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スタートライン~はじまりはこれから~  作者: 葵
佐藤 真人という男の人生
12/44

病院へ


《病院》


『次の方どうぞ~』

変わらずにとても明るい担当医。

『あ 佐藤さん』

次の患者が私だとわかると、またひとつ声のト―ンが下がった。

『今日はどうされましたか?』

[今日は手術の手続きをお願いしに来たんです]

『あ! そうですか』

声のトーンが定位置に戻った担当医。

『じゃあ いつ頃にしますか?』

『できれば早い方がいいですよ。お仕事のご都合はどうですか?』

担当医は入院者リストを確認しながら真人に問いかけた。

[仕事はもう休みを貰いました]

『そうですか。えっと~』

『あ! 明日からなら、ベットが開きますよ』

『どうしますか?』

[あ じゃあ それでお願いします]

『わかしました。じゃあ手続きしましょうか』

[あ はい]


手続きが無事に終わると、真人は家で明日からの入院に備え、身支度をした。




《翌日》


病室で家から持って来た私物を整理していると担当医がやって来た。

『あ 佐藤さ~ん! どうですか?』

『なにか困ったことはありますか?』

[いえ まだ困ったことは特にありません]

『そうですか』

『なにか困ったがあったらなんでも言って下さいね~』

『私に関係していることなら手伝いますから~』

[あ はい・・・・]

相変わらずテンションの高い担当医に、いつも少し戸惑っている真人。

『あ! そうだ』

『手術の日程が決まったので報告に来ました~』

『手術は明後日になりました』

『手術方法は腹腔鏡手術で行います』

[ふく こう きょう手術ですか?]

『そう 腹腔鏡手術 説明しますか?』

[お お願いします]

『いいですか』

『腹腔鏡手術って手術は、お腹に小さな穴を開け、そこから機械を挿入します。今までの手術方法よりも傷口も痛みも小さく、傷の治りも早いと言うとても便利な手術方法なんです』

腹腔鏡手術・・・・担当医が言ったような手術内容だが、この手術は医師の十分な経験と実力が必要な手術法である。

このおちゃらけ担当医が、そんなに優秀だとは以外であった。

しかし真人にとっては、嬉しい誤算であっただろう。

[そ そうですか・・・・]

『わかりました?』

[す すみません いまいち理解が出来ませんでした]

『あー いいです いいです』

『わかるまで説明しますから』

『私まじめなんで。 明後日までに一つの心配ない手術をしましょう』

[はい よろしくお願いします]

真人は深々と頭を下げた。


手術までの三日間は、とても長く感じました。楽しいことはあっという間に時間が過ぎてしまうのに、どうして辛いことは、こんなに時間が長く感じるのだろう。

初期とはいえ、ガン。眠れない日が続いた。しかし妻の献身的な支えで、三日間を過ごすことができた。




《手術当日》


麻酔で意識が遠くなる中に妻の顔が見えた。

「あなた頑張ってね」

妻は笑顔を見せてくれ、私に勇気をくれた。

「先生 よろしくお願いします!」

私が眠りの就くと、妻は私に見せなかった心配そうな顔で、担当医に強く願った。

『はい。大丈夫ですから』

いつものおちゃらけ担当医とは思えない程 真面目な顔をしている担当医。


私の意識がなくなると、手術室に運ばれた。

私は麻酔で眠っているため、時間の経過がよくわからかったが、手術時間は四時間にも亘った。 

麻酔から覚めて目を開けると、妻が幸せそうに私を眺めていた。

私の手術が無事に成功したことは、妻の顔を見ているだけでわかり、妻の顔を見て、私も幸せを感じた。


初期ガンを乗り越えた私は、月に一回の定期検診を行うことにしました。

毎月の定期検診は、ガンが再発していないか、気が気ではありませんでしたが、幸せなことに、ここ二年間再発はしてはいませんでした。




《三年後》


妻と結婚してから三回目となる会社の健康診断が行われ、今日結果通知が届いた。

月に一回の定期検診はもちろん続けていた。二回目の健康診断でも、再検査の文字は一つもありませんでした。


しかし

三回目の健康診断となる今回の通知に、三年ぶりの再検査の文字があった。

[・・・・・・・]

言葉が何も出なかった。

三年前の私なら再検査の文字を重く捉えなかっただろうが、今の私は、胃がんの恐怖を知っているからこそ、すぐに病院に向かった。嫌な予感しかしていない真人の前に、予想道理のテンションの低い、いつもの担当医がやって来た。

担当医はイスに座ると、少し唇を噛みしめて、真人の聞きたくな言葉を発した。

『佐藤さん・・・・。リンパ節全身に、転移が見つかりました』


リンパ節全身 転移


嫌な予感は多いとは言い切れないが、少なくない確率で当たる。

私の月一回の検診は、胃がんの再発の有無の検査でした。

健康診断は、総合的な検査。そのおかげでリンパ節の転移が見つかった。


[そ そんなぁ]

私は転移を受け入れることができませんでした。

[で でも月一回の検診も受けていたし、それは胃がんの再発検査でしたけど・・・・]

[リ リンパ節の転移くらい見つかるんじゃないんですか!]

私は慣れない強い口調でリンパ節の転移を否定した。


[それに、去年の会社の健康診断には再検査がありませんでした]

[それって おかしくないですか?]

[お おかしいですよ!]

担当医は黙って真人の見解を聞き入れ、悲しい表情で真人に事実を告げた。

『・・・・・残念ですが、月一回の検診では見つけることはできなかったでしょう』

『それに昨年の健康診断後の転移だと考えられます』

[そんなぁ・・・・ どうして]

真人は覆らない事実と一緒に、自宅へと帰った。


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