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スタートライン~はじまりはこれから~  作者: 葵
誠という男の人生
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誠の人生



《戦後》



戦争が終わり。

不幸せとは言えないが、幸せとも言えない時代が続いていた頃。

一人の少年 まことの家の前に引っ越して来た家族がいた。

引っ越して来た家族は、一人娘の由美子ゆみこの三人家族だった。

誠の家族は、弟一人の四人家族。

家族同士はあっという間に仲良くなり、誠と弟のひろしと由美子の三人でいつも遊んでいた。由美子は誠の一つ年下で、一人っ子ということもあり、誠のことをお兄ちゃんと呼んでいた。

現代のように、ゲーム機のような優れた物はなかったが、三人はいろんな遊びをした。

物を使わない遊びはとても楽しく、三人笑顔で遊んでいる姿は、本当の三人兄弟のようだった。

誠と由美子は成長とともに、二人の間には、恋が芽生え やがて愛へと変わっていった。大人になった二人は、結婚を考えるようになった。

元々二人は両想い、結婚は時間の問題かと思われた。

しかし この時代の結婚は、自由ではない。親同士の話し合いやお見合い結婚などの紹介結婚がまだ大半を占める時代。

仲の良かったはずの両方の家族は、結婚となると話は別だった。

由美子の両親は娘のためと、裕福な家へ嫁がせたかったため、誠との結婚を反対した。

それを知った誠の両親は激怒し、結婚どころの話ではなくなった。


あんなに仲の良かった家族同士は、顔を合わすことすらなくなり。

もちろん誠と由美子が会うことは許されなかった。

けれど 親から反対されたからと言って、愛は冷めることはない。

誠と由美子は、家から離れた場所で会うことにした。

目立った場所で会うことができなくなった二人は、二人だけが知っている大きな木の下が、二人だけの秘密の場所となった。

ふたりは大きな木の下で毎日会った。

一日に会える時間は微々たるものだったが、ふたりにとっては、かけがえのない時間だった。


[ごめんなさい待った?]

走って来たのか、少し息が上がっている由美子。

『ううん 今来た所だよ』

少しだけ嘘ついた誠。

[そうですか ありがとう]

『今日はどのくらい話せそう?』

少し不安げに問いかけた誠。

[今日は少し長くおしゃべりできそうです]

笑顔で答えてくれた由美子。

『それはよかった 今日はなんの話をしようか?』

誠も自然と笑顔になれた。

[そうですね~ あ! 今日私、虹を見ました]

『虹? それは良いことがあるかも知れないね』

[はい 良いことがありました]

『それはよかった』

『どんな良いことがあったのかい?』

由美子は誠をチラリと見て答えた。

[秘密です]

『どうしてだい? 教えてくれよ』

誠は不思議そうに問いかけた。

[あたなに会えました]

恥ずかしそうに答えた由美子。

『そうか それなら私も良いことがあった』

『虹を見ていないのに良いことがあった私の方が幸せだ』

[いえ 私も幸せです]

短い時間の中でのたわいもない会話が、ふたりの幸せのひとときであった。

ときには両親同士のわだかまりをなくすべく、話し合うこともあった。

どうすれば自分達の結婚を許してくれるのだろう。

どうすれば 両親同士は仲良くなってくれるのか。

もしも、もしも結婚を許してくれないのら。私達はある決断をしなければならない。

最後の 本当に最後の決断。

そんな最後の決断が近付いているとは知らない誠と由美子は笑顔で、また明日会うこと誓い。

それぞれの両親の元へ帰って行った。




《翌日》


走って待ち合わせの大きなに木に向かっている誠。

『しまった 約束の時間に遅れてしまう』

珍しく誠が待ち合わせの時間に遅れた。

木の下には、もう由美子の姿があった。

『ごめん 遅れたね ・・・ごめん!』

[ううん 今来た所です・・・・]

笑顔で答えてくれた由美子だったが、なぜか今日の由美子は様子がおかしかった。

『どうかしましたか?』

誠は由美子の異変に気付き、問いかけた。

誠に心配されたことで、我慢していた気持ちがあふれ、泣き出してしまった由美子。

[実は・・・ お父さんが・・・ お見合いをしなさいと・・・]

[私は・・・ 私はあなたと一緒にいたいです]

[お見合いなんてしたくない!]

由美子は泣きながら強い気持ちを誠に伝えた。由美子の涙を見た誠は、男としての決意をした。

『由美子さん! 私もあなたとずっといたい』

『だから・・・・ だからもしも 由美子さんさえ良ければ、一緒にどこ遠くに行こう』

『遠くの地で、ふたりで、幸せに暮らしてはくれないだろうか?』

男として、誠は自分の気持ちを伝えた。

誠の気持ちを聞き、悲しい涙から、嬉しい涙に変わった由美子は、嬉しいそうに答えた。

[はい 私で良ければ連れて行って下さい!]

ふたりは家を離れる決意をした。

この決意は、両親 兄弟との縁を切ることを意味していた。


『本当かい!』

『・・・けれど 由美子さんは両親と離れてしまっても 本当にいいのかい?』

[いいんです! あなたと一緒にいたいです]

誠は嬉しかった。 

これで好きな人といつも一緒に居られる。

けれど誠は、今すぐには駆け落ちはしなかった。

『そうかいじゃあ一週間後 この木の下で会おう』

[一週間後ですか? このままふたりで逃げましょう]

『いいや 一週間です』

『今日から一週間 ふたりで会うのは、やめましょう』

『一週間後 必ずこの木の下で会おう』

『そして・・・ そしてふたりで逃げよう』

誠は由美子に親との別れの時間を作った。

もし この一週間で由美子の気持ちが変わってしまうなら、それもまたしょうがないと思っている誠。

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