Ⅳ. 約束
ディアンと一緒に部屋へと戻っていると、
街の入り口で誰かと手を繋いでいる、見知った姿を見つけた。
変わった形の縦長の帽子に、ゆったりとしたあの服はあの子だ。
隣にいるのはピンク色の髪と服の、小さな女の子。
「ミルティ!」
「あら、アキレギア。オブシディアンも」
「用事は終わったの?」
「ええ、店でのことは。
でも、まだ一つ終わっていないんですよ」
「終わってないって、何が?」
ミルティは隣の少女を見る。
「この子の、探し物です」
「探し物?」
「はい。・・・フラン、説明してあげてくれますか?」
ミルティがそう言うと、フランと呼ばれた少女はこくりと頷いて、
説明してくれた。
「ぬいぐるみを、さがしているの」
「ぬいぐるみィ?どんな子カナ?」
ディアンが笑顔で彼女に聞いた。
・・・フランはミルティの影にぱっと隠れる。
「ごめんなさいね、驚かせた?」
「・・・こわい・・・」
フランは小さな声で答える。
「そんなァ・・・」
ディアンはがっくりと肩を落とす。
ぷっ・・・と私はディアンを見ながら小さくふきだした。
「それで、どんなぬいぐるみなの?」
「黒い、うさぎさん。つぎはぎなの」
「・・・!」
「私の、大切なお友達。ずっと一緒にいたの」
つぎはぎで黒いうさぎのぬいぐるみ。
私の持ってる子と、同じ。
「その子、多分私・・・持ってるわ」
「えぇっ?拾ってくれたの?」
「ええ」
剣で腹を破り、蹴とばしてしまったけど・・・。
「まーでもこの方、アナタの大事なぬいぐるみ、
剣で・・・フガッ」
全部言い終わらないうちに、ディアンの口をふさいだ。
そのまま私は続ける。
「持ち主が見つかって良かった。
ちゃんと、貴方に返してあげる。
今は持ってないから、持って来てあげる」
「本当!?」
「本当よ」
フランは嬉しそうだ。
よほど、大事な子なんだろう。
「でも、今日はもう明かりも消える時間ですから、
帰りましょう」
ミルティが言った。
「・・・うん。じゃあ、明日、明かりがついたらまたここに来て」
「分かった。必ず行くわ。貴方のうさぎさんをちゃんと持ってね」
約束ね、とフランは私に言った。
私は頷いて、別れ際に小さなフランの頭を撫でた。
部屋に戻り、ディアンはもらったランプを取り付けていた。
私はぬいぐるみを持って、
どこかまた破れたりはしていないだろうかと確認する。
部屋の外―ガラクタ置き場の明かりは消えていた。
置き場の「夜」だ。
ぬいぐるみから目を離すと、部屋が明るくなっている。
「綺麗ですね」
ランプから出る光を見て、ミルティが言った。
「うん、本当に。貰って損は無かったわね」
「ふー・・・ヤレヤレ、やーっと、つけ終わりましたヨ。
今日は働いたんですカラ、ここで休ませて下さいネー」
「はいはい、今日だけね」
「エェー?ケチー」
「あの、アキレギア。
私もここにいさせてもらって本当にいいのですか?
普通に入っちゃったんですが・・・」
「ミルティはいつでも大歓迎よ」
「エー!?ワタシとは全然違うじゃないですカ!!!
・・・エェイ!そんな意地悪するんなら、
もう寝床先に占領しちゃいますヨ!」
「ちょっと勝手にっ!」
「ああっ待ってください2人とも・・・!」
真っ暗闇の中、私の隣で2つの寝息が聞こえて来る。
私達はただの人形だけれど、
明かりの消える夜の間は、必ず眠る。
どういう訳か、勝手にすこんと意識が飛ぶのだ。
夜は急に目の前が暗くなるから、少し怖く感じる。
・・・暗い所が怖いんじゃなくて、一人が、怖い。
自分のことを何もわからず、
心にぽっかり穴が開いたような気持ちで、
ただガラクタ山に転がってたことを、
思い出してしまうから。
でも今日は、2人がいるから、ほんの少しほっとしている。
2人の寝息を聞いていて、いつの間にか私も眠っていた。
―ガラクタ置き場に明かりがついた。
「朝」だ。
私達3人は目を覚まし、私はうさぎのぬいぐるみを持った。
「行かない方が、いいと思いマス」
出かけようとした私へ、ディアンは忠告のように言う。
「何?・・・あ、昨日怖がられたからその仕返し?」
茶化すように言ったから、いつもみたいにふざけた返事が
返ってくるかと思ったけれど。
「違いマス。持っていっても、何の意味もないですヨ」
そう、複雑な顔で答えるばかり。
「・・・どういうことなの?私はこの子を持ち主へ返すだけよ」
「・・・言ったまんまですヨ。まぁ、行けば分かりますカラ」
忠告はしましたヨ、とディアンは付け足す。
馬鹿にする感じでは全くないので、少し気になったが、
約束は約束なので、私はぬいぐるみを持って街へ出た。
今日はミルティも一緒だ。
約束の場所に行くと、ちゃんとフランがいた。
「お待たせ」
ぬいぐるみを見せると、彼女は笑顔で受け取る。
「私のであってる・・・!ありがとう」
良かった、そう思った。
彼女は受け取ったぬいぐるみを抱え、
じっとそれを見ていた。
「あれ・・・?」
ぬいぐるみの腹の縫い目に手をやる。
「あ、それは―」
説明しようとして、私はそこで言葉を止めた。
ミルティも、表情が凍り付いている。
「・・・どうして」
―信じられない。
「そんな、ことを」
―行かない方が、いいと思いマス。
持っていっても、何の意味もないですヨ―
ディアンの言葉が、今更のように浮かんだ。
私達の目の前に散るのは無数の綿。
それの出所は、勿論・・・
少女フランの手にある、
無残に引き裂かれたうさぎの腹だった。




