Ⅳ. 戦車の行進曲
行進曲:こうしんきょく・マーチ
軍隊の行進の際に用いられる2拍子の楽曲。
2頭の馬が引く戦車に乗った人形、チャリオットは私の方へ向かってくる。
急いではしごを降り、町とは逆の方向―ガラクタの山の方へ走り出る。
ミルティとディアンがいる川から出来るだけ距離を取った。
チャリオットは2頭の馬を巧みに操り、自身は私の遥か高い所に、
銃剣を持って戦車へ座り、こちらへ猛スピードで突っ込んでくる。
馬を右に、左に避けていく。
今回の怪異は、ミルティの大切な人形。
傷付けることが出来ない。
記憶を埋め込まれた、チャリオット自身を相手にするため、
戦車と人形を引き離そうと、私はやって来る馬を避け、
私はガラクタ山の方へひたすら駆けた。
山へチャリオットをぶつけようとしたのだ。
だが、山へ到着する間際で、なんとチャリオットが
自ら戦車から飛び降りたのだ。
戦車を引く馬はそこで大人しくなる。
―予想外だった。
「しまっ・・・!」
チャリオットは銃剣を私へ突き出す。
空を鋭く裂く音がする。
剣をとっさに使えず、攻撃をかわすのが精一杯だった。
精一杯だったとはいえ、やはり前と同じように体が軽く感じた。
踊るように身体をひねり、足を動かしていく。
銃剣の突きを避け、時には振り下ろされるのを、
針で危なっかしく払いながら戦っていたのだが、
だんだんと追い詰められていっていた。
どんどん川の方へと、追いやられていたからだ。
(川の方に行けば、二人が・・・!)
何とか相手の進行方向を変えようとするが、
焦って余計に上手くいかない。
そうこうしている内に、今までで一番強い突きを
片手で剣を持っていたときに受けた。
パキンッ・・・!
針が、折れた。
「くっ・・・」
とにかく、何か代わりになる物を。
容赦ない銃剣の突きをかわし、あたりを見るが、
武器がありそうな、一番近くの場所は、
ガラクタの川しかない。
折れた剣を投げ捨て、突きを身を屈めて避け、
起き上がった瞬間に銃剣を素早く掴み、
銃剣越しにチャリオットを睨んだ。
絶対に離すものかと力を入れていたのだが。
ドンッ!
という耳元での発砲音が聞こえ、
続いて私は体が吹っ飛ばされているのに気付く。
手の力が抜けた瞬間に蹴り飛ばされた。
すぐ近くにまで迫っていたガラクタ川に背中をぶつけ、
そのまま地面にへたり込む。
(あれは「銃」剣・・・。発砲も、出来るんだった)
体が動かない。
チャリオットは銃剣を構える。
(撃たれる・・・!)
ドン!
再び音がする。だが、発砲音ではない。
遥か遠くで倒れているのは、チャリオット。
私の頭上から陽気な男の声。
「な~にが『大丈夫』ですカ。
全っ然大丈夫なんかじゃないですカ」
「・・・ディアン」
「助けに来ましたヨ」
ディアンは右手に杖を持っている。
間合いに入り、杖でチャリオットを飛ばしたらしい。
助かった、とは思い、礼を言おうとしたが。
すぐに前回の戦闘の記憶を思い出す。
「貴方前、私に針投げつけてどっか行ってたでしょう!?」
「何言ってんですカ。ワタシは、キミが危なそうな時には、
『助けると約束しマス』と言いましタ」
そういえば、そんなこと言ってた気がする。
「さぁ、立って下サイ。まだ奴は起きてきますカラ」
「・・・分かってる。でも、剣がないわ」
差し伸べてくれた手を借り、立つ。
「アキレギア!」
川の上にはミルティが、何かを持って立っている。
「これを・・・!」
そう言って投げて寄こすのは新しい針。
折れてしまった物より、少し太い。
そして、穴の開いていない、飾りボタン。
これは、盾代わりになりそう。
「壊れてしまっても、いい!私が、直しますから・・・。
だから、あの子を・・・助けてやってください」
「ミルティ・・・。分かった。
今度こそ、大丈夫だから。
剣を、ありがとう」
チャリオットは既に起き上がり、
いつの間にか、馬と戦車も、チャリオットの近くに来ていた。
私は受け取った剣と盾を握り締め、ディアンの隣に立つ。
「3対1じゃ、大変でしょうカラ、今日は協力しますヨ」
「・・・最初から、そうして貰いたいものね」
私は剣を、ディアンは杖を構える。
チャリオットも銃剣を構えた。
「チャリオットは私が。ディアンは馬を」
「・・・私が2体相手ですカ?まァ、良いでショウ」
「さ・・・行くわよ」
そうして私とディアンは、チャリオットに向かって駆けだした。
戦闘は、まだ続く。