Ⅰ. 「私」
黒塗りの空、ガラクタの山。
山の頂上で「私」は目を覚ました。
(ここは?)
両目を動かし、仰向けのまま辺りを見回す。
やっぱりあるのはガラクタの山。
背にもガラクタの刺さる痛みを感じる。
(私は、何)
意志はあるのだけれど、自分が何かは分からない。
結局何もしないでそこに転がっていると。
「オヤオヤ、お目覚めですかァ?」
顔を覗き込んで来たのは黒衣の男。
(・・・誰)
「あれェ~?ちゃんと起きてるハズなのになァ・・・。
ねェ、キミキミ。喋れマス?てかホントに起きてマス?・・・おーい?」
そう言って男は私の顔の前で手を振ってみたり、
ぺちぺちと頬を(気やすく)叩いたりしてきた。
あまりにもしつこいので身体をおこし、
じぃっと男を見やって私も口を開いた。
「・・・うるさいんだけど」
ほんの少し間が開いて、男はすぐにまた口を開く。
「こりゃ失礼を。『マキナのお嬢さん』」
「・・・?」
「え?何で無反応?・・・あぁ、キオク、無いんデシタっけ?」
じゃあ、コレを」
そう言って彼はガラクタの山から何かを引き抜いた。
現れたのは黒い木枠の鏡だった。
私は鏡を見、そこで初めて自分がどんな姿をしているのかを知った。
銀の髪。青紫の眼。
身に纏っているのは黒と紫のドレス。
足には黒いトゥシューズ。
「・・・これが、私」
全ての衣装や装飾が乗せられているのは、冷たい白磁の肌。
「人形、なのね」
「そうデスとも。キミは人形。マキナ博士に作られたからくり人形」
「そう。・・・マキナ博士、か」
『マキナ』という名前に、何故か様々な感情が押し寄せた。
懐かしさ、愛おしさ。それから・・・「怒り」。
何故、そう思うのだろう?
「さてさて、お嬢さん。ご紹介が遅れマシタ。
ワタシはオブシディアン。長いんで、ディアンとでもお呼びクダサイ。
一応、ここの案内人的な、あなたと同じ人形デス」
「・・・ディアン。ここは、どこ」
「ここ?ここは、『がらくた置き場』。まあ、廃棄場デス。
壊れたり、古びたりしたものを置く部屋ですヨ」
「私、何でここに?古いわけでも、壊れたわけでもないのに・・・」
「さぁ?ワタシもそれは知りませんヨ。何にせよ、捨てられてるんデスから」
彼の話は続く。
彼はもうずっと昔(どれくらいかは分からないが、とにかく長い時)からここにいるらしい。
また、彼や私のように、捨てられた「モノ」がこうして動いたり話したりするのは、
この空間では何故かよくあることなのだそうだ。
「そうそう、お嬢さん。
こんな話、知ってマス?」
黒衣の男は私にとある物語を聞かせてくれた。
―そしてそれは、私の「これから」を作っていくことになる・・・。