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奴隷勇者  作者: 雨風炉
始まりは優しさと温もりに
8/12

暖かな食事

 着替えを終えて階段を降りているとおいしそうな匂いがほのかに漂ってきた。その匂いを嗅ぐとすぐ自分が空腹であった事を知らせるように頼りない音が下の方から聞こえる。


  やっぱお昼に食べたシチューだけじゃ足りないよなぁ・・・。


 階段を降りてたら一組のスリッパが揃えられていたがサイズが合わなかったので裸足のままだ。そのまま匂いのする方に脚を運んでいくと木製のビーズで出来た暖簾の向こう側からコッティの声が聞こえてくる。

 

「おじいちゃんありがとう!」

「ホッホッホ、いい匂いがすると思うて台所に来たら誰もおらなんだから勝手させてもらっただけじゃよ、儂が早めに帰ってきてよかったのぅ」

「ほんっとにありがとうおじいちゃん!せっかく作ったのに焦がしちゃう所だったよ~」

「ホッホ、幸運じゃったのう、きっと精霊様がこんな美味しい物を焦がしてはなるまいと儂を早めに帰らせたのやもしれんの」


 暖簾をくぐるとお爺さんに手を合わせて感謝しているコッティの姿があった。


「うぅ、ご飯のこと完全に忘れてた。一昨日もやっちゃったから気をつけてたのになぁ……」


 ため息をつきながら落ち込んでるコッティに声をかける


「ごめん、俺が大きな声出して驚かせてしまったから鍋焦がしちゃう所だったんだよね……」

「ううん違うの、私って昔から何かに気を取られちゃうと他の事忘れちゃうからさ……。それにおじいちゃんのお陰でお鍋も焦げなかったし、気にしないでね」

「うん……」

「ホッホッホ、大丈夫じゃよ、さぁ怪我人は椅子に座って待っていなさい。もうすぐ食事の支度が終わるからのぅ」

「うん、あとはかまどに入れるだけだけだから。おじいちゃんお皿の用意しといて、それから――」


 食事の用意ができるまで言われたとおりに椅子座って他愛もない事を考えつつ二人の様子を呆然と眺めていた。


  お爺さんとコッティしかいないけど、コッティの他の人はいないのかな?

  この家は木造なんだな、机も椅子も他の家具まで殆どが木で作られてる。あコップも木だ!

  この証明は電球……じゃあないよな?なんだろう?

  お腹すいたな。

  美味しそうな匂いだな~早く出来ないかな~。

  お!きたきた~、なっなんだこのでかいソーセージは!?コッチは湯気が立ち上ってる大きなじゃが芋に何か載せた?……この色そしてこの溶け具合はバターか!

  今度は野菜がゴロゴロ入ったスープの鍋に綺麗に切り分けられた大きくて黒いパンだ!全部美味しそう!

  お!これが最後の料理か……鉄板の上に並べてるのは……こんがりと焼きあがったスペアリブ!立ち上った湯気と一緒に漂ってくる肉の匂いに涎がとまらねぇ!


 などと机に大皿が並べられる頃には食べ物のことしか考えられなくなっていた。


「それじゃあ食べましょうか!」

「「精霊の恵みに感謝します」」

「「トゥーツェリモッロ」」


 二人は両手を合わせて一礼するとナイフとフォークを手にとってテーブルに並べられた料理を自分の皿に好きな分だけ取り分ける、俺も二人の動きを真似て一礼したあと料理を取り分けた。


 まずはこの巨大なソーセージから、フォークを突き立てて一口で半分ほどを囓るとパリっと皮を鳴らしながら広がるハーブの香りと肉汁が口の中ではじけ飛ぶ。


  味良し!香り良し!皮良し!今まで食べてきたソーセージで一番美味い!

 

 そのままもう片方も放り込んで顔を綻ばせながら存分に味わった。


 次に取り分けたのはじゃがバターだ。ホクホクにふかした芋にバターを乗せただけのシンプルな料理。ナイフで真っ二つに開くと溜め込んでいた湯気を一気に吹き出した。その湯気に混じったバターの香りで一気に食欲が高まりフォークを一刺しして数度息を吹きかけた後口に放り込む。


「ホフホフ アヒー!」


 やけどするほどの熱さに思わず声が出てしまい向かいに座っていた二人に笑われてしまった。


 少しの間口の中で暴れる熱い芋との格闘をしているとようやく冷めてきたようだ。表面に溶けたバターの香りと味がする、少し噛むと旨味うまあじが出てきた、その旨味は確かに芋なのだけれど、それだけでは無い気がする。


  美味いなぁ。この芋、噛めしめるとほんのり別の野菜の味もする。

 

 何でだろうと少しだけ考えたがすぐにやめた。今はそんなことよりも次の料理を食すべく手を伸ばしていた。


 次に選んだのはスープだ。丸い両手持ちの鍋、大きさで言うと直径30㎝高さ25㎝くらいだろうか?その鍋に入ったスープの表面は一口大の野菜が溢れ出んばかりに埋め尽くされている。そんな具沢山のスープを掬って木製のボウルに注ぐと。敷き詰めらていたのは沢山の豆と人参にじゃが芋を一口大に切った物だということが分かった。野菜が満杯に入ったスープはトロトロとしており野菜をたっぷりと煮詰めた様子が伺える。

 

 湯気を揺らしながら木製のボウルを手前に待って来てスプーンで一掬いすると野菜たちがこれでもかと乗ってきた。きっとコレも美味いだろうという期待に自分の顔が綻んでいるのが分かる、喉を一つ鳴らして少し冷ますため数度息を吹いて口に入れると野菜達の食感と旨味うまみが優しく広がっていく。


 口に入れた時は豆と人参とじゃが芋がそれぞれの個性を出していたのが噛むたびに絡み合ってまた違う味へと変わっていく。

  

  美味い!野菜の自然な甘さが頬張るごとに深くなっていく!


 スープを何度も口の中に流し込んで居るとあることに気付いた。

 

  この味……さっきも食べたような……あ!じゃがバターだ!きっとこのスープでふかしたんだ!


 さっきのじゃがバターに感じていた美味しさの秘密に一人で勝手に納得していると正面に座っているお爺さんから声をかけられた。


「青年や、このパンと一緒に食べてみなさい」


 そう言って渡されたに黒いパンのスライスを少し齧ってみた。想像していたよりも硬くて齧り切るのに少し時間がかかった。味は独特の酸味があって不味くはないけど上手くもないといった感じで少し顔を顰めてしまった。

 

 そんな俺をみて未だ笑顔を浮かべているお爺さんはやってみれば分かると言わんばかりに促してくる


 そのパンを言われた通りにスープにくぐらせて食べると、スープを吸って柔らかくなったパン、その中に包まれた野菜の旨味は酸味と絡み合いまろやかな味になって口の中で流れ出してきた。


 さっき食べたパンだとは信じられず思わずパンを見直した。


「どうじゃ?びっくりしたじゃろ?ホッホッホ。さぁどんどん食べなさい」


 俺の反応を見て笑みは深めたお爺さんは陽気に笑いながらまた食べ始める。このパンとスープの組み合わせがこんな美味しいとは思っても見なかった俺は、その後スープを二度おかわりしてパンと食べたりそのまま飲んだりを繰り返した。


  ついにこのスペアリブに手を出す時が来た。


 手を付けていない最後の料理。そう、こんがりと焼きあがったスペアリブだ。スペアリブだけは予め各自の皿に一つずつ分けられており俺はメインディッシュにと最後まで残していた。


  やっぱり一番おいしそうなものは最後に食べるに限るな。


 焼けた肉の香りを大きく吸い込む、それと同時に口の中に早く食べたいとせがむように一気に涎が溢れだした。肉の上に振りかけられた粗挽き黒胡椒のアクセントにより一層食欲が沸き立つ。


  絶対に美味い。


 口の中に溢れでた涎を飲み込んでフォークとナイフで切ろうとするが肉の弾力に刃が上手く進まない。少し困って二人を見るとコッティは手で骨を掴んでかぶり付いていた。


  あー、やっぱりああやって食べるのか。


「あの……ヒロヤスさんあんまり見ないで下さい……その…恥ずかしいです……」


 見られていることに気づいたコッティは顔を頬を染めて口元を隠す


「ナイフが上手く使えないからどうやって食べるのかと思って」


 

 骨を掴んで勢い良く齧り付いた。歯を食い込ませたところからは肉汁が溢れだして口の中をうめつくす。かじり切った肉を口の中で頬張ると、弾力のある肉を噛む度にとどまることを知らない肉汁が染みだしてくる。


 しばらく噛んでも止まらない肉汁、何時になったら飲み込めばいいのか分からず噛み続ける。


 肉汁が少し収まったと感じこれを好機にと飲み込んむと一息ついた、だがすぐにあの肉汁を思い出してまた涎が溢れだす。それからは骨付き肉のスペアリブが真っ白な骨だけになるまで一気に食べつくした。これがやみつきになるということだろうと食べながらに少し思った。

 

 食後に顎が疲れていたのは言うまでもない。


 



 気がつくと机に並べられた料理が全部空になっていた。どうやら夢中になって食べていたらしい、いつの間にか隣に立っていたコッティに水に入った木製のコップを手渡されると、そのコップを受け取って食べ終わった後の余韻に浸りながら口を付けた。


「ヒロヤスとっても美味しそうに食べてたね!」

「とっても美味しいかった。俺あんな美味しいの初めて食べた」


 コッティの言葉に間髪に入れずに返すと照れたような笑みを浮かべながらお爺さんの方を向いて飛び跳ね。


「聞いたおじいちゃん!とっても美味しいって!食べたこと無いって!」

「ホッホ、良かったのぅコッティ。青年にこんなに喜んでもらえて」

「エヘヘ~おじいちゃん以外の人に食べてもらうの初めてで少し自信なかったんだけど、こんなに喜んでくれると嬉しいなぁ」


  素直に喜んでくれているようだ、でもこれだけじゃ俺の美味しかったは表現できてない!


「コッティは料理上手なんだな!すっごく美味しかったよ!こんなに美味しい食事なら毎日帰ってくるのが楽しみだろうなぁ」


 俺がそういった直後コッティは顔を真っ赤染めて


「お片付けしてくる!」

 

 とだけ残し、食べ終わった食器を運んで急ぎ足に台所に向かった。


「あれ~?おかしな事言ったかなぁ?」

「青年や」


  そういえばお爺さんにまだちゃんと挨拶してなかったなぁ


「あ!お爺さんすいません。今まで挨拶もせずに!俺はヒロヤス・マシバって言います。助けていただいた上にこんな美味しい食事まで、本当に有難うございます」


  ここでは名前は先に来ることはコッティの時に学んだのでちゃんと名前は前に苗字は後にした。


「おぉ!青年の名前はヒロヤスというのか。儂はケルティ=ポッフじゃあの子の名前は……もう知っておったのぅ。良い子じゃろう?ホッホッホ」

「えぇとっても良い子ですね。お孫さんですか?」

「いや、あの子は拾い子じゃ。それよりも青年や、さっきの言葉の意味分かっておるのか?」


  さらっと驚愕の事実を喋った気がしたが、それよりも大事なことって一体なんだろう。


「え?コッティの料理が上手って言ったことですか?」

「違うわい、『毎日帰ってくるのが楽しみ』の所じゃ。これはのう遠回しに求婚する言葉の一つなんじゃよ」


 何かとんでもないことを聞いた、ような気がする。


「……へ?」

「じゃからのう、貴方と結婚したいですと遠回しに言っておるのじゃ」

「ええええええええええええええええええええ!」


 まさか、あの何気ない会話の中で何気なく発した言葉で何気なくプロポーズをしてしまったから、コッティは赤面して逃げていったというのだ。


「やっぱり知らなかったようじゃのぅ」

「知りませんよ!褒め言葉が求婚の言葉になっているなんて気づきませんよ!」

「コッティは、満更でもないようじゃったぞ?」

「いやいやそんなわけ無いでしょ!見ず知らずの男にいきなり求婚されて誰が受けるっていうんですか!そりゃだれでも逃げ出したくなりますよ!うわー、この後どういう顔して会ったらいいんだ……」

「ホッホッホ。まぁ若さゆえの過ちというやつじゃ。なんなら貰ってやってくれても儂は構わんぞ?」

「俺は構いますよ!あんな可愛い子もう既に誰かと付き合ってますよ。そんな子に告白したって知れたらその男に一体どんな仕打ちをされるやら……」

「私にそんな人いないよ」

「そっか、それは良かった。いや良くないで……しょ?」


 振り向きながらツッコミを入れた先にいたのはコッティ本人で思わず固まってしまう。


「その……おじいちゃんに聞いちゃったんだね……」

「う、うん」

「でもヒロヤス知らなかったんだよね?なら仕方ないよ。ちょっと恥ずかしくって逃げちゃったけどお皿洗ってる時に、そういえばヒロヤス記憶喪失だったなぁって思いだしたから。私の勘違いだから全然気にしないでね」

「う、うん」

「お風呂沸かしといたから。先にどうぞ」

「う、うん」


 この後お風呂に浸かりながら、頭のなかを告白という文字がグルグルと回って何も考えることが出来なかった。

 結局この日は何も聞くこと無くそのまま寝てしまった。

次回投稿は 12/19 金曜日


書いた分だけ投稿します


12/16 食事描写の変更 羊の鳴き声を「メェー」から「ベェー」に変更

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