Ⅵ. 末路の鎮魂歌
鎮魂歌:ちんこんか・レクイエム
死者の安息を祈る曲。
「・・・でも、そんなことしたら・・・貴方は」
―フランのもとへ、返してほしい。
ピエリスから、託された願い。
私は聞き入れるつもりだったが、ためらいがあった。
『壊れてしまうでしょうね。
・・・でも、もう良いんです。
僕は、たとえ狂ってしまっていても・・・。
フランボワーズが僕を探し続けてくれた、
それだけで嬉しかったんです。だからもう、十分です』
「・・・分かったわ」
私は、もう一度ピエリスを抱いて、フランに・・・差し出した。
フランはきょとんとしていたが、
またすぐに、最初と同じ状況になる。
きしむ音。
引き裂かれる音。
狂って壊れる人形と。
その内の崩壊を黙って身に引き受ける、ぬいぐるみ。
「やめて・・・もう、止めてよ・・・!」
いくらピエリスが良いと言ったからって、
やっぱり見てられなかった。
2人の所へ、行こうとしたが、腕を素早く掴まれた。
「アキレギア。―駄目です」
ミルティは私の腕を握る力を強くして言う。
「ミルティ・・・でも!」
「こればかりは、どうしようもないんです」
ミルティの顔にも、あきらめと悲しみが浮かんでいた。
私はそのまま地に座り込んだ。どうすることも出来ない。
フランも、ピエリスも。もう助けられない。
「・・・私達の命は、所詮仮初めの命。
たとえ意志を動力とし、ここで目覚めても。
内部の仕掛けが錆び付き壊れれば、たとえ螺子を巻こうとも、
動くことは出来ないのです」
ミルティが静かに、残酷な運命を告げる・・・。
残酷、とは言うが。
これは、たかが物である私達にとっては「当たり前」のこと。
ひどく軋む音はやがて止み、フランは地へと倒れた。
目は開いたまま。
ただの、ガラクタの人形に、フランは戻ったのだ。
ピエリスの声も。もう、聞こえなかった。
―ああ。これが。私達人形の末路・・・。
私達はただ静かに、もう2度と動かぬ、フランを、
そして引き裂かれてしまったピエリスを、見た。
「・・・この子達は、どうなるの」
「一応ここには『墓場』がありますカラ。
そこの主が迎えに来ますヨ」
「・・・そう。ミルティ」
「はい?」
「もう一度、ピエリスを直してあげてほしいの。
・・・いい?」
「勿論。
・・・私も、そうしようと思ってましたから」
動かなくなってもせめて。
共に並べることが出来るように。
ミルティはすぐに裁縫道具を取り出して、
破れたピエリスを丁寧に縫い上げていった。
つぎはぎ部分が増えたけれど、
黒うさぎのぬいぐるみは、ちゃんとまた形になった。
私はぬいぐるみを、目を閉じさせた人形の腕に抱かせた。
「これで、もう離れることはないわ」
「きっと、大丈夫ですよ」
私達は、フランとピエリスをもう一度見、
ずっと2人が一緒にいられるよう、もう一度祈った。
「さ、それじゃあワタシ達は帰りますカ。
あとは墓場の主サンに任せとけば大丈夫でショウ。
ちゃんと、安置してくれますヨ」
しばらく立ち止まっていたが、ディアンがそう言って
最初に歩き出した。私とミルティもディアンに続く。
「ずいぶんと自信ありげね」
「だってワタシの兄上ですカラ」
「・・・貴方、兄までいたの」
ディアンの兄だから余計に心配になる。
だって、姉の魔女だってちょっと適当な所があったし・・・。
「大丈夫ですよ。ちゃんとお仕事して下さる方ですから」
「・・・ミルティが言うなら、大丈夫かな・・・」
「・・・やっぱりワタシ、信用されてないんですネ?」
「信用のしようがないわ」
「・・・」
がっくりと肩を落とすディアン。
そういえばここの所、怖がられたりして、
なんかショック受けたりしてばっかりだった気がする。
でもディアンはまたすぐに、気を取り直して、問うてくる。
「ところで、キミ次は何処に行くつもりですカ?」
「何よ、いきなり。いつも知らない間について来てるじゃない」
「いや、まあそーなんですケド、なんとなく気になりましテ」
「ふぅん。次か、そうね・・・。廃墟かしら」
「廃墟?そこへ何をしに行くんです?」
「怪異と戦ってる男がいるって、『灯り屋』の魔女に聞いたの」
「怪異と戦ってるなら、欠片を持っているかも知れませんね」
「そう思うでしょ?だから、行こうと思うの。
・・・だから。ディアン、道案内お願いね」
「・・・エ」
「だって、ラブラドライトからお願いされてたでしょ」
「あー、そーでしたネー」
「よろしく頼むわよ」
「・・・ハーイ」
少女とぬいぐるみの末路を見届け、次は、廃墟へ。
廃墟にいるという、剣士とは、一体どんなものなのだろうか。
そして私の記憶は、果たしてそこにあるのだろうか。
欠片探しは、まだまだ続く・・・。




