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スタートライン~はじまりはこれから~  作者: 葵
仙堂 一という男の人生
30/44

試練


《仙堂が十五歳の夏》


仙堂が中学三年生となり、中学生最後の夏休みが始まったあの夏。

中学生になった仙堂は成長した。

力のつき、身長も伸びた。

身長は母親の身長を優に越えてふざけて母親をおんぶできるまで力がついた。

これで母親の介護は安心だと思うちょっと気の早い仙堂。

そんな仙堂にひとつ試練が待っていた夏休みでもあった。

中学生最後の夏休みではあるが、いつもと変わらない夏休みを過ごしていた仙堂。

あの手紙が届くまでは・・・・


なにも変わらない朝。 

いつもと変わらず、寝ぐせをつけた仙堂が二階から起きてきた。

すると一枚の手紙を持った母親の姿があった。

一枚の手紙を見つめる母親。 

「誰から来たの?」

寝ぐせを直しながら宛名の聞いた仙堂。


[・・・・・]

母親はなにも言わなかった。

「ん? なに 誰から来たの?」

仙堂はもう一度宛名を聞いた。

後にもう一度聞いたことを後悔することになるとは知らずに。

母親は二回目の仙堂の問いかけに重い口を開いた。

[・・・・お父さんからよ]

「・・・・」

今度は仙堂が黙り込んでしまった。

父親からの手紙。


父親から届いた手紙にはこう書かれていた。

【祖父が倒れました】

父親から届いた初めての手紙。

母親は父親からの手紙が来たことに戸惑い。

祖父が倒れたという事実に動揺した。 

[おじいちゃんが倒れたんだって・・・]

手紙の内容を仙堂に伝えた母親。

「・・・・」

仙堂はなにも言わなかった。 

言えなかったの方が正しいかもしれない。

小学三年生 九歳の時に会った祖父。 

生後二ヶ月までは一緒に暮らした祖父。 

祖父と暮らした記憶は仙堂にはなく、仙堂一として十五年生きてきた中で、祖父の記憶は 小学三年生のときに抱きしめられた。

あの記憶しか残っていない。


仙堂は祖父が倒れたことを心配した。

けれど自分が祖父を心配する度合に自分で自分に疑問をもった。

心に感じた心配の度合。

もちろん心配していない訳ではない。

心配はしているが、もし今一緒に暮らしている母親の方の祖父が倒れてしまったとしたら もっと動揺し、心配する気がした。 

それは一度しか会ったことのない祖父だからなのか・・・。

もしくは一度しか会ったことのない祖父は、他人が倒れたときに心配するのと同じ心配度合なのか・・・。

わからない・・・

自分の気持ちなのにわからない。 

仙堂の心の古傷がまた疼き始めた。


心が痛い・・・


父親がいないという心の傷を十五年かけて埋めてきたのに。

父親の手紙でまた 心の痛みを思いだしてしまった。


仙堂と母親と姉の三人で祖父の見舞いに行くことになった。

母親の仕事の都合もあり、すぐには見舞いには行けず、その間心の整理をした仙堂。




《数日後》


[明日おじいちゃんのお見舞い行くよ いい?]

母親の休みがとれ、明日祖父の見舞いに行くことになった。

「・・・うん」

仙堂はまだ心の準備が出来ていなかった。

祖父の見舞いに行くそれは同時に父親に会うことも意味していた。

父親に会うのは仙堂にとって恐怖と不安でしかなかった。


十五年一度も会ったことのない父親。

いずれ会わなければならないと思っていた。 

父親が亡くなる前に。

けれどその勇気は今の仙堂にはなく、ずるずると先延ばしになっていた。

抱きしめてくれた祖父が倒れ見舞いに行く。

これは運命なのかもしれない。

仙堂はそう感じた。




《翌日》


仙堂達は電車に乗って父親の地元へと向かった。

電車の中で仙堂は初めて会ったときの祖父の顔を思い浮かべていた。

初めて会ったときの驚きや初めて抱きしめられた温かさを思い出していた。

短い時間の思い出は時間にしてたった三時間程。

けれど仙堂にとってはひとつしかない祖父との大切な思い出。

そんな祖父が今病院のベットで寝ていることを想像するとなにか切なくなった。

祖父の病状がなるべく軽いことを願った。

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