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マキナの落とし子  作者: Doya tsuchi
第2章 人形使いの人形
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Ⅵ. 役割

動かなくなったチャリオットの胸元に、淡い光が見える。

「これが、貴方の記憶?」

ミルティが尋ねる。

「えぇ」

私はその光を両手で掬い取った。


見えたのは、工房。

かつて私が置かれていた場所。

私が・・・生まれた場所。


私よりも遥かに大きいマキナ博士が、目の前にいた。

博士は私に靴を―黒いトゥシューズを履かせている。


「博士、この人形にはどのような絡繰からくりが?」

博士の隣の誰かが言った。

・・・確か、この人は。

あぁ、そうだ。博士のお弟子さんの一人。

博士の周りには、色んな人がいたんだった。


「この子には、他の子とは違う絡繰りが入ってるんだ。

ただ手を動かしたり、ちょっと歩いたりするのとは違う」

そう言って、博士は私をそっと抱き上げる。

すぐそばのテーブルの上にあった銀のぜんまいを、

私の腰のあたりの穴にはめ込み、巻いていく。


何が行われるのだろうか、と彼の弟子たちが集まって来る。

キリキリ、キリキリ・・・。

静かな部屋に、ただただ無機質な音が響く。


「さぁ、ご覧よ」

音は止み、博士は私を降ろした。

私の視界がぐるぐると動く。

私は踊っていた。内部の絡繰りが動く音を響かせて。


「この子は、他の子とは違う。

ただ手足を動かす人形じゃないんだ。

この子はただ動けるのではく、バレエを踊ることが出来る人形。

私の持てる技術を全て注いだ、最高傑作だ。

名前は・・・・」


―名前は?


博士が言ってくれる前に、映像は切れてしまった。


「・・・あった」

「あったって、何が?」

「私の、名前。あったの。

でも・・・本当の名前が何かまでは、分からなかった」

「そうですか・・・」

「でも、良かったじゃありませんカ。

ちゃんとお名前はあった訳でショウ?」

「そうね・・・」


「他には、何か思い出せました?」

「私には、バレエを踊れる絡繰りが備わっているって」

「バレエ・・・。あぁ、だから戦ってる間、

あんな動きをしてたんでしょうネェ」

「何はともあれ、チャリオットは止められたわ。

大きさも元に戻ってるみたいだし」


足元のチャリオットは元の小さい人形の姿だ。

ブローチをのけてミルティに人形を渡す。

「ごめん。一カ所、服針で突いちゃった」

「いいえ。・・・ありがとう、アキレギア」

「あのーミルティさん、馬共はどうすれば良いんでしょうカ?

ワタシあのままにしちゃってるんですガ」

「馬も、チャリオットの一部なのですが・・・」

「大きさ、戻ってないの?」

「エェ・・・。あ、ちょっと待ってて下サイ」

ディアンはリボン縛りの馬の方へ走っていった。


ちょっと経って戻ってきたディアンの手には、

元の大きさに戻った馬が2匹。

「あら、小さくなってたの?」

「イイエ~?ワタシが小さくしたんですヨ?

人形部分しか元に戻ってないんデ、ひょっとしたら、と思いましテ。

さ、これどうゾ」

ミルティには馬を、私にはディアンの王冠のついた黒い杖を向けるだけ。

・・・杖?


「・・・ディアン・・・?」

「まァまァそう真顔にならないで下さいヨー。

ちゃーんとキミに『お返し』しますカラ!」

「・・・?」

ディアンがさっと杖を一振りすると、

小さな光が現れる。私の記憶だ。

「まだ残ってたから、大きいままだったのね」

「そーみたいデスネ」


記憶の光からは、さっきの記憶とは違った、別の映像が見えた。

音は無い。ただ、映像だけが流れていた。

私が置かれている場所。

私の小さな部屋だった。


「ディアン、ミルティ。

もう、追ってくる物は無いから。行こう」


案内人と、導き役の隠者を連れて、

私はいよいよガラクタ川の向こうへと、向かって行くのだった。








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