Ⅰ. 忘却の楽園
ガラクタ川を越え、私は今、とある空間にいた。
ここはガラクタ川を越えた先の街の中。
私が取り戻した一番新しい記憶で見た通りの場所。
チェス盤のような床に、大きな窓が取り囲む、
ダンスホールだ。
ここは私の部屋であり、ミルティに言わせれば、
「楽園」なのだそう。
自分に見合う物、自分が気に入った物。
そんな物を詰め込む、自分のための楽園。
ここには、何も家具は無い。
でも、博士が私のために用意してくれた場所。
それだけで、私にとってここは、特別な場所なのだ。
家具がない代わりに、ここへ持ち運んだのは、
黒いつぎはぎうさぎのぬいぐるみ。
私がガラクタ置き場で最初に戦った「怪異」の元の姿。
私が破ってしまった腹部はすでに縫われていた。
「ミルティ、これ・・・」
あのチャリオットとの戦闘が終わり、ガラクタ川を渡る前のこと。
私が彼女に預けていたぬいぐるみを返してもらい、
私は腹部が直してあるのに気付いた。
「お預かりしている間、縫っていました。
破れたままだと可哀想でしたから」
「・・・ありがとう。でも、どうやって」
「いつも、人形達と一緒に、裁縫道具も持ち歩いているんです。
人形に着せてる服が破れたりしますからね」
元々は、このぬいぐるみを直すために川を越えようとしていたのだが、
その目的を川の向こうの街にたどり着くまでに果たしてしまった。
裁縫道具を探す必要が無くなったので、私は記憶で見た部屋を探そうと
したのだが、これもまた、案内人ディアンと、導き役ミルティによって、
すぐに見つかってしまった・・・。
そんなわけで、街ですることもないため、私はここにいる。
この場に入ってすぐ、懐かしさを感じた。
居心地も良いと思った。
そして今、気がかり一つ。
私に、ずーーっとさっきから
「ネーネーネーネー」と、親に話を聞いてもらおうとする
子供のような、ディアンの声だ。
「鬱陶しいのよ」
無視するのに耐えられなくなった。
「あーやっと聞いてくれましタァー。
そのお耳のお飾りのせいで聞こえてないのかと思いましター」
ケタケタと笑いながら言う。
その物言いで、余計に腹が立つ。
・・・あ、ちなみにミルティは『ある店に用がある』と、
一人街の方に行っている。
「・・・耳飾りが耳を覆ってるけど、ちゃんと聞こえてるわ」
「じゃー返事ぐらいして下さいヨー。
さみしいじゃないですカァ」
「・・・人の部屋に勝手に上がり込んだ上に、
さんざん面白みがないって文句言った奴の話なんか聞きたくないわ。
おまけに馬鹿にすることも言って」
「それはキミがちゃんと話聞いてくれないからですヨー」
「・・・」
ああ、ほんっとうに。
うざったい。
「・・・。で、何の用」
これ以上彼に小言を言った所で、何もならない。
私は仕方なしに話を聞いてやることにした。
「ワタシからキミに、耳より情報デス」
「・・・?」
・・・というか、そんな情報があるなら、
ふざけてないでさっさと教えてほしいものだ。




