異世界? 後
12/26の書き上げたのはこの話です
「色々聞きたいことはあるんだけど、まずは精霊とか精霊術って何?俺はそんなもの知らないし見たことも聞いたこともない。次は帝国ってどこ?ここは日本じゃないのか?それに俺の言った話も何でそんな簡単に信じてるの?人を載せて飛ぶ鳥とか、こんな大きな狼って普通じゃないでしょ?体も動かないし、バッグは壊れるし、どうして――」
最後の方はただの愚痴になっていた。だがコッティはそんな俺の言葉を真剣に聞いてくれた、少なくとも俺にはそう見えた。
そして話を聞き終えたコッティは何か考える様に顎に手を当てしばらく沈黙してから口を開く。
「この話、長くなるけどいいの?」
無言で頷く
「わかった、まずは精霊についてね。精霊はもともと《精》と呼ばれる小さな光の玉で、この精が宿主として認めた相手と契約する事で晴れて精霊になるの。精は人だけじゃなく土地や川もなんかも宿主にする事があって、そういった精は妖精と呼ばれるわ。妖精と精霊の違いは宿主の違いだけだからあまり気にしないでね。
とりあえず、私の精霊を見てみよっか。出ておいでリティ」
そう言うと彼女の胸のポケットから小さな顔がひょっこり出てきた。それは瞬く間にポケットから飛び出すとコッティの周りを螺旋を描くように宙を舞ってからその手に降り立った。
「この子が私の精霊よ、名前はリティっていうの。ヒロヤスが助かったのもこの子のおかげよ」
手の平にまっさらなワンピースを着てが淡い緑色の光を放つ少女の姿があった、その小さな背中には二枚の薄い羽が生えている。
「これが……精霊……」
マグカップくらいの背丈をした少女はコッティの指に頭を撫でられて嬉しそうにはしゃいでいる。
俺は初めて精霊という物を見て驚きの余り声も出せずにずジッと見つめていると彼女の精霊が羽をはためかせながら俺の目の前に飛んできた。目の前に少し滞空すると精霊はそのまま俺の膝の上に降り立つ。
本当なら触ってみたいのだが、体が動かず諦めた。
「ありがとうリティ、君のおかげで助かったよ。君は俺の命の恩人だ」
今の自分に出来る精一杯の感謝の気持ちを伝えると、彼女は小さな手でワンピースの裾をつまみ上げて軽く一礼をしてコッティの所に戻っていった。
「すごく礼儀正しい子だね」
コッティは肩に座っているリティを褒められてよかったねと撫でながら口元を手で覆っている。
「フフ、それよりもヒロヤスが触りたそうにしてる顔が…ップク…アハハハハ!この世の終わりみたいな顔だったよ!怪我が治ったら一杯可愛がってあげてね!フフ」
自分では顔に出してるつもりはなかったのにそんなに顔に出てたのか……
「ふぅ、久し振りに大笑いしちゃった。説明続けるね、それで精霊達は《精素》って言う自然のエネルギーを糧に生きていてるの。精素は自然が豊かな所に多く存在するわ、例えば健康な草木や綺麗な川とかね。それで、その精霊に必須な精素を精霊の宿主は体内に貯め込む事が出来ようになるの。なぜ貯める必要があるのかはまた後で説明するわ。ここまでで何か聞きたいことある?」
「一つ不思議に思ったんだけど、リティって何で緑色に光ってるの?」
「それは《精光》って言って、精霊の性質によって発する精光の色は違うの。大別すると《火》、《土》、《風》、《木》、《水》、《氷》、《雷》の七種類の性質に分かれていて、それぞれ『火なら赤』、『土なら橙』、『風なら黄』、『木なら緑』、『水なら青』、『氷なら藍』、『雷なら紫』の精光を放つの。そしてリティは木の精霊、だから緑色に光ってるの」
「へー、色によって性質が違うんだ」
「他に特殊な精霊もいるけどそれはまた今度ね。えーっと、どこまで話したっけ?……あーそうだ!言い忘れてたけど普通の人は精霊達の姿を見ることは出来ないの!なんでかって言うと精霊は精素から出来ていて、その精素を見る素質が無いと精霊達の姿は見えないんだよ!逆に言うと精霊達が見えるってことは精霊と契約する資格があるって事で、もしかしたらヒロヤスも精霊と契約できるかも――」
精霊と契約ができる、その単言葉を聞いた瞬間張り裂けんばかりの大声を上げた。
「マジで!やったあああああああああああああああああああ!!!」
あまりの嬉しさに衝動が抑えきれず思わず大声を上げてしまった。さすがのコッティもこの嬉しがり方は想像してなかったようで驚いて耳をふさいでいた。
「急に大声出さないで下さい!!!」
「ごめん!本当に嬉しくてつい!うっわー!楽しみだなぁ」
もはや精霊と契約が出来るという事で頭の中いっぱいになっていて、コッティの事も忘れて妄想に耽っているとコッティの平手打ちが炸裂した。
「落ち着いて下さい、話はまだ終わってませんよ。ヒロヤスさんが教えて欲しいと頼んできた事ですから最後までしっかり聞いて下さい」
「はい、すいませんでした」
平手打ちを喰らって赤くなった頬をそのままにコッティは説明を再開した。
「次は精霊術のについてよ、精霊術は精霊達が使う自然の力を操る術の事で、例えば火や水を操ったり、思い通りに風を吹かしたりする事が出来るわ。とってもすごい人になると地面を隆起させたり何もない所に森を創ったりできるの。ちなみにヒロヤスの体に塗ってる傷薬はリティに生やして貰った薬草を使って私が調合したのよ」
「え!そうなの!コッティって薬の調合も出来るんだ!本当にすごい!」
「だから言ったでしょ?私は緑の医学科の首席なんだから!」
鼻を鳴らして胸を張ったコッティからは自分に誇りを持っている事が伝わってくる。だが少しすると急にしょんぼりと俯きだして何か呟き始めた。
「どうしたの?」
「そのね……一つ謝らないといけない事があるんだけど……」
謝らなければいけない事とは一体どうしたのだろうか。
「実はヒロヤスの体が動かせないのは私の所為なの……。痛みを感じないようにって麻痺草と一緒に薬草を擦り潰した薬を塗ったんだけど……、思ったより麻痺草が効き過ぎちゃって体を動けなくしてしまったみたいなの。本当にごめんなさい……」
「大丈夫だよ、確かに体は動かせないけどその御蔭で痛みは感じないし、なによりコッティにこんなに良くしてもらってるんだからそのくらいどうってこと無いよ」
「ほんとに?良かったぁ~。お前の所為だったのか!って怒られるかと思って言い出せなかったんだ~。あ!でもすぐに動けるようになるから!それだけは安心してね!」
うつむき気味にしょぼくれていたのが嘘のように明るく笑顔で喋りだした。気持ちがここまで表情に現れる彼女にこちらもその明るさを分けて貰ってる気分になる
「それで話を戻すけど、さっき精霊達は精素を糧に生きるって言ったよね?精霊術を使うには契約した精霊にその術に応じた精素を与えないと発動しないの。ここでさっき言った『なぜ体内に精素を貯める必要があるのか』の答え、精霊は体内に貯めた精素でないと精霊術が発動できないの。だから精霊と契約したら精霊術発動用に体内に精霊術を使う用の精素が貯めれるようになるってわけ。分かった?」
「へー、なるほどなぁ。じゃあ体内の精素はどうやって貯めるの?」
「それは簡単よ、精素の濃い所で過ごしたり、食事したり、瞑想したりして貯めることが出来るの」
「精素って食事でも貯めれるんだ!」
「ええ、精素は色々な物に含まれていて食べることで取り込むことも可能なの、その特性を利用した《精素薬》もあるよ」
「奥が深いんだなぁ」
首だけを動かして何度も頷いてると更に次の説明を始める。
「次はこの国の事だよね?ここはクルスアード帝国で、ヒロヤスの言う『ニホン』じゃないよ。クルスアード帝国はフォルディア大陸の南端に位置する国で、この大陸には他にトライレード王国とソロルザード公国があるわ。
掻い摘んで言うわ、もともとこの三国は一つの大国だったんだけど大昔にその大国を統治していた王様が死んだ時、その三人の息子が誰が次の王になるかで争った結果、大国は三つに分かれてしまって今の三国が出来上がったの。
他には、私が知る限りだと海を渡った向こうにクアドリア同盟っていうドワーフの国と、フュンノレア霊樹領っていうエルフの国があるけど、ニホンなんて国も地名も聞いたこと無いわ」
クルスアード、トライレード、ソロルザード、クアドリア、フュンノレア……。どれも聞いたことのない国だ。それにフォルディア大陸なんて地球には無かった……
そんな思考を巡らせながらまた頷くと次の説明に移る。
「後はギルドについてね?ギルドは基本的に職業組合の事なんだけど、私が言った帝国ギルドっていうのは帝国直属の役所みたいなもので、身分証明の発行はもちろん街の自治や簡易的な裁判、職業・仕事の斡旋に依頼の発注、果てには観光案内まで。なんでも手広く取り扱ってる所よ。ここに行けば大抵の事はなんでも出来るわ」
「すごい便利なところだな」
「ヒロヤスも怪我が治ったら身分証の発行しに行かないとね。最後は大きな鳥と狼だっけ?鳥の方はきっと運搬鳥クーフィルのことね。クーフィルは名前の通り物を運ぶ事が出来る鳥で大きな個体だと人を二人運ぶ事なんて造作も無いのよ。それと大きな狼はきっとその森の魔獣だと思う。魔獣は凶暴だけど多くは人里離れた場所に縄張りを作っていて、その縄張りに入らない限り危害を加えることは無いの。時々はぐれ魔獣が人里に降りて危害を加える事があるから、帝国ギルドや、戦闘系のギルドがその討伐に当ってくれるわね。
他の体が動かないのはそれだけひどい怪我だったから。どうして鞄が壊れてるのは、知らないどうしてこんな事になったのかも知らない。これで終わりかな?」
ここまで俺の疑問や愚痴にまでにスラスラと詳細に説明し続けたしたコッティ、その説明と聞いていると更にお伽話やゲームでしか見たことがないような単語も出てくる。きっとまだまだ知らない事があるだろう。とりあえず最後にこの謎だけはどうしても聞かなければならない。
「ごめん、でも最後にもう一つだけ、なんで日本語を喋ってるの?」
「何言ってるの?私達が話してるのはニホンゴじゃなくてグルストだよ?ずっと昔には色んな言葉があったらしいけど、今は皆グルストを使ってるわ」
「グルスト……。ハハ……そっか……」
ここがもし日本じゃないなら日本語を話しているはずが無いと思って聞いてみたが、どうやら俺が今喋っている日本語はここではグルストと呼ばれているようだ。日本語がグルストなのか、グルストが日本語に翻訳されてるのかは分からないが、なんにせよその御蔭で言葉の壁にぶち当たらずに色々と知ることも出来た。一番の収穫はここが異世界だと確認することが出来たことだろう。
「さっきからどうしたの?もしかして……怪我した時に記憶が!どうしたらいいんだっけ!えーと、えーと、どうしようヒロヤス!!」
先ほどまで冷静に俺の質問に答えていたコッティが急に人が変わったように慌てだす。
「いや、記憶無くしてないから大丈夫だよ。ただね、俺の知ってる世界と違うなって思ってさ…」
「やっぱり記憶が……大丈夫!きっとすぐに治るから!今はしっかり身体の治療しようね!」
うーん、誤解されてるな……まぁ後で説明しよう。今は色々な事を頭に詰め込んだせいなのかすごく眠たい。
眠気にうつらうつらになりながら俺はその旨をコッティに伝えると、すごく呆れられたが体を横にしてくれてカーテンまで閉じてくれた。
「ごめんね、なんだかすごく眠たくて」
「ううん。こっちこそ疲れてるの気付かなくてごめんね。昨日治療したばかりだもん、当然よだね。起きたら呼んでね、おやすみなさい」
「おやすみ」
コッティが部屋を出て行くとカーテンの端から漏れる陽光が部屋を照らす。俺は温い布団の中、そのまま眠りに落ちた。
12/27 国について説明してる所を書ききれていなかったので修正しました
1/12 精、清素などのフリガナをなくしました
リティは木の精霊に変更、コッティは緑の精霊術師としました
精霊の色による性質の違いを明確にしました
火=赤 土=橙、風=黄 木=緑、水=青、氷=藍、雷=紫
青色はライトブルー(水色)とします
クアドリア同盟を獣人の国からドワーフの国修正しました