Ⅱ. 不穏の足音
―赤い靴を履いた嘘吐きの少女は踊り続けました。
その足を切り落とされるまでずぅっと。
切り倒された足は、赤い靴を履き、踊りながら何処かへ行ってしまったのだそう―
ディアンが語った物語は、「赤い靴」というもの。
結局最後に、物語の少女は心を入れかえ、自らの罪を許されたという。
「・・・この話が、一体私に何の関係があるというの」
ディアンはその問いを待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべる。
「このがらくた置き場には・・・その赤い靴があるのですヨ」
「赤い靴が?でも、それは物語の話でしょう?実在する訳ないじゃない」
「・・・ま、そう思いますよネ。
さて、その赤い靴・・・正確には、それを履いた者が、
キミの『キオク』を持っているんデス。
現にワタシはこの眼で見ましたからネ」
「な・・・なら、私の記憶は!?」
「あー・・・それがですネェ・・・。ワタシ、それを相手に返しちゃって」
「は!?」
「ワタシがまだここに来たばかりの頃デス。
赤い靴を履いて踊り狂ってる者がいまして。
・・・あぁ、その子、女の子でしたネ。
顔はよく見えませんでしタ。
んで、その女の子が両手で光を包んでまして。
踊ってる拍子に両手に大きな光から小さい欠片がポロリと落ちて、
ワタシはそれを拾いましタ。
そしたらキミの姿が見えて、続いて博士の姿も見えたんですヨ。
これが何かよく分からなかったもんですカラ、その女の子を呼び止めて返しちゃったんですヨー。
『これ、落としましたよー』って。いやーホント、スミマセン」
「・・・。」何とも言えない気分だ。
その当時は私もここにはいなかったのだし、
「持っとけ」と言うわけにはいかない。
「ワタシはそのキオクの光と、ワタシ自身が工房にいた時のことを繋ぎ合わせて
キミの記憶だと判じたんデス」
「・・・そう。ねぇ、その女の子は何処にいるの?」
「さぁ?いっつもどこにいるか、多分誰も知らないですヨ。
急に現れては去ってくもんですカラ。
でも、その子が現れるあたりでは、必ず何かしら奇怪なこと―
『怪異』が起きてるんデス。
女の子自身を追いかけることは難しいですが、そういう
『怪異』による奇怪なことが起こったトコからその子の手がかりが、
掴めるんじゃないでしょうカ?」
「なるほど・・・」
「特に最近はそう言う事件みたいなモノが増えてますからネェ。
・・・という訳で。はい、これドーゾ」
そう言ってディアンは私に何かを投げて寄こす。
「持っといた方がいーですヨ!」
両手で受け取ったそれは、人間の大きさで言うならただの針だ。
おしゃれな装飾入りの、銀の縫い針。
けれど、人形の私からすれば、立派な「剣」。
「・・・これ、本当にいるの?」
「そりゃ、いりますヨォ。
自分を守る術がなければ、簡単に『壊れて』しまいますヨ。
『怪異』に関わる者も、またここに起きてる者達の中にも・・・。
物騒なのが、いますからネ」
危険だよ、と楽しそうに、愉快そうに言うディアンにため息をつきながら、
銀の剣をもてあそんでいると。
ドォォン・・・。
と、すぐ近くの方で、地に響き渡る音がした。
「ほぅら、来たキタ・・・」
ガラクタ山の向こう、巨大な影が、私達の方へとゆっくりと近づいて来ていた・・・。