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子鬼と大鬼


 二つある生存者の囚われた洞窟の内、近い方は森を山沿いに進んだ崖の下にあった。


 ガジェットの地図アプリを確認し、慎重に森と崖の境目を進んだ二人は、アプリの示す通りの場所に洞窟があるのを確認してから、一旦森の中へと身を潜めた。


 健一は背負っていたリュックを二つとも美希へと渡し、槍を確認する。美希は見た目に大きなリュックサックを二つ背中に乗せて抱えると、健一へと頷いた。


「じゃあ改めて確認だ。洞窟の中では戦闘は俺がする。七瀬は生存者を見つけたら救助、生存者と一緒に洞窟から脱出してくれ」


「本当にそれで大丈夫なんですか……? 中に居る化け物を中本さんだけで引きつけるって」


「まぁ、大丈夫だろ。流石に洞窟なんだし、そんな広い場所でもないと思う。通路に一列に並んだ化け物を倒すだけの簡単な仕事かもしれないしな」


 それは健一のプレイした事のあるゲームで良く行われていた戦法の一つだった。大きな部屋に当たったら通路へと引き返し、敵が一列になるのを見計らって攻撃すると、敵が面白いように倒せる。


 尤も現実でそう上手く行くとは思っていないが、それでも洞窟であるという事は、ある意味幸いでもあった。


 だだっ広い草原にひしめくように化け物が存在していたら、あっという間に取り囲まれてお陀仏になってしまうだろう。


 その可能性は洞窟という事である程度減少したと見て良いと健一は思っている。


 そんな事を茶化して言う健一に美希も薄い笑みを浮かべて頷いた。


「救助はなるべく早くやります。救助したらこの森の茂みの裏に待機してます。あとご飯とかも食べさせてあげないといけないだろうし」


「そうだな。彼女達がどれだけ食事とか摂っていないか分からないし、助けたのに餓死なんて事になるのもあんまりだ。その為にも七瀬は救助して、食事を振る舞ってやってくれ」


「はい、分かりました!」


 そんなやり取りを終えてから、健一達は森の茂みから姿を現し、崖の下の洞窟へと向かう。


 洞窟の入り口からはひんやりとした空気がどことなく流れてきて、その薄暗い雰囲気も相まって二人へと緊張を促す。


 健一と美希は一瞬顔を合わせ、お互いに頷いてから洞窟内へと侵入した。


 洞窟内は外からの日差しは全く入ってこないが、壁際に生えている苔のようなものが仄かに光を発生させ、その輪郭を映し出す。


 二人はその灯りに導かれるように、無言で慎重に洞窟内を進んでいった。


 脇道なども無く、ほぼ真っ直ぐの道を二人で歩いていると、暫くして曲がり角にぶつかる。その曲がり角を曲がり、やはり道なりに進むと、本筋の道とは違う、脇道が現れた。


 その脇道のすぐ先から、物音と共に化け物達の唸る声が聞こえた事を、二人は見逃さなかった。


 顔を見合わせお互い頷くと、慎重に脇道を進む。そして辿り着いた先の小部屋では、やはり想像通りの行為が行われていた。


 大きな角を額から一本生やした巨体の大鬼と呼べるだろう化け物が一匹。そしてその巨体とは見劣りする、子鬼と言って差し支えない小さな化け物が二匹。


 それぞれが女性を組み敷いて腰を揺らしているのを、健一達は確認した。


 女性は全部で四名。一人は行為の直後なのか、胸を上下させながら地べたへと寝転がり、虚空を見つめている。後の三人は言わずもがな、化け物に組み敷かれていた。


 通路に隠れて中の様子を伺った健一は美希へと一瞬視線を向け、彼女の意志が正常に、怒りを湛えて化け物達を見つめている事を確認してから、小部屋へと躍り出た。


 まずは一番厄介そうな、巨体の大鬼から仕留める。


 レベルアップの恩恵と力一杯踏み込んだ事で健一は弾丸のように素早く大鬼へと最接近し、その顔面を二つに割った。


「グオォオオオッ!!」


 大鬼が顔面から血を吹き出し顔を押さえる間に胸に槍を突き立て、勢い良く縦に裂く。


 大鬼を真っ二つにしてから次の目標を定めると、既に子鬼達は女性達から離れて臨戦態勢を取っていた。


「ギャギャギャゴォォオッ!!」


 健一に対し威嚇とも悲鳴ともつかない鳴き声をあげた子鬼達に再び弾丸の素早さで近づくと、まず一体を胴から串刺しにし、その身体を力でもって持ち上げ、もう一体へと投げつける。


「おおおぉぉおっ!」


「グギャァッ!」


 投げつけられた子鬼はもんどり打って背中から倒れ、そこを健一にやはり串刺しにされ、事切れた。


 その様子を確認し、ほっとした健一は周囲を確認した。


 小部屋では美希が鞄からタオルとペットボトルの水を取り出して、囚われていた女性達へと手渡し、彼女達の身体を拭き、水を飲ませて回っていた。


「大丈夫ですか? もうすぐ、脱出するまでもう少し頑張ってください」


 小声で女性達へと声をかけて甲斐甲斐しく世話をする美希の姿を確認しつつ、女性達の裸体を見ないように視線を動かし、小部屋への入り口から通路を警戒する。


 女性達と行為に励んでいた化け物は倒したが、すぐに脱出とはいかないのは想定通りだ。彼女達は肉体的にも疲弊し、精神的にも危うい状態であると思われる。


 そんな彼女達を何とか奮い立たせ、せめて洞窟の外まで行けるように誘導するのが、一番の難所では無いかと思っていた。


 そしてそんな健一達の行為を、この洞窟に潜む化け物達が見逃すとは思えなかった。


 想像した通り、見つめる先から僅かな足音が複数聞こえてくるのを確認した健一は、槍を構えて背後に居る美希へと肩越しに声をかけた。


「じゃあ予定通りに、俺が洞窟内で暴れるから、七瀬達は急いで避難して!」


「はい! あの、無茶だけはしないでください!」


 美希の言葉を聞いてから、それに応えず健一は小部屋から通路へと駆ける。


 この、洞窟内に囚われた生存者を助けるという行為自体が結構な無茶である事を健一は理解していた。


 敵はどれだけ居るか分からない。今回は単純な造りであったから迷わずに済んだが、もし複雑な造りの洞窟であったなら、生存者を探しだせず化け物に追われるだけだったかもしれない。


 だが事ここに至っては、後は彼女達を脱出させるだけである。


 健一は近づいてくる足音に口を歪めながら、その足を早めた。


 脇道と本道の交差する程近くで、子鬼が二匹と大鬼が一匹、小部屋へと向かって歩いてくる。


 それを確認した健一は、やはり最初に大鬼を標的に定めながら更に加速した。


「おおおぉぉおおっ!!」


 進行方向から近づいてくる健一に気付いた鬼達だが、健一のスピートに対応できず、体勢を整える事が出来ていない。


 健一は勢いをそのままに大鬼へと突っ込み、槍を大鬼の胸に突き立ててそのまま大鬼の身体を大きく吹き飛ばす。


 次いで襲ってきた子鬼二匹へと槍を走らせて、その首を刈り取る。電光石火の攻撃に為す術の無かった子鬼二匹は、あっという間に冥府へと旅立った。


 その様を見届けた後、健一は本道へと躍り出る。するとすぐに大鬼とエンカウントしてしまった。 


「グガァアアッ!」


 大鬼は手に持っていた棍棒を大きく振り上げ、思い切り振り下ろす。その棍棒を槍で受け止めた健一は、だがしかし一瞬その力に押し負けた。


 ズルリと足を滑らせて踏ん張り、棍棒を押し返す。地力では押し負けないが、勢いを付けてから振り下ろされると押し負ける。


 相手と自分の力がそう変わらないという事実に、健一は冷や汗をかく。だがここで負ける訳にはいかないし、何より死にたく無い。


 改めて腹に力を入れて大鬼の棍棒を左にずらして受け流し、返す刀で大鬼の腹を引き裂いた。


「ギャオォォオオッ!」


 叫び声をあげる大鬼に止めを刺し、未だ見ぬ本道の先へと視線を向ける。その先からは、結構な数の足音が健一へと近づいてきていた。


 仲間の悲鳴に誘われたのか、それとも最初の子鬼の叫び声が原因か。そんな些末事を考えながら、健一は本道を前進し、自分へと近づいてくる複数の大鬼へと躍りかかった。


「もっとだ、もっと来やがれ! てめぇら全員、処分してやる!」


 その顔には、壮絶な笑みが浮かんでいた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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