Ⅲ. 灯り売りの魔女
灯り屋。
様々な種類の明かりを取り扱う、不思議な雰囲気の店だ。
店に入ると、店主不在。他の店員らしき者もいない。
だが、店には私以外の客が・・・たった今来た。
しかもそいつは、私の一番会いたくない奴だ。
「貴方、いつまでついてくる気?
オンブレと話してる間に走って帰ってったくせに・・・!!」
「イイエェ?キミについて来たんじゃありませんヨォ?」
「じゃあ何で行き先がかぶるのよ。
灯りなんて、貴方必要なの?」
「灯り?ワタシの目的は、あくまでもここの魔女サンですヨ?」
「・・・」
目的も、かぶった。
「てかキミ、ワタシが嫌なら無視すればいいじゃないですカ。
わざわざ声かけてくれるなんてェ、私のコト、
ひょっとして好きなんですカァ~?」
そんなことあってたまるか、と言い返そうとした時、
店のカウンターの奥から、女が一人現れた。
「おやおや、なんだかやかましいと思ったら、
可愛いお客さんと一緒じゃないか、ディアン」
女は陽気にディアンに話しかける。
「あ、お久しぶりデスー!姉上サマ」
「姉上さま・・・姉!?」
「ああ、そうさ。お嬢ちゃん。
私は店主で魔女のラブラドライト。
そして・・・ディアンの姉さ」
この人が、魔女。
一目見てすぐ、佇まいから確かにそう感じられた。
しかし、それにしてもこんなにまともそうな人が、
この、不躾な男の姉とは、思えない・・・。
「それで、お嬢ちゃん。君は何者?」
名前は未だわからぬままだが、
とりあえずミルティに付けてもらっている名を言った。
「私は・・・アキレギア」
「それは、仮の名だろう?」
「分かるの」
「魔女だからな。どんなこともお見通しさ」
「どんなことも・・・」
「そうさ。なんでも」
「・・・すごいわ」
魔女は微笑う。
その表情は、確かにディアンに似ている。
この町へ行くよう促し、「モチロン、キミの記憶の欠片に関係するヨォ」
そう言ったときの、あの顔に。
「やーだナァ!ジョーダンは止めて下さいヨォ、姉上サマ」
「冗談?」
「キミってば騙されちゃってェ。
たかが人形が、相手を見ただけで理解するなんてコト、
出来ませんヨ。人間だって出来ないんですカラ。
姉上サマがキミのこと知ってるのは、
ワタシが話したからに決まってるでショ」
やれやれ、って感じでディアンは言ってきた。
対する私も、ため息つきながらラブラドライトに言った。
「つまり、魔女だからわかるってのは、嘘」
「いやぁ、すまないすまない。
確かにディアンから、記憶を失くしてる子がいるんだって
聞いてはいたのさ。『アキレギア』って名前だが、
それは別の子に付けてもらったっていうのも、
怪異と戦ってるっていうのも全部な。
実際に会って、名前聞くまではお嬢ちゃんのことだとは思わなかったね。
あ、でも魔女なのは本当だぞ」
・・・あぁ、やっぱりこの2人は、姉弟なんだ。
なんかこう、弁明の適当な感じが、似てる。
「魔女なのはまだ信じがたいけど、
ディアンのお姉さんだってことは認めたわ」
「うーむ・・・なら、証明してあげよう」
「証明?」
「アキレギアの知りたいことを話しながら、な?」
魔女―ラブラドライトは、カウンターの上にあった、
細くて黒い杖を、近くの灯りへ向かって一振りする。
店のガラス製のランプの中で唯一何も装飾のないものだったが、
灯火を覆うガラスに絵が徐々に現れる。
「君は、私に聞きに来た―
自らと同じように、怪異と戦う者のことを。
合っているか?」
「・・・ええ、そうよ」
「では、その者について教えてあげよう。
私が知り得た限り、3人。
いずれも男だったな。1人と、双子」
ガラスに浮き出るのは3人の男。
魔女が言う、怪異と戦う者。
「一人ふらりと現れては消えていく、紫の剣士。
このガラクタ置き場にある城にいる、双子の騎士」
「居場所は」
「剣士は、この街の奥。廃墟のような場所にいる。
双子騎士は言った通り、城さ」
「廃墟と、城・・・」
「行く気だな?」
「勿論。私は、取り返さなくてはならないから。
怪異の中にある、私の記憶を」
「そうか。早く取り戻せると良いな。
どちらも、ここからは遠い場所にいる。
・・・でも、安心しな。
ディアンがちゃんと案内してくれるからさ」
「ハィ!?」
ずっと黙ってたディアンが、いきなり名指しで指名され、
裏声を出す。
「ちょっ、姉上サマ?」
「別に良いだろ?ディアン。
お前『自称』だけど案内人だしな」
「・・・自称?」
「ああ、こいつ案内人じゃなくて、
『道化師』の人形なんだ。
ここに長いこといるから、そう名乗ってただけでな。
気が向いた奴に声かけて案内人やってるのさ」
「ふぅーん・・・?」
ちらっとディアンを見ると、当の本人は、
舌をちょこっと出して、ウインクしてやがる。
「こいつは、いっつもこんな感じだけど、
道案内と戦闘に関しては役に立つから、まぁ大目に見てやってくれ」
・・・道案内は確かにしてもらったし、強いのだけれど、
戦闘はだいたい逃げてる・・・。
という言葉をぐっと飲みこんで、
出来る限り笑顔で頷いておいた。
「何か聞きたいことがあったらいつでもおいで」
「これで、やっと探しに行ける。
ありがとう、ラブラドライト」
お礼を言って、私は店の出口へ歩いていく。
「あ、姉上サマ。これ貰いたいんですけど、いいですカ?」
店を出る一歩手前で、ディアンがこう言って指さしたのは、
黒縁に、紫色のガラスのランプ。
「ああ、構わない。好きに持っていきな」
そう言ってラブラドライトは杖をそれに向かって振って、
一瞬で、ランプを箱詰めにした。
ディアンが受け取っているのを見ながら、
「どこに置くのよ、それ」
「エ?モチロン味気ないキミのお部屋に決まってるでショ?」
「味気ないって何よ!
仮にそうだとしても、あそこは私の部屋よ?
他人が勝手に人の部屋変える権利はないでしょう!?」
・・・でも、あのランプ、良いかも・・・。
「でもォあの部屋には、このランプ、合うと思うんですがネェ」
「うっ・・・」
ディアンの言う通りだ。
「仕方ないわね・・・。許可するわ」
「ワーイ」
「でも」
と、私は一呼吸おいて。
「許可するのは今回だけ。
これ以上物は増やさないで頂戴」
「ハァーイ・・・チッ」
「何か文句でも?」
「イイエー」
「そうだ、ランプは壊れやすいから大事に扱いなよ。
それと、彼女の道案内もちゃんとな。ディアン」
「ヘェーイ。・・・もう、姉上サマまでェ・・・。
ちゃんと、仕事は果たしますヨォー」
そんな会話をしながら、私達は町の通りへ出て、
一度部屋へと戻ることにした。
―灯り屋―(アキレギア・ディアンが帰った後)
「おかしいな・・・」
魔女はぽつりとつぶやく。
「このガラクタ置き場で、動力である意志を持って目覚める・・・。
記憶は、目覚めと共に自覚する。
目覚めて既に記憶が飛んでるなんてものは、
普通はいない・・・。
あの娘は、一体何なんだ?」




