異世界? 前
12/25 「前」と「後」に分けました
彼女が部屋を出て行った後、泣き止んで冷静に先程の事を思い返していた。
『はい、あーん』と呼ばれる病気で弱っている時に彼女にやってほしい事ランキング上位に入っている行為。(のはず)
それをあんな金髪碧眼の美少女にしてもらって嬉しいのやら恥ずかしいのやら分からない顔を作って赤面する。
いや、落ち着こう!深呼吸だ!
深呼吸を3度程したあと、そのことを意識しないよう他の事を考えようとした結果、まずは自分の状態を確認をすることに決めた。
上半身はほとんど包帯と湿布で埋め尽くされている、もしかしたらこのおかげで動けないのかもしれない。下半分は布団が邪魔で見れない、どかしたいのは山々だが体が動かせないので諦める。きっと同じようになっているだろう。
ひと通り自分の状態の確認を終えると次はこの部屋を見渡す。横に長い六畳ほどの小さな部屋にベッドと机、本棚しか見えない。
上から家具の配置を見ると、一番左の壁に面するように俺が寝ているベッド、その横にさっきコッティがお盆を置いていた小棚、入り口の扉を挟んだ向こう側に部屋の半分をほどの大きさの机が壁に向いて置かれている、その左に少し隙間を空けて机の二倍ほどの高さの本棚が立っている。窓は入り口から見て正面に二つあり陽の光が俺に向かって差し込んでくる形だ。
そういえばバッグはどこかな?とキョロキョロ探していると、コンコンと扉をノックする音が響いた。
「お食事温めなおしてきました」
扉が開くと、そう言ってコッティは入ってきた。さっきと同じ様にお盆にシチューの皿を持っている、服は着替えを済ませたようだ。
「本当にご迷惑おかけします。ご飯もありがとうございますコッティさん」
「むー……そんなかしこまらないで下さい!こっちまで堅苦しくなっちゃいます、それにコッティでいいですって言ったじゃないですか!敬語もコッティさんも禁止!次言ったらご飯あげません!」
「わか……ったよ、コッティ……でいいんだよね」
「それで良いんです」
「それならコッティも敬語やめていいよ、俺も気にしないし」
「そう?なら遠慮無くそうさせてもらうね」
先ほどまでの丁寧な口調とは打って変わって気さくな口調になった事に少し驚いていると。そんな俺を怪訝そうに見つめて何かを言いたそうにしてる。
「えと……なに?」
「ねぇもしかしてヒロヤスって貴族様か大商人だったりする?」
「いや違うよ、なんで?」
「勝手だけど鞄の中身を調べさせて貰ったの。肌触りの良い変な服や羽みたいに軽い変な靴、他にも見たことないものばっかり入ってた、それにね鞄も見たこと無い素材で出来てたり鉄の鎖みたいなので開け閉めができるようになってすごく驚いちゃった。だから、これはすごく高価な品々で、それを持ってるヒロヤスはもしかして何処かの貴族様か大商人みたいな大金持ちなのかなって思ったんだけど、本当に違う?」
お淑やかだと思っていた少女は信じられないほど矢継ぎ早に喋リ出す、しかも彼女なりの推理も披露してその真偽を問い詰めてきたのだ。きっとこれが本来の彼女なのだろう。
大人びた雰囲気を漂わしていた少女はその実ただの推理好きな女の子だった。
「俺は平民だよあれ鞄もその中身も全部小遣い貯めて買ったんだ」
「ふーん……まぁいいわ。あと鞄の中に入ってた汚れた服は全部洗っといたよ!ただ……ボロボロになった服は直せなくて……」
「気にしないで、あんな汚れた服を洗って貰っただけでもありがたいよ。ありがとう」
「そうよね!ボロボロなのは仕方ないよね!」
ついさっきまで項垂れていた少女は明るい笑顔になる。コロコロと表情が変わる子だ、きっと自分の気持ちに素直なんだろう。
ぐぅ~~~
本日三度目の腹の虫は少し長めだ。
「アハハ!ごめんねヒロヤスすっかり忘れちゃってた!ずっと食べたかったんだよね、今食べさせてあげる!――あ!また泣いたらダメだよ~」
「たぶんだいじょうぶ……だと…思う……」
コッティに言われてこれからされる事を思い出した。頭のなかで再現されるあの姿にまた顔が赤くなる。
「それじゃあ」
「ちょ!まっ…」
「フーフー。はい、あ~ん」
「なんで体が動か、あむ」
あ、美味い。
口に入れられる直前まで恥ずかしがっていたのが一口食べると美味しさの余り全て忘れてしまった。そのまま静かになった俺はお皿が空になるまで『フーフー。はい、あ~ん』をされながら食べた。
この姿もあとで思い出して恥ずかしさで死ぬ事は間違いない。
「ごちそうさまでした」
シチューを完食した俺を見て満足気にお皿を片付け部屋を出て行ったが、すぐにコップと水の入った透明な瓶を持って戻ってきた。
「のどが渇いたら言ってね、飲ませてあげるから」
「何から何まで本当にありがとうコッティ」
「ううん、気にしないで。怪我人はしっかり栄養とって早く直さないとね!」
「そうさせてもらうよ。それにしてもコッティすごく手際いいね、こんなしっかりと怪我の処置までしてくれて。本当にすごいよ」
「ほんとに?ちゃんとできてる?エヘヘ~実はねぇ」
褒められて上機嫌になったのか少し間を空けて自慢気に言ってくる。
「私はカルドラ精霊術師学校の高等部中回生で緑の医学科の首席なんだよ。すごいでしょ?」
「は?精霊術師学校?緑の医学科?え?それに高等部の中回生ってことは……もしかして一つ下なの?」
自慢気に話した内容に精霊などという突拍子のない単語が出てきて思わず考えている事を全て口走ってしまった。
「むぅ、なんで分からないかな~。それに一つ下ってなんですか?どういうことですか~?」
「あ、いやもしかしたら年が一つ下かも知れないって事で……」
「え!じゃあヒロヤスって18なの?うそ!背が高いからもっと大人だと思ってたよ!私は17だよ!」
「あーやっぱり高等部は中回生って高校二年生と一緒なんだ」
「もしかしてヒロヤスも精霊術師学校に行ってるの?」
「いや普通の学校だよ、それにもう卒業間近だけどね」
「普通の学校なんて平民じゃ行けないんだけどなぁ。む~、やっぱり貴族様なんじゃ……」
「それよりそのカルドラ精霊術師学校とか緑の医学科ってなんなの?」
「ここの麓のカルドラって街にある精霊術師を育成するための学校のことだよ、緑の医学科のっていうのは治療術式や医学、薬学なんかをを専攻してる学科で、この『緑の』っていうのは木の精霊を扱う術師の総称なの」
「へ~」
やっぱり精霊っていうのは聞き間違えじゃあ無いのか。それに精霊術まであるのか。ますますゲームや本の世界みたいだ。逃げてる時からずっと思っていたけどもしかしてここは……
「それでね、言いたくなければ言わなくてもいいんだけどさ。……ヒロヤスはどうしてそんなにひどい怪我をしてるの?一体何があったの?」
その問いに俺はこれまでの経緯を話した。気がついたら見知らぬ土地にいた事、大きな鳥に載せられていた事、黒いローブを着た人の事、大きな狼の群れに襲われた事、ここに来るまでの全てを。
「そんな大変な目に……。でももう大丈夫!ここは安全だから、傷が治ったらすぐにカルドラに行って帝国ギルドに報告しに行きましょう!きっと親も心配して――」
「ちょっとまってくれ!」
このまま話を進めると更に何を言っているの分からなくなると感じた俺は思い切って話を遮る。
「急にごめん。実は俺、コッティの話が分かんない事だらけで、すごく混乱してるんだ。……できれば、その、色々と聞きたいんだけど……」
急に話を遮られ少しキョトンとしていたコッティは優しい表情を浮かべて答えた。
「いいよ、なんでも聞いて。分かる範囲で教えてあげる」
1/12 コッティを木の精霊を宿す緑の精霊術師としました