていた。

仙堂は無になった。

もう限界だった・・・ 無にならないと自分が壊れてしまいそうで。

〔どうした? 元気ないな〕

無になっていた仙堂に父親が話しかけた。

「え・・・!」

無になっていた仙堂は、父親に話しかけられ 現実へと戻ってきた。

決して逃げ出してはいけない現実に・・・

仙堂は一気に現実に戻されいくつもの現実の波が仙堂に押し寄せた。


【今日はじめ父親に会ったこと】

【はじめて祖母に会って、母親との仲の悪さを実感こと】

【母親を苦労された男が目の前にいること】

【十五年間出会ったことのない父親】

【父親に会って感じた表せないこの気持ち・・・】

「・・・・・」

無になっていた仙堂は父親に話しかけえられ 不意の出来事に黙り込んでしまった仙堂。

黙り込んでしまった仙堂に父親、祖父、祖母の目線が一斉に仙堂に向けられた。


ドクン! ドクン!


仙堂の鼓動がまた動きだした。

また仙堂に息苦しさが戻ってきた。

父親達の目線が痛い・・・。

なにか言わなければならないのか・・・。

なにも思い浮かばない。 


今仙堂は父親に自分がなにを言われたのかもわかっていなかった。

一斉に向けられ父親達の目線。

仙堂はどうしていいものか判断できずにいた。

それは仙堂が判断できない程バカということではない。

仙堂はバカではあるが、十五年生きていた知恵はある。

起きたことに対処できる力はあった。

しかし父親、そして祖父祖母の前ということが、対処能力を著しく下げていた。


「・・・・そ そんなことないです・・・・」

なにを言われたかわからないが、仙堂は必死に否定した。

〔そうか よかった〕

父親は仙堂の答えを聞き、母親との会話に戻った。

仙堂は不意の出来事をのり越えて安堵した。

仙堂は父親の問いの答えた後少し落ち着きを取り戻しつつあった。

父親の問いかけに答えて父親と母親の会話を見ている仙堂。


ふとあることを考えてしまった。

それははじめて見た両親の会話についてだった。

普通の家族なら見慣れた風景が仙堂の目の前にあった。

「家族ってこうやって話すんだ」

「家族?」

「そうだ 十五年間ではじめて揃った家族」

「・・・・けれど この人が本当にオレの父さん・・・」

「もっと・・・父さんがしっかりしていれば 離婚してなかったのかな?・・・」

「だけどこの人はオレの成長を喜んでくれていた・・・」

「はじめて会った息子の成長を喜んでくれた」

「この人がオレのお父さん・・・・」

先程とは違い感情のある心の声。

やはりこの人が自分の父親と実感することになったとき。

仙堂の体温は急上昇していた。


体が熱くなっていった。

体の隅々まで血が巡っているのがわかった。頭から足の先まで血が巡り、どんどん仙堂の体温を上げっていった。


感情という感情が溢れだして仙堂の体に異変が起きた。

仙堂の頬に一粒の涙が伝った。

無意識に流れた一粒の涙。

自分から流れ落ちた一粒の涙を認識した仙堂。

涙を見た瞬間、心のコントロールができなっていった。

無意識の涙を見た瞬間から仙堂の涙は止まることはなかった・・・

仙堂は自分がどうして泣いているのかがわからなかった。

悔しくて泣いているのか。

楽しくて泣いているのか。

嬉しくて泣いているのか。 

悲しくて泣いているのか。

辛くて泣いているのか。 

幸せで泣いているのか。

無意識に流れた涙。

きっとどれかの感情に当てはまるのだろう。


けれど仙堂にはどの感情が涙になっているのかわからない。

どの感情で泣いているのかを考えようとするたび涙が邪魔をした。

父親達はいきなり泣いてしまった仙堂に驚いたようだ。

〔どうした? どうして泣いているんだい?〕

父親は仙堂がどうしてなのかわからないようだった。

仙堂自身もどうして泣いているのかわからない・・・・・・


十五年間一緒に暮らしている母親と姉は仙堂の涙の意味を理解してくれているようで、ふたりの目にも涙が見えた。  

そんなふたりの涙と父親の鈍感さにまた涙が溢れた。


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