Ⅲ. 戦端の円舞曲
円舞曲:えんぶきょく・ワルツ
3拍子の優雅な舞曲。
低く大きな衝撃音と共に現れたのは・・・何と、ぬいぐるみ。
黒くて赤い両眼の、つぎはぎのうさぎだ。
「・・・これが、『怪異』?」
・・・ありえない。
予想外すぎた。もっとこう・・・猛獣とか想像してたのに。
出てきたのはまさかの「ぬいぐるみ」。
・・・何気に可愛いし。巨大だけど。
「可愛らしいですケド、やっぱり『怪異』のようですヨ!
あぁ!ホラ!!」
ディアンが指をさす、私達のすぐ後ろには巨大なシルエット。
―うさぎだ。二足歩行のうさぎが両手(いや前足?)を、
こちらへ振り下ろしてきた。
それと同時に、私は強い力で左手を引かれる。
ディアンは2つの意味で驚く私を抱え、ガラクタの山を飛び降りた。
ガシャン!
とこれまたすさまじい音が背後でした。
ディアンに地へ下ろされ、上を見ると、さっきまでいた山の上半分が崩れていた。
怪力うさぎがこちらをぐるっと見る。
・・・目が合った。
するとまたうさぎがこちらへドスドスと音を立ててやってくる。
「どうしろっていうのよ・・・ディアン!」
「さっき針渡したでショ~?ぶっさせばいいんですヨォ。
じゃ、ワタシはこれで」
「ちょっと・・・貴方は何もしないの」
「頑張ってくだサーイ」
そう言ってディアンはどこかに行ってしまった。
「あぁ・・・もう」
右手に握っていた針―私にとっての剣を構える。
闘ったことなんて、ないけれど。
人形はずんずん近づいてくる。
どうしよう、そう思っていると。
また両手を威勢よく、今度は斜めに振り下ろしてきた。
「―っ!」ギリギリのところで上体を後ろへ反らし、攻撃をかわす。
うさぎはその勢いのまま、そのまま体のバランスを崩してよろめいたが、
すぐにまた私へ襲い掛かって来る。
攻撃の方法は常に両手の振り下ろしだった。
振り下ろされた両手をまたよけようとする。
すると―。
今度はさっきより滑らかに動けた。
余裕を持って、軽やかに―そう、まるで踊っているように、だ。
(軽い)
体が、軽い。
私は体の軽やかさに任せ、次々にうさぎの攻撃をかわしていく。
ガラクタの山の少ない、広い所へと躍り出て、
そこでくるりと、片足を伸ばして円を描く。
ドン、と鈍い音がする。
ぬいぐるみが私の足元に、倒れていた。
剣を向け、うさぎの手を突こうと思ったが、
再びうさぎは身体を起こす。
(早く、動きを止めなきゃ・・・。何回でも、この子は起き上がって来る)
今度は、確実に。
私は右手の針の剣をもう一度握りしめ、うさぎに向かって駆けた。
攻撃をかわし、隙を突こうとするたびに、「キリ」と音が聞こえる。
紛れもない、私のからくりの音。
あぁ、やはり。
私は人形なのだと、思わされる。
もう一度うさぎに回転しながら蹴りを食らわせ、
振り下ろしてくる右手に、剣を突き刺す。
横へずらして引き抜くと、簡単に右腕の布が裂かれ、綿が飛び散った。
元からちぐはぐだからか、あっけなく右腕は使えなくなり、
ぷらんと揺れているだけになった。
それでも、ぬいぐるみはこちらへ走ってくる。
私はもう、動かなかった。
ただただ待って―。
今度は、人形の腹のあたりを叩き切った。
ぬいぐるみはようやく倒れた。
「・・・・」
自分がそうしてしまったのだが、ぬいぐるみの姿は無残だった。
「・・・これは?」
しばらくじっと見つめていたぬいぐるみの丁度切った腹のあたりに、
綿と、綿に埋もれた中にある「光」を見つけた。
(ひょっとして・・・)
私はその光に、手を伸ばした。