爆破と脱出
早朝、早めの時間に健一達は起き出し、軽めの朝食を摂ってから身支度を整え一路東へと向かう。
先頭を健一が進み、最後尾に凜音を据えて道無き道を進んでいく。
森の中では時間の感覚が狂いがちではあるが、ガジェットで時間とマップを確認しながら進んでいるので、位置取りは正確であった。
ほぼ正確に真東に進んで三時間ほど歩くと、健一の警戒網に多くの気配が引っかかった。
察知した気配を掴みながら健一は足を止め、後ろへと合図する。
「この先だ、ウジャウジャいる。一旦ここで休憩しよう」
「それじゃあ少し早いですけど昼食にしましょう」
美希は言うが早いか早速ビニールシートを広げて地面を整える。
そこに面々が座ると七輪とガスコンロを取り出して調理を始めた。
流れるような手際の良さに感心しつつ、健一は考える。
この先を進むのに、どうやって攻略したものか、と。
「……この先は、どう考えているんですか?」
ペットボトルの水を飲みながら健一の考えを読んだかのように凜音が言うと、健一は頭を捻りつつ応える。
「相手は木だから、今の銃じゃ心許ないと思うんだ。だから火炎放射器なんかが良いんじゃないかと思ったんだが……」
「出てこないんですか、火炎放射器」
「あぁ。まぁ俺の知ってる火炎放射器って、背中にボンベ背負って吹き出す奴だから、このリュックサックから出てくるような容量じゃないんだよな」
そう言って、静かに凜音から手渡された水を飲みながら続きを応える。
「なもんで、その線は諦めた。後はコレだ」
実際に軍用リュックサックの中に手を突っ込んで健一が取り出したのは、丸みを帯びた小さな道具。
それに検討のついた香澄が頷く。
「手榴弾ね。それをばら撒いて木を吹き飛ばす訳?」
「それと、コレ。軍用スコップだ。手榴弾をばら撒きつつスコップで枝葉を斬り落とす。だが一番重要なのは、凜音の魔法だな」
「そうですね、可能な限りの火力でまず道を開くのが良いでしょうから。私の魔法を一発打ち込んだ後に全員で突入という感じですか?」
「そうなる。例によって先頭は俺が出て道を切り開くから、みんなフォローし合いながら後に続いて欲しい」
「誰かが怪我か何かした時には私が回復させるわね」
凜音と香澄の協力がイービルトレントの対策には重要になってくる。
健一の掴んでいる感覚では本当に辺り一面がイービルトレント、という状況だと思っているので、そこらじゅうから敵が押し寄せてくると考えるべきだ。
だがイービルトレントはその巨体を支えるのが根っこである限り、足は遅い。
その足で追いつかれるよりも前に、道を切り開き突き進むのが一番良いと考えていた。
「兎も角この後は総力戦になるから、皆で頑張ろう」
決意を秘めた健一の言葉に、香澄と凜音だけではなく、メンバー全員で頷いた。
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いよいよイービルトレントの群生地への突入となる。
既にメンバー全員はマスクをつけて手榴弾と軍用スコップを装備させ、予備の手榴弾もたんまり備えてある。
健一は目の前に広がるイービルトレント達を睨みながら、凜音へと合図を送った。
それと同時に、手榴弾のピンを抜く。
「フレイム・トルネード!!」
凜音の持つ炎系広範囲魔法、フレイム・トルネードが発動する。
炎の巨大な竜巻はイービルトレントへと突っ込んでいき、下草を焼きつくしながら健一達の道を作ってくれる。
そこへ追撃に全員で手榴弾を投げ込み、辺り一面を爆破する。
「ギギギギギィィイイッ!!」
魔法と爆破による攻撃に堪らず悲鳴をあげたイービルトレントの群れへ向かって、健一が一番槍で突っ込んだ。
ザン、とイービルトレントの顔面に槍を突き立て、その木を死に体へと変化させる。
「よし、行くぞ!!」
健一の号令と共に、生き残りメンバー全員が、イービルトレントの群れへと突入した。
先頭を走る健一はその危機察知能力を全開にし、イービルトレントの奇襲攻撃を無効化させる。
一歩歩く度に足元から根が突き出て健一を串刺しにしようと向かってくるが、全てを既の所で回避し、逆に突き出た根を切り飛ばす。
そこへ凜音が魔法で炎を生み出し木を燃え上がらせる。
そして、後に続くメンバーの手榴弾の爆風が木々を揺らす。
最初に凜音の放ったフレイム・トルネードはいまだに健一の前へ道を作ってくれており、その炎はイービルトレント達の枝葉へと移り、延焼させていく。
健一達の周囲は、大きな炎が渦巻いている状況だった。
この状況を想定していた健一達はマスクを用意し装備しているが、生木の燃える煙は相当な量が出て、健一達の視界を奪う。
だがそれでも、今ここを突き抜けなければ森から一生出られないという覚悟を持って、健一達は突き進んでいた。
健一は先頭に立ち切っ先をイービルトレントへ次から次へと突き立て、その後ろで凜音が魔法を放ち燃え盛る炎を生み出す。
後続に続く者は姿勢をなるべく低くして煙に巻かれないよう注意しながら、スコップで身を守りつつ手榴弾を投げ込んでいた。
やがてフレイム・トルネードがイービルトレントの群生地の半ばで消え去った所から、健一達の本当の戦いが始まった。
「進め! 前だけを見て進むんだ!」
左右から襲ってくるイービルトレントを切り伏せながらメンバーを誘導し、鼓舞する。
どこまでも続くイービルトレントの群れだが、必ずそこには先があると信じて、健一達は道無き道を進む。
未だに延焼を続けている火の手は大きな山火事となり余波を残しているが、生きているイービルトレントは未だ先にうようよしている。
そこを健一が力技で切り倒し、凜音が魔法で燃やしながら先へ先へと向かっていた。
やがて先頭を進む健一の前に、イービルトレントの群れの隙間に光が射しているのが見えてくる。
木漏れ日では無い、間違いなく太陽が降り注いでいる大地をそこに見た健一が、振り返って全員に言う。
「出口だ!! みんな先に進め!!」
健一の言葉に全員が希望を見出し、足を早めて前へと進む。
その間にも襲ってくるイービルトレントを健一が槍で攻撃し、遠くから襲おうと近づいてくるものにも飛び込み、切り倒す。
そうしてイービルトレントの群生地から全員が抜けだしたのを確認してから、健一もその森から飛び出した。
途端、太陽の光がサンサンと健一へと降り注ぎ、明るく照らす。
木々の合間から木漏れる陽の光ではない、直射日光を浴びたのは随分久しぶりだなと思いつつ、健一は前を向く。
そこには大地に座り込み涙する面々が居た。
「やった……抜け出せた……」
「もう、大丈夫なのね……」
慰め合い、喜び合う全員の姿は服は草木で擦り切れ、焼け焦げた後すら残っている。
それでも、全員で一緒に森から脱出できた事が、とてつもなく嬉しかった。
健一は座り込む女子達の先へと進み、道を確認する。
健一達の居る場所は切り立った崖になっており、下は断崖絶壁だ。
眼下に広がる広大な海が波音を立たせて健一達を出迎えている。
ここから左右に道はあるが、どれも崖下へ続くような道では無い。
ここから先、どうやって脱出しようかと一瞬考えるが。
兎も角今は、森から脱出できた事を喜ぼう。
そう思い女子達へと振り返った時に、奴はやはり唐突に現れた。
『地獄に一番近い島の諸君、森抜けおめでとうございまーすっ!!』
毎度毎度タイミングの良い、性悪兎だった。
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