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イービルプラントと目的地


 兎の男が言いたい事を勝手に述べて勝手に消えていったその後。


 健一達のグループは沈黙に支配されていた。


 島の外周を覆っているイービルプラントの群生地、そこを抜けなければ島からは出られない。


 そう告げられた面々は、静かに思考を働かせていた。


 健一も1人今後の作戦を考えているが、中々良い案が思い浮かばない。


 そこへ、凜音が挙手して声をあげる。


「南に抜けるのはどうでしょう。東と西にイービルプラントの群生地があるのであれば、南か北を抜けるのが良いのでは」


「南か……」


 凜音の言葉に全員が自らのガジェットを出してマップを表示する。


 確かに南は森の切れ目があり、そこから先は赤茶色の色で埋め尽くされている。


 ただこの赤茶色のエリアがどのようなエリアなのか、分かっていない現状ではなんとも判断しにくいと感じていた。


 東へ進むべきか、南へ抜けるか。


 また健一が思考に嵌りそうになった時に、香澄が声を上げる。


「私は、東へこのまま行ったほうが良いと思う。確かにイービルプラントは恐ろしいけれど、もしかしたら南にはもっと恐ろしい化け物が居るかもしれないわ」


「もっと恐ろしい化け物って、例えば?」


「それは、分からないけれど……。でも今分かっている情報としては、東西にはイービルプラントが居る。それだけは分かっている事よ」


「もしあの兎の人が嘘をついていたら……」


「そこまで考慮に入れてしまっては結局何も決められないわ。だったら尚更東へ進むべきよ。今まで東端を目標に進んできたのだから」


 香澄としても可能な限り安全な道を辿って島から脱出したいというのは本音なので、避けられるならイービルプラントと相対するような事は避けるべきだと思っている。


 だが現状分かっている事は東西はイービルプラント、北には山と凶悪なゴーレムが居るという事であり、不確定な南の状況について考慮するのは危険だと考えていた。


 もし南へ行って現状よりも追い詰められたりしたら、目も当てられない。


 南へ行くという状況は現状よりもより希望を見出した上での状況であると思われるし、それなのに実際はより過酷であった、などという場合は……。


 なので、現状としては東へこのまま進み、最短距離で東端へと到達する方が安全だろうと決断した。


 そんな香澄の決断に、健一も迷いながらも同意する。


「そうだな。あの兎は恐らく嘘はついていないと思うが、言っていない情報が多くあると思う。南はもしかしたらイービルプラントより最悪の敵が居るかもしれない。イービルプラントが居ると割れているだけ、東のほうが安全かもしれないな」


「兎が嘘をついていないという、根拠は?」


「今まで兎が与えてきた情報は全部、本当の事だったから、かな」


 そんな健一の言葉に「それは確かに」と美希も同意する。


「今までいくらでも嘘をつく事はできたでしょうし、今回に限って嘘をつくとは考えにくいですね。南の情報をくれなかったのは、秘密にしておきたいから、とか」


「実際に現地に行って俺達が絶望するのを楽しみにしているという事も考えられる。あいつは俺達が悲惨な目に遭う事を楽しみにしているようだからな」


「その割には、私達の居場所を中本君達へ教えたりしたようだけれど、その目的はなに?」


「……助けださせて、また絶望の淵に立たせるのを楽しみにしている、とか」


 そんな美希の言葉に全員がシン、と静まり返る。


 確かにそれは、性悪な兎の考えそうな事である、と健一は無駄に納得してしまった。


 思えば最初の転移の時だって、健一には危機回避能力は与えられない、これから行く場所には危機しか無いのだから、と本当の事を言っていた。


 そして危機回避を危機察知という、危険が事前に分かる能力に変換して付与してきた。


 これは現状良い方向へ使用出来ているが、今後危機が分かっているのにそれを避けようもない状況というのはいくらでも考えられる。


 その時、健一が考えるであろう「何故分かっているのに回避できなかったのか」という苦悩等を楽しみにしている節があった。


 そんな性悪な奴であるからこそ、健一は心の底から憎しみを抱いているのだ。


「とりあえず、進行方向は東って事で良いのかな」


「結局どちらへ行っても危険が変わらないのであれば、中身の割れている東の方がマシかもしれない、って事ですよね」


「まぁそうなるな」


 健一がそう言うと、凜音は「分かりました」と同意してその提案に賛成する。


 他の全員も結局未知の恐怖よりも確定している敵との対峙を取り、全員で東のイービルプラントの群生地を抜けるという事になった。


「それじゃあ、明日は朝早めから行動しようと思うから、みんな眠ってくれ。火の番と警戒は俺がやっておくから」


「……いつも申し訳ありません、よろしくお願いします」


 申し訳無さを身体中で表現した美希を代表にして、女性陣は寝床の準備へと入るのだった。



----



 焚き火を前に、木を背中にして健一は槍を肩に掛け座っていた。


 女性陣は皆寝床で横になっており、健一も毛布を被って警戒姿勢のまま休憩していた。


 そこへ、寝床から一人香澄が起き上がり、健一の側へと移動してくる。


「どうしたんですか、先生」


「少し眠れなくて。話でもしない?」


 そう言うと、香澄は健一の横へと並んで木を背もたれに座り込む。


「……南には、何があるのかしら?」


「多分、安全な場所ではないと言う事だけは間違いないと思いますよ」


「何故、そう思うの?」


 香澄のその問いかけに、健一は憎々しげな表情を浮かべながら呟く。


「俺達生き残りは皆、森に居た人間です。この島全域に人が送り込まれたのなら、きっと南にも人は居たはずなんです」


「……南に送られた人は、皆死んでしまったという事かしら」


「恐らく。俺はそう思ってます」


 健一は予測として話しているが、本人の中ではそれは確定事項となっている。


 南はきっと、森などより恐ろしい場所なのか、恐ろしい化け物が居るか。


 そうでなければ、自分達と同じように生き残っている人間がいくらか居ても可笑しくない。


 なのに現実には、自分達以外の生き残りは既に存在していない事が、健一の中に確信を産ませていた。


 そう考える健一に同意して、香澄が呟く。


「……なんで私達はこんな世界に、こんな場所に飛ばされたのかしら」


「あの兎の男が何を考えて俺達をここへ飛ばしたのか、って事ですか?」


「そうね、そういう事。私達が苦しんで死んでいく事が楽しみなだけかしら」


「きっと、そういう意図はあるんだと思います。自分が他人の苦しんでいる所を見たいから。そういった部分が無いとは思えません」


「他にも何らかの意図がある?」


「さぁ……それは分かりません。俺達はこの地獄のような島の事しか知りませんから、もしかしたら外の人間達にも何らかの意図があるかと」


 そう話していて簡単な事に気付く。


 自分達は島に三十名程で飛ばされたが、この島以外に飛ばされた人間の方が絶対的に多いのが事実だ。


 兎の男は自分達の苦しむ様を見て楽しんでいるだろうが、他の人間は今何をしているのだろうか。


 国々が手厚く保護しているだろう、等と言っていたのを初日に健一は聞いているが、何のために兎の男は転移者を国に保護させたのか。


 その意図が、全く分からなかった。


「……とりあえずこの島から脱出しないと、何も分からないですね」


「そうね。その為にも、この島から脱出しないと」


 香澄はそう呟くと、木を背もたれにそのまま横になる。


「……寝返りうって、背中傷めますよ」


「そうね。じゃあここで横になるわ」


 健一の忠告に素直に従い、香澄がゴロリと横になる。


 健一との距離は先程よりも近い感じだが、付かず離れず、といった距離で横になっていた。


「寝顔、見えますよそこだと」


「どうせ寝起きの顔だって見られているんだから、今更どうってこと無いわ」


「そういうもんですか」


 香澄の何でもないという言葉に健一は苦笑を浮かべる。


 香澄は健一から見て優しいお姉さんといった感じの、タレ目がちな美人であった。


 身体のラインも整っており出すぎず引っ込みすぎず、プロポーションはかなり綺麗なものであった。


 だがこの島に来てから命の危険にいくつも晒されて、健一はいつでも気が抜けずそこに邪な思いを抱く事が出来ていなかった。


 通常の人間としての感情とは違いこの反応は間違いなく異常なのだが、健一当人を含め誰もそこに気付けていない。


 それは今この時はメンバー唯一の男という事でメンバー内の仲がギクシャクするような恐れも無く利点となっているが、これでもし通常の生活に戻っても現状のままであれば異常な目で見られるだろう。


 そのくらい、健一が現在置かれている状況はその危険度を度外視すると、男として羨ましい状況であった。


「中本君も、程々にして寝なさいよ」


「分かってます。ちゃんと寝ますから」


 焚き火を継ぎ足している健一に向かい、香澄が横になりながら言う。


 健一はそれに笑みを浮かべて応えるのだった。


 翌日、イービルプラントという難敵へ挑む健一達の頭上に、仄暗く月明かりが射していた。


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