生の世界とは
『生まれ変わると言っても、おまえさんの記憶などは覚えてないぞ』
『おまえさんは魂となり、また新しい人生が始まるんじゃ』
「オレの記憶ないのか」
仙堂はそんなに記憶の移行を重要視はしていなかったが、記憶の消失の事実を説明されて少し残念な気持ちになり、肩を落とした。
『当たり前じゃろ』
『おまえさんは生まれたときの記憶あるのかのう?』
「・・・・ない」
仙堂は少しまじめに考えた後で、自分に生まれる前の記憶がないことに気付いた。
自分に生まれる前の記憶があるかないかは考えなくてわかりそうなものである。
仙堂は少々バカなのかも知れない。
『じゃろう。正確に言うと言葉を話すようになる前までは覚えているそうじゃ よくわからんが』
「よくわからねぇーのかよ!」
『わしじゃって、ここにおるから詳しくわかるわけなかろう』
『ここに長いことおると、いろいろと噂を耳にするんじゃ』
「長いこと? 長いことって、簡単に生まれ変われることはできないのか、じいさん?」
『そういうことではない。簡単ではないが、すぐにでも生まれ変わることはできるぞ』
「じゃあなんで、じいさんはすぐに生まれ変わらないんだ?」
『わしか。わしはある人を待っているんじゃ』
「それで扉の前に座ってたのか」
『そうじゃ』
「へ~ 誰待ってんの?」
『わ わしのことはよい。それよりおまえさん、早くそこにある申請機におまえさんの生年月日などを入れて来いのう』
何かを隠した老人は、仙堂の注意を申請機に向けた。
「申請機?」
周りを見渡す仙堂。
周りには白い壁 白い地面などの白い空間に、白いがこの世界にありえな物があった。
「あ あれか?」
真っ白な空間の中に異様過ぎる機械が存在した。
それは現世にあるATMのような機械で、現世とはちょっと形が違った。
その白い機械は円柱型の形をしている。
円柱型の機械は斜めに切られてあり、遠目で見ると竹を切ったような円柱型にも見えるが、竹よりは太く、白い機械のため、斜めに切られたロールケーキを立てた形に似ていた。
『あれじゃ』
「わ わかった。行ってくる」
仙堂は不自然な機械の存在に戸惑いながらも申請機に歩いて向かうことにした。
この世界は無重力とまでいかないが、浮いているようにも見えて、ゆっくりと歩いて行く仙堂。
空間自体も狭くもなく、広くもない不思議な空間。
機械の前に着いた仙堂
【生まれ変わりおめでとうございます】
【あなたのお名前・生年月日・入力して下さい】
「え~っと 名前は」 ポチッ
「生年月日は~」 ポチッ
【ポーン】
【申請 ありがとうございます】
【申請は無事終了しました】
【ポーン】
「あ 紙出てきた」
自分の個人情報を白い円柱型に入力したら白い紙が出てきた。
紙には数字が書かれてあった。
『申請できたかのう?』
仙堂が申請を終えたことを遅れて後ろから来た老人が声をかけた。
「できたぞ。これ」
出て来た紙を老人に渡した。
『なんじゃ。ポイント少ないのう』
『前世であまり良いことしてないじゃろ』
「うるせぇーよ。生まれ変わるのに必要ってわかってたらもっと人助けでも何でもやってたさ」
『あとこの紙は自分以外には見せんほうが良いぞ』
「先言えよ! じいさん見んなよ!」
慌てて老人から紙を取り返す仙堂。
『おまえさんが見せて来たのだろう』
「そんなの知らないから見せたに決まってんだろ」
『まあ安心せい。わしはおまえさんのポイントになど興味ないからのう』
『じゃが、この世界ではポイントが生まれ変わるのに必要不可欠なんじゃ』
『もし他の誰かと、生まれ変わりを競り合ったときに相手におまえさんのポイントが知られておれば、おまえさんにとってはかなり不利だからのう』
「競り合う?」
『そうか まだ詳しくこの世界について説明してなかったのう』
生まれ変わりについては説明してあったが、どう生まれるかについてはまだ説明していなかったことに気付いた老人。
『まぁ 説明せんとも、この世界におれば徐々にわかることじゃが』
「いや、説明してくれ」
「・・・・・あ 説明して下さい」
『そうか』
説明してくれと命令口調で言ったことをまた注意されると仙堂は思い、慌てて下さいを付けて言い直したが、老人は仙堂の言葉使いには全然気づいていなかった。
『この世界は生の世界なんじゃ。待合室と言ったが何を待つかと言うとじゃな 親を待つんじゃ』
「親?」
『そうじゃ』
『おまえさんも前世で親に向かって、産んでくれなど頼んでないとか言ったことあるじゃろ』
「ある!」
自信満々にあると答えた仙堂。
『だろ~のう。じゃが、この世界では親を待つ。自分自身で親を決めておるのじゃ』
『おまえさんがおまえさんの親の下に生まれて来たのも、おまえさん自身で決めたことなんじゃ』
「オレが自分の意思で親を決めたのか」
『そうなんじゃ』
『そして親の情報 データはなぁ~』
『ほれ、あれに映るんじゃ』
老人は白い部屋の中央を指差した。
その方向には大きなモニターがあった。
モニターは裏表から見えるように透明になっている。
「デカ! あれ?でもさっきまであんなでかいモニターなかったぞ?」
この世界には申請機以外何も存在しないと思っていた仙堂は不思議でしかなかった。
『見たいときに見れんじゃよ』
老人から実に簡単な回答が返ってきた。
「は~ 便利だなぁ~」
現世でもそんなテレビがあったらよかったなぁ~と思った仙堂。
『おまえさんはすぐにでも生まれ変わりたいのかのう?』
「いや すぐに生まれ変わらなくてもいいけど、金持ちのとこに生まれてぇ」
『無理じゃ』
「・・・は!?」
即答で老人に否定された。
『おまえさんのポイントじゃ絶対無理じゃ』
「いやいや人生において絶対なんてないんだよ。じいさん!」
今オレ死んでるけどと内心思いながら、根拠のない自信を老人に堂々と伝えた。
『それはそうじゃが、ポイントが少な過ぎるのじゃ』
『おまえさんが本当に金持ちの子供になりたいのなら、この世界で会った縁で協力してやりたいのじゃが・・・・・』
「じゃあ協力してくれよ。やって見ないとわからないだろ」
老人のいきなりの否定に慌てて肯定する仙堂。
『う~ん』
『しょうがないのう。少しモニターで調べてみようかのう』
老人は中央にある大きなモニターを使い、親の情報を調べ始めた。
大きなモニターにタッチするとモニターが起動し、老人は巧みに操作して仙堂に問いかけた。
『どうじゃ おまえさんの気になった情報あったかのう?』
老人は金銭面的に裕福な家庭の一覧表をモニターに表示して仙堂に見せた。
モニターの一覧表に目を通していた仙堂は、ある箇所に目が止まった。
「そうだなぁ~ ・・・・あれ?」
「じいさん このすべての情報にあるポイントはなんなんだ?」
モニターには親についての情報として、氏名・年齢・家族構成・収入・家庭内の事情・顔写真が記載されている。
『このポイントか? このポイントはじゃなぁ~、公認者候補なんじゃ』
「・・・・・・」
「はぁー なるほどなぁー コウニンシャ コウホかぁー なるほど。」
『意味わかってなかろう。おまえさん・・・』
「な! なに言ってんだよ。それぐらいわかるに決まってるだろ!」
「コウニンシャ コウホだろ」
先程も説明したが、やはり仙堂は頭のネジは少々足りないようだ。
老人は仙堂を気遣い言葉をかけた。
『無理せんでえ~わい』
「全然わかりません」
小さくうなだれて、素直に白状した仙堂。
『仕方ないのう』
仙堂の常識の無さにあきれる老人。
『公認者候補とはつまり、生まれ変わりの候補者と言うことなんじゃ』
『わしらはポイントを使って、この候補者になる必要があるのじゃ』
『どうじゃ。この表の中におまえさんが競り合えそうなものあったかのう?』
仙堂は自分が競り合えそうな相手をモニターで探した。