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マキナの落とし子  作者: Doya tsuchi
第2章 人形使いの人形
7/20

Ⅱ. 名前

―名前は?

ミルティフォリア(長いので、ミルティと呼ぶことにした)に

そう聞かれ、私はとっさに答えられなかった。

理由は、ふたつ。


1つ。

目の前の彼女、ミルティを助けもしなかった隣の男が、

「ワタシはオブシディアンと言いマース」と、先に名乗ったからだ。


2つ。

私が、自分の名前を「知らない」からだ。

名前を忘れているだけなのか、はたまた名前自体が無いだけなのか・・・。


「わ、私は・・・。その、名前が分からないの。記憶がなくて・・・

今、記憶を探してる」

私はミルティに、私の現状を話す。

「そうでしたの・・・。あぁ、それなら。

勝手ながら私がお名前、お付けしてもよろしいでしょうか?」

「・・・本当に?」

「えぇ。では、貴方は・・・」

―どんな、名前にしてくれるのだろう?


「愚者」


・・・?ぐ、しゃ?

「あの・・・ミルティ?」

まさか、そう来るとは・・・。

人形っぽい、とか、女の子っぽい名前が来なかった。


私も、隣のディアンも呆気にとられていた・・・。

でも、ミルティは一人、落ち着きはらって。

大真面目な顔をしている。

両手を私達の前に出し、操り人形をこれまた器用に動かす。

操り人形は、いつの間にか別の物に取り換えられていた。

旅人装束の小さな人形は、ミルティの意のままに、カタカタと動く。


「愚者とは・・・。文字通りで言うのなら、愚か者。馬鹿者。

けれど、とある占いで言うのなら。

愚者は旅人。始まりを意味する・・・」

小さな操られる人形は、てくてくと何処かへ歩いていくような動き。

「貴方は、記憶を探して旅し、

貴方の記憶も、同時にこの世界を旅している・・・」

「だから、私は『愚者』?」

「そうです。・・・けれど、この呼び名は、貴方には似合わない。

だから・・・『アキレギア』。『愚者』を意味する花の名前。

これは、どうです?」


「アキレギア・・・。うん。こっちの方が、いい」

「では、改めて、よろしくお願いしますね。アキレギア」

「私も。・・・よろしく、ミルティ」


「ワタシは愚者の方が好きなんデスけどネェ」

ディアンが口を挟む。

「まぁまぁ・・・。アキレギア自身が良いと言っているのだから、

この名前で良いでしょう?名前は、その者自身を表す、大事な物ですもの」

「じゃあ、ワタシは一体何なのでしょうカ?」

「オブシディアンは、黒曜石。石言葉は・・・『摩訶不思議』」


「あら、ぴったりじゃない」

本当にぴったりだ。

私はディアンのことが、よく分からない。

「知らない」のではなくて、本当によく分からないのだ。

ケタケタと笑うような話し方、態度・・・。

でも時々、何かを諭すような物言いをするから。

「摩訶不思議ネェ・・・。ま、そーなんでしょうネェ」


私達は笑う。

この世界で目覚めて、多分、私は初めて笑った。


私は、今日から「アキレギア」。

本当の、名前が見つかるまで。


記憶探しはまだまだ、これから・・・。










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