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マキナの落とし子  作者: Doya tsuchi
第2章 人形使いの人形
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Ⅲ. 赤の笑み

私達は今、流れ込んだガラクタ川の上に立っている。


川を渡るために、流れているガラクタ達の中から、

幸いにもはしごを見つけることが出来たからだ。

どうもミニチュアの家が置かれていたらしく、

見つけたはしごの近くには、他にも家具やら食器やらがあった。


はしごを上り、川の上から元々裁縫道具探しのために進んでいた方向を見ると、

今までとは全く違う風景だった。


このガラクタ置き場には、ガラクタの山しかないと思っていたが、

今見ている先には、そんな山は無く―小さな町のような、世界。

この置き場の中で初めて見る、美しい空間が広がっていた。


ある場所は、ランプを集めて作った明るい場所。

またある場所は、時間が止まったアンティーク調の時計が置かれ。

他の場所は、彫刻が置かれていたり、絵が飾られてあったり、

画材道具が並べられていたり・・・。


「綺麗ね・・・」

「意志を持つ者達が、このようにこのガラクタ置き場を変えていったのです。

私は、ここに、意志を持った者達を連れて来ていました・・・。

あの町の中に、貴方達の求める物はあります。

裁縫道具。それから・・・記憶も」


「私の・・・記憶も?」

「きっと、ありましょう・・・。

記憶は貴方のもの。記憶は生きている。

迷子になったものは・・・必ず、主のもとへ戻ろうとする。

主に、必ず導かれる。必ず、引き寄せられる」

「私に、引き寄せられる・・・」


「ま、そのたびに怪異が来るんでしょうけどネ~」

久々にディアンが喋った。

「分かってるわ・・・。戦わなきゃいけないのは」

―記憶と引き換えに。私は戦わなくてはならない。


ぽつりと言い、視線を落とす。

ちょうど、ミルティの手が目に入り、

彼女の手の先に、旅人装束の人形が見える。

心なしか、人形の顔が私に「大丈夫?」と言っているように感じられた。


私はしゃがんで、剣と黒うさぎを置いて、

その小さな小さな人形をそっと両手に包む。


「・・・お気に召したのですか?」

「いいえ・・・。なんだか、ちょっとね」

「この子は、『フール』。貴方と同じく、

『愚者』を意味する名前です」


「そうなの?・・・だから、ちょっと感じるところがあったのかも・・・」

「そうかもしれませんね。私が持っているのは、

貴方に言ったあの占い・・・タロットの大アルカナの名前を冠する、

22体の人形達」

そう言って、彼女は何処に入れていたのか、『フール』と同じような人形を

私達の前に差し出す。


「確かに、大アルカナがモチーフになってますネェ。

魔術師に、女教皇、皇帝、女帝に・・・」

「あら、ミルティにそっくりなのもある。

これは、『隠者』?」

「えぇ、そうですよ」


「・・・おや?1体、足りませんガ」

ディアンが人形の数を数えながら、ふと言う。

「え?1、2、3・・・あ、本当・・・!

22体のはずなのに、21体しかない。

えっと、無いのは・・・」

「『戦車』ですネ」

「いつも、ちゃんと全部一緒に持ってるはずですが・・・。

ひょっとしたら、波に飲まれた時に、何処かへ行ったのかも」

「なら、最初にミルティがいたあたりを探しま・・・」「ねぇ」


言い終わらないうちに、何者かの声。

「お探し物、これ?」

黒い、影絵のような女の子のシルエット。

顔は見えないが、私は彼女の足―いや、「靴」に驚いた。

ここに来たばかりの時に、ディアンから聞かされた―

赤い靴だったからだ。


「・・・あ、赤い靴の・・・」

「間違いありませんネ。ワタシの見たまんま」

「ねぇ」

驚く私をそっちのけで、再び少女は繰り返す。

黒い手に収まるのは小さな人形。

「お探し物は、これ?」


「そう、それです・・・!拾って下さったんですね」

ミルティはほっとした声を上げる。

「うん・・・そう。

あと私ね・・・この子、とぉっても気に入ったの・・・」


言いながら、彼女は何かを、後ろに隠していた片手を見せる。

そこにあるのは、大きな光。

「私の記憶・・・!―まさか」

嫌な予感が走る。


「だからぁ、この子に、プレゼントをあげる」

「何するんです・・・!やめて!」

ミルティの静止もかいなく。

私の記憶の光の小さな一片を―

『戦車』―『チャリオット』に埋め込んだ。


「うふふ・・・・」

不気味にただ、彼女は微笑う。

「さぁ・・・好きに、暴れて?」

甘美な、誰かを誘うような声で、彼女は人形の耳元で囁いて、

そのままチャリオットをこちらにぽいっと投げ捨てた。


『戦車』は、前の怪異と同じように、大きくなってゆく。

「ああ・・・。チャリオット・・・」

人形が変貌してゆく様を、絶望の顔でミルティは見る。

その様子を楽しむかのように、少女は嗤い続け・・・踊りながら去って行く。


「待って・・・!」

私は後を追おうとするが、動きが早く追いつけない。

最後まで黒い影のようだったが、踊る中で足にぴたりと張り付く、

赤い靴だけは、鮮烈に記憶に焼き付いた。


(でも、今は。あの子を止めなきゃ)

私は置いていた剣とぬいぐるみを拾う。


「ディアン。ミルティを連れて、何処かに隠れてて。

あの子は、私が何とかするから」

「・・・で、でも」

「大丈夫。・・・出来るだけ、傷付けないようにやってみるから。

それから、この子をお願い」

ミルティにぼろぼろの黒うさぎを渡し、私は右手の剣を構えた。





















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