初めて会った老人からの
仙堂は納得した。
納得したからこそ、母親を困らせているこの老人に敵対心がうまれた。
母親の力になりたい仙堂。
母親に迷惑をかけている老人が憎くなり始めた。
仙堂が心の中で分析、整理、推理を続けた。
なんなんだ この老人は。
そのことを考え始めた仙堂に思わぬ出来事が起きた。
母親に驚いた表情で、なにかを確認した老人は、仙堂の心を戸惑わせる行動を起こした。
老人が仙堂に近付いた。
「えっ!」
いきなり近付かれ思わず声が出てしまった仙堂。
『立ってくれるかな?』
老人は仙堂に立つよう願った。
不意の出来事に戸惑う仙堂。
立つか立たないか迷っていると、仙堂の近くに居た祖母が立つように言った。
祖母に言われるがまま立った仙堂。
まだ老人への敵対心は変わらない。
仙堂が立つと老人は、老人自身の身長と小学三年生になった仙堂の身長を見比べた。
仙堂は老人の行動が意味不明だった。
見ず知らずの老人と身長を比べても、なんの意味をなさないからだ。
早くこの時間が終わらないかと思う仙堂。
早く ・・・早く ・・・・早く 早く!
仙堂が見ず知らずの老人との身長の比べが、早く終われという思いが限界に達した瞬間。
仙堂を強く抱きしめた老人。
いきなり抱きしめられた仙堂は動くことができなかった。
どうしたらいいのかわからない。
それもそうだろう。
見ず知らずの老人に抱きしめられているのだから。
振りほどくこともできなかった。
なぜなら老人は仙堂を抱きしめながら涙を流していた。
意味はわからないが、泣いている老人を振りほどくことができなかった仙堂。
いきなりのことにどうして良いのわからない仙堂は母親に助けを求めるために目を向けた。
すると 母親もなぜか涙目になっている姿が仙堂の目に映った。
仙堂は母の涙と老人の涙でなにかを感じた。なにを感じたのかを口で表すには、まだ仙堂は幼すぎた。
けれど 老人に抱きしめら、体が温かくなり、心も温かくなったことは今の仙堂でもわかった。
心の温かさ 心がほっこりとした感覚。
この心の温かさは、誰に抱きしめられても感じることはない。
相手の心の温かさが自分にも伝わっている感覚。
純粋に抱きしめられて嫌ではない。
むしろなぜか 安心する感覚。
そんな素敵な感覚が、見ず知らずの老人から感じとれた仙堂。
「・・・・・」
言葉には表せなかった。
仙堂の心の中での分析、整理、推理は、今は思考停止していた。
どうして老人はこんなにもやさしく、温かく包み込んでくれているのだろう。
どうして温かい気持ちになるのだろう。
どうして・・・・ どうして・・・・
老人は仙堂から離れてもまだ泣いている。
老人は仙堂を抱きしめた後、また母親と話し始めた。
不意な出来事に小学三年生の仙堂はお腹が痛くなった。
よく小さい頃、嫌なことや苦手なことが近付くと急にお腹が痛くなった経験はないだろうか?
仙堂の場合は、不意な出来事に心も体も混乱し、腹痛になってしまったのだ。
母親と老人が話し始め、自分がトイレに向かってもいいか状況を確認して。
仙堂はトイレへと向かった。
トイレに向かった仙堂は、少し放心状態だった。
まだなにが起きたのか理解できていなかった。
「・・・・・・」
仙堂はトイレの中で少しずつ頭と心の整理を始めた。
「ふぅ~」
仙堂はゆっくりと息を吐き、心を落ち着かせた。
仙堂は考えたトイレの中で。
まずはじめに老人が玄関に立っていたときの家族の空気感。
みんなが凍りついたあの感じ、老人には会いたくないようだった。
それに老人とは家族みんな知りあいようだった。
けれど老人に対する距離感が遠かった。
あと一番の問題は、老人がオレを抱きしめたこと・・・・・・
オレは初めて会った老人だったが、老人はオレのことを知っているようだ。
なぜだ?!
それに・・・・・・




