Ⅰ. 廃墟の剣士
「・・・ね、ねぇ。ディアン」
「なんですカー・・・?」
遠慮がちに声をかける私に対して、
ふてぶてしい返事が返って来る。
怪異を倒す、紫の剣士がいるという廃墟へ、
今私はディアンに案内してもらっているのだが、
どういう訳なのか、廃墟に近づくたび、
ディアンがどうも不機嫌になっている。
「・・・やっぱり、何でもないわ・・・」
「用がないなら話しかけないで下さいヨ。
心配しなくても、すぐ着きますカラ」
「・・・分かったわ」
変な空気のまま、店の並んでいた道をずっと奥まで進むと、
瓦礫のような建物が見えてきた。
「あそこが、廃墟デス。じゃ、ワタシはこれデ」
「え、来ないの?」
「別に行きたくないデスしー」
「あ、そう・・・」
やっぱり、何か嫌なことでもあるんだろうか。
いつもと様子が全く違ったので少し心配になる。
「そ・れ・ト・モ」
一度背を向けたディアンが、また振り返って言う。
「やーっぱり、ワタシのコト好きだからァ、
一緒に来てほしいんですカァ~?」
「・・・」
前言、撤回。
心配して損した。いつも通りだった。
「そんなことあって、たまるもんですか!」
灯り屋では言えなかったけど、ちゃんと言えた。
「じゃー、ワタシは帰りマース!」
ディアンはいつも通りの様子で帰っていった。
「全く・・・なんなの、ディアンは・・・」
溜息をつきながら、私は瓦礫の中―廃墟へと入ってみた。
何かの建物を、わざと壊したような場所だった。
ひびいる壁、倒れた柱が散乱する床。
誰かがいる気配は、全く感じられなかったが、
ここにいるという剣士を探しに、空間を進んでいく。
瓦礫が床に散乱していて歩きにくい空間だったが、
進んでいくにつれ、空間の中央の道が開けてきた。
一番道が広がった所―そこに、「彼」はいた。
「君・・・」
黒い剣を片手に座っている彼は、私に目を止める。
左耳の方に紫の花飾り。
肩に零れ落ちる髪は灰色。
じっとこちらを見る目は柘榴の赤。
声をかけられ、今更ながらに勝手に入り込んでたのを思い出した。
「あの、ごめんなさい。勝手に入ってしまって」
「構わないよ。僕も勝手に住んでるだけだから。それに」
立ち上がって、彼は私に歩み寄る。
「会えるのを待ってた。・・・ずっと」
「私のことを?貴方は・・・」
「ああ、そうか。君は全部忘れてしまっているんだったね・・・?」
私は黙って頷いた。
彼は、私にとって一体何なのだろうか。
私にとって、彼は一体どんな存在なのか・・・。
私には、分からない。
彼に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
謝ろうとした―が、
先に、別の言葉が口から出ていた。
「・・・教えて、貴方のこと。私に」
知りたい。確かにそう、思った。
彼自身のこと。
彼から見た、「私」。
そして、彼を見た時から感じていたこの、感情。
以前にも何処かで感じたような、不思議な気持ちを。
知りたい。思い出したい。
そんな思いのままに彼を見ると、
遠く昔を見つめるような―そんな、目が見えた。
「僕はデュランタ」
彼は笑む。その笑みと、名前。
それらは、確かに。
私の中の何かを打っていた。
私はあの不思議な感情を共にして、耳を傾けていた。
デュランタは、昔話を次々と紡ぎ出していく。




