Ⅱ. 裁縫師オンブレの店
おどけた道化師みたいな案内人の、
「耳寄り情報」で、結局私は街に出た。
「耳寄り情報」としてディアンが私に話したのは、
「街に出ればイイコトがありますヨ~」
というもの。
一体何処が、耳寄りなんだ。
これだけじゃ分かんない。
という思いを顔に思いっきり表した私へ、
ディアンはにやりと笑みを浮かべて、こう続けた。
「モチロン、キミの記憶の欠片に関係するヨォ・・・」
いつもとは違う物言いに、何かがありそうな気がして、
私はこうして街へ出たのだ。
私はガラクタを集めて作った街のなかに並ぶ店の中の一つ、
『Sewer・Ombre’s Shop』(裁縫師・オンブレの店)へ来た。
この手芸屋に来たのは、単に一番街に入口に近かったからだ。
店には以外に人がたくさんいた。
でも、なんだか異様に騒がしいような気がする。
しかも、何かが手芸屋から出てきた。
「・・・嫌な予感がするわ・・・」
「そーですネー」
「!?」
いつの間にか隣ににディアンがいた。
「貴方、いつの間に・・・!」
「ずーっと追ってましたヨォ?
ワタシを置いていくだなんて、ひどいナァ~」
「連れて行く気なんかなかったわ!」
「エェ~?ワタシとキミはパートナーみたいなもんでショ?」
「そんな訳ない。・・・それより」
店から飛び出してきた「何か」が、こっちに来た。
現れたのは巨大な裁縫鋏。
「怪異みたいね・・・」
こう何度も何度も出くわすといい加減慣れてしまう。
鋏は刃を開いたり閉じたりを繰り返しながら、
街の広間を突き進む。
進み方は本当に滅茶苦茶で、デタラメ。
「ホント、困ったことに、
キミがいるところには必ず怪異が来るんですカラ」
「仕方ないでしょう、そんなもの・・・。
私が怪異を起こしてる訳じゃないし、
そもそも勝手に向こうが来るんだもの!」
そう言って私はディアンから、彼が持つ黒い杖をひったくった。
「ちょっと!何するんですカ!!」
という声が聞こえたが、もちろん無視。
私は地面を杖で数回大きい音が出るように叩く。
鋏は向きをこちらへぐるりと変えた。
目も耳もないが、この音に対して反応出来るようだ。
私はさらに続けて杖を打ちつけ、人気のない方へと誘いだす。
相変わらず鋏は、刃を閉じたり開いたりしながら、
私が出す音の方へやって来る。
私は鋏の刃が閉じた隙に、一本足のような刃を杖で叩きつけてやった。
鋏は一本足状態だったので、すぐに倒れてくれた。
起き上がりもせず、すぐに欠片もぽろりと出てきた。
今までに比べて、ずいぶんとあっけない。
欠片を取り、小さくなった鋏も杖と共に持って、
ディアンの所に戻った。
「私の剣じゃ、前みたいに折られてしまうと思って。
ちょうどいい物持ってたから貸してもらったわ」
杖を返しながらにこっと笑って言ってやると、
杖を受け取りながらディアンもいつもみたいに笑って、
無言で・・・私の手の欠片をひったくった。
「!!何するの!」
「仕返しデス」
「返しなさい!」
「・・・」
「ちょっと聞いてるの!?返しなさいってば!」
「・・・嫌デース」
ディアンは私の記憶を前回の馬の時と同じように、
杖の中にしまい込んでしまった。
返せ、返さない、の言い争いをしていたところに、
「お嬢さん、大丈夫ですか!?」
と誰かが声をかけてきた。
「・・・え、えぇ。・・・あ!」
ディアンが走って逃げて行っていた。
しかも、走ってる方向、私の部屋の方だ。
「・・・えと、いいですか」
「えぇ・・・私に、何用かしら」
「どうも、ありがとうございました。
さっきの『怪異』、僕の鋏でして・・・。
ご迷惑をおかけしました・・・」
ぺこりと一礼してみせるのは、茶髪に橙色の眼の男。
齢は少年と青年の間ぐらいのように見える。
「裁縫鋏の持ち主ということは、貴方はあの裁縫屋の方?」
「はい、僕が店主のオンブレです」
私は彼に招かれ、彼の店へと入る。
あれだけ鋏が暴れまわったのだが、すっかり片付いていた。
私が外で戦ってる間に、片付けてたらしい。
「・・・いやぁ、それにしても驚いた。
貴方も、『怪異』と戦ってるんですね!」
私は用意してくれた椅子に腰かけながら話を聞いている。
かっこよかった~などと、やたら褒めて来るのだが。
褒めちぎると同時にオンブレは今、
私の針のむき出しだった剣の鞘を作ってくれている。
裁縫鋏のお礼、だそうだ。
「私もって・・・。なら、私以外にも、闘っている人がいるの?」
「はい!」
「へぇ・・・」
「って言っても、貴方以外に一人しか僕は見たことないですけどね。
男性の方でしたよ」
「男性・・・」
私以外にも、怪異と戦っている人がいるとは。
まぁ、そうじゃないと町中怪異だらけになっているだろうし・・・
ってあれ?
怪異を倒してるなら、私の記憶の欠片は・・・!?
私は思わず椅子から立ち上がって、彼に問う。
「あの、『闘っている方』がどこにいらっしゃるか、知ってますか?」
「え、えぇ、知っていますが。
でも多分僕よりかは、魔女さんに聞いた方が良いかと」
「・・・魔女?」
「この店の3つ隣の『灯り屋』の店主の方ですよ。
物知りですし、この町のこととか、怪異についてもよく知ってますよ」
「・・・そう。ありがとう」
「よし、できました!どうぞ!」
ほんの少しの時間だったのに、立派な革製の鞘が出来た。
「着ていらっしゃる服に鞘を通せるようにしましょうか?」
鞘入りの剣を渡しながら私に彼は聞いてきたが、
「構わないわ。手で持ってる方が、
突然襲い掛かられても応戦できるから。
鞘、わざわざありがとう」
「いえいえ!またいつでも、いらっしゃって下さいね!」
明るい声で見送られながら、私は「灯り屋」へと向かうことにした。




