腕時計の秘密 その4
翔太の母親はなんとも言えない表情で、仙堂の墓を拝んでいた。
[翔太 しっかりお礼した?]
[翔太が大人になってもちゃんと墓参りに来るんだよ]
[翔太はお兄さんのおかげで助かったんだよ。お兄さんの分まで長生きしようね]
翔太はまだ幼いが、なにかを感じているようだった。
[帰ろうか 翔太]
翔太と母親は仙堂の墓参りを終え、自宅へ帰ることにした。
仙堂もまだこの親子が気になり、親子のあとをついて行った。
親子が新築の家についた。
新しく建てたばかりの一軒屋。
仙堂が翔太を助けたあの日 新築が完成した日だった。
新しい家を早く見たい。
ウキウキした気持ちで渡った横断歩道。
親よりも早く渡ってしまった横断歩道。
誰があんな事故が起きると思ったか。
青信号の横断歩道を渡る我が息子。
今思えば、いくら息子がはしゃいでいたとしても一人で横断歩道を渡らすべきではなかった。
あんな事故が起きるのなら・・・・
息子は助かった 勇敢な青年のおかげで。
言葉には表せないほど 感謝している。
私達家族の恩人。
そんなことを考えていると翔太と母親は新築の家に着いた。
新築に着くと父親が新築を背景に記念撮影の準備をしていた。
『あ おかえり』
『どうだった 検診は?』
[うん 大丈夫]
[あと墓参りをして来たよ]
『そうか・・・』
『墓参り俺も行けばよかったね』
仙堂は本当にこの家族から感謝されていた。
しかし仙堂は素直には喜べなかった。
まだ自分の命を亡くしてしまった辛さの方が勝っていた。
本当に自分の命を犠牲にしてまでの助けるべきだったのか。
それを知るために仙堂はまだ、この家族を見ていた。
仙堂が見ていることなどわからない家族は笑顔で記念写真を撮った。
家族みんなが笑顔の写真。
誰が見ても幸せいっぱいの家族に見えるが、仙堂だけは違った。
仙堂は知ってしまった・・・・・・
この家族に訪れる悲しい未来が待っていることに。
なぜ仙堂が知っているのか。
それは腕時計にあった。
生の世界の腕時計 現世とはかなり違う使い方。
時を刻む腕時計 生の世界の腕時計は情報を受信するもの。
腕時計に縦に並んだ三つのボタンがある。
一番上のボタンは現世に下りるボタンでもあり、現世に下りた後は親となる者の現在地に行くことができるボタンでもある。
一番下のボタンは現世にいるときに使用可能。
生の世界へと戻るためのボタン。
現世に来て、親となる者を幽霊となって観察する。
幽霊にもいろんな種類がある。
数ある幽霊の中で守護霊として親を観察する。
守護霊とは人に付き、人を守る霊のことである。
しかしそれは、現世にいる者の考え。
守護霊とは簡単に言えば人を守る霊ということは間違ってはいない。
人を守ると言うことは生まれ変わりを諦め、おのれが認めた者が寿命をまっとうするまで守護霊として生きるこという。
生の世界に来た者は、守護霊になるために現世に下りるものはあまりいない。
ほとんどの者がおのれの親を探すために現世に下りる。
しかし 親を探している最中に、守護霊として生きることを決める者が稀にいる。
自分の意思で守護霊になり、自分の意思で人を守ることを決める。
単に守護霊と言っても、すぐに人を守る幽霊になる訳ではない。
生まれ変わりや守護霊になることを決めたとしても、もう一度生の世界に戻らなければならない。
そのためにある一番下のボタン。
そして真ん中のボタン。
このボタンがあったから仙堂は知ってしまった。
笑顔いっぱいで幸せ家族に見えるこの家族に。
悲しい未来が待っていることに・・・。
家庭内の事情がわかるボタン。
この幸せそうな家族はバラバラになる。
離婚するのだ。
こんな幸せそうに見える家庭に、両親の愛に 亀裂が生じる。




