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順応と兎の男


 第二陣救出組からの不満を一身に健一が受けながらも、何とか彼女達のレベルアップが実施されていた。


 彼女達を救出した地点から森を東側に進むと豚の化け物と狼、そして凶悪な牙を持つ巨大イノシシが混在している場所だった。


 恐らく各化け物達の縄張りがかち合っている場所なのだろうと思いつつ、健一達は化け物達を駆逐しながら東へと進み続ける。


 ダダダダッと軽快な音を出しながら銃撃が狼を打ち抜き、蜂の巣にされた狼が地面へと横たわる。


 その横では巨大なイノシシを相手に健一が立ちまわっていた。


「ブギィイッ!」


 まさしく猪突猛進の様を見せるイノシシだが、その巨体の体当たりを受ければ一溜まりもない事は一目瞭然であった。


 だが健一は未来予測に近い危機察知能力で事前に突進を避け、すれ違い様に前足を切り飛ばす。


 地面へと沈み込んだイノシシの首を撥ねて、後ろ足を掴んでヒョイと持ち上げた。


 そんなに軽いはずもなく相当な重量があるはずのイノシシだが、健一のレベルアップ効果であっさりと持ち上がってしまう。


 切り飛ばされた首からは血液が溢れだして大地を赤く染める。


 そんな光景の中、健一はニッコリ笑顔を浮かべて美希を見つめた。


「今日はオオカミ肉と、イノシシ肉だな」


「そうですね、今捌いちゃいましょうか。丁度良い高さの木もありますし」


 健一の言葉に当然のように返す美希。そうして二人はイノシシ肉を木から宙吊りにして早速皮剥ぎを始める。


 余りにも普通のやり取りすぎて何も言えなかった他のメンバーだが、香澄が一人、呟いた。


「恩恵を賜る側の私達だけど、彼ら異様にこの森に順応しているわね……」


 誰知らず、コクリと首を縦に振った。


 健一の危機察知能力による回避性能と、金の槍による殺傷力の高さ。


 そして美希の食材となれば何でも捌けてしまう能力が合致して、この森での耐サバイバル能力が飛躍的に高まっている結果、こうして森に順応する事になってしまっていたのだ。


 勿論どちらの能力が欠けていてもこのような結果は得られなかったので、その恩恵に預かれるメンバーとしては良い面はあれ悪いことは何一つ無い。


 ただどうしようもなく、現実離れした光景に何か言わずには居られなかったのだ。


 そうして数分、イノシシやオオカミの皮を綺麗に剥いで肉をブロックにして保存し、骨や内臓を土に埋め終わった健一と美希が待機していたメンバーへと声をかける。


「いやぁ悪い。思いの外イノシシの食いでがあってな」


「あのお肉たちは今晩のご飯で出しますから楽しみにしててくださいね」


「えぇ、ありがとう七瀬さん。私達も見物しながら休憩していたから問題ないわ」


 爽やかな笑顔を浮かべる健一と美希に苦笑を浮かべて対応する香澄。


 こうして処理の終わった一行は、さらに東へと進む事となった。


 途中やはり化け物達が現れるが、どれもオオカミや豚など既存のものであり、あっさりと銃撃と健一の斬撃により仕留められる。


 そもそも凜音の魔法ですら今の所使用する機会は無かった。


 だが東に進んでいくらか経つと、健一が新たな化け物の反応を感覚で捉えた。


 先頭を進む健一が足を止めるのに従い後方に続く各々が合わせて足を止める。


 健一は何かを探るように掴んだ感覚を逃さないよう伸ばしながら、その気配を探っていた。


「……3……いや5か。新手が進行方向に居る」


「大きさとかは分かりますか?」


「少なくとも、オオカミぐらいの大きさだな。集団で動いているらしい」


 そう言うと後ろを振り返る。健一のその表情は無言でどうするかを問いかけていた。


「迂回するには少し近すぎる。このままここで待機してやり過ごす方法もあるが、時間を無駄にしたくない」


「……じゃあ、進むしか無いじゃない」


 不満そうな声で健一に告げる第二陣メンバーに言われ、健一は苦笑を浮かべて謝罪した。


「悪い。一応確認しようと思ったが意味ないな。このまま前進するぞ」


 その言葉に全員無言で頷き、ゆっくりと進行していく。


 段々と対象との距離が近づいてくるのを感じていた健一は、茂みを超えた場所に対象が居るのを確認して、そっと覗き込んだ。


 そこには、大型犬程の大きさのある、赤い色をした巨大な蟻が、土を掘り返し何か作業をしていた。


 その様子を確認し、一旦茂みから顔を戻してメンバーへと告げる。


「蟻だ、巨大な蟻。赤い種類は攻撃的って話があったような気がするが、奴らは赤かった」


 その言葉に全員が嫌な顔を浮かべる。


 少なくともここにいるメンバーの中で、蟻などの虫が得意な人は存在していなかったようだ。


 健一のその言葉に嫌な表情を浮かべながら、香澄が提案する。


「少なくともここまで近づいても問題ないのであれば、横を避けて歩く事はできるんじゃない?」


「まぁ、とりあえずその方向で。交戦せずに避ける方向で移動しようか」


 香澄の提案に全会一致で乗っかる形で、話は進んだ。


 茂みの中をゆっくりと歩きながら僅かに逸れつつ東へと進み、完全に蟻の反応がこちらに気づいていない事を健一が確認しつつ、進行する。


 やがて、ある程度の安全だと思われる距離まで来た所で、健一はまたしても反応を捉えた。


「……また進行方向に居る。反応的に同じ蟻だ」


「……避けられない?」


「避けようとすると南に迂回する事になるな、余り得策じゃない」


「じゃあ、その蟻は殲滅という事で」


 立ちはだかった新たな蟻の集団に凜音の案が採用され、進行方向の蟻を殲滅する方針となる。


 小走りに進行方向へと集団で走り、健一達は四匹の蟻のグループと会敵した。


 会敵と同時、小銃を持つメンバーが足を止めて膝立ちとなり小銃を発砲する。


 だがしかし、小銃の弾は蟻の外皮に当たるだけで弾かれた。


「銃が効かない!」


「凛! 援護しろ!」


「分かってます! アイシクルランス!」


 健一の声と同時に凜音が氷の槍を生み出し、まず一匹の蟻を槍で滅多刺しにする。


「ギチギチギチギチッ!!」


 前歯を噛みあわせて不快な音を鳴らす蟻に健一が飛び込み、その首をすっ飛ばす。


 首が宙を舞っている間にもう一匹の蟻の懐へと潜り込み、左下から右上へと斬り上げた。


「おらぁっ!」


「ギュィィイッ!」


 胴から袈裟斬りにされた蟻は体液を零しながら崩れ落ち、残りは一匹となる。


 最後に残った蟻は、口から体液を吹き出して健一へとぶっかけようとした。


 だがそこへ、横から鋭い輝きと共に刃が飛来する。


「ちぇぇええええいっ!!」


 ザン、という音と共に蟻の胴体が真っ二つに生き別れる。


 そしてそこには、輝く刃の剣を持った、美希が立っていた。


「……えっと、七瀬。その剣使えるのか?」


「銃が効かないからどうしようと思って、この剣があったのを思い出して。食材相手だったら私、この剣で戦えるみたいです」


 にっこりとした笑顔で告げる美希の言葉に、健一の表情が引き攣る。


「食材……この蟻達がか?」


「食べられるみたいですよ、これ。どうします?」


 そう、何でもない事のように告げる美希に、健一はやはり表情を引き攣らせたまま応えるのだった。


「……流石に蟻は無理っす、七瀬さん」



----



 こうして蟻と幾度か交戦しつつ東へと進んでいた一行だが、時刻も夕方となり日が落ちてきたのを確認すると、健一の探査に敵影が引っかからない場所を見つけ、そこをキャンプ地とした。


 マップアプリで見ると今日一日で相当東へと抜ける事が出来ており、明日には島の東端へと辿り着けるのではないかと思っていた。


 そんなメンバーのほっとしたような表情をぶち壊すかのように、奴の影が現れる。


『ハロハロー、地獄に一番近い島の諸君。お元気ですかー?』


「現れやがったなクソ野郎が……」


 どうにも奴にはこちらの動向が逐一把握されているとしか思えないタイミングで現れてくる。


 そこに怒りを感じる健一だが、兎の男はそんな健一の心情を無視して話を進める。


『えー現在の位置は、おぉ! 大分東に進みましたねーエライエライ! もうちょっと北上だったらプレデターアントの巣にぶつかって阿鼻叫喚の地獄絵図となっていたかもしれませんが、上手い事避けましたねぇ』


「あの蟻の巣ですか、最悪ですね」


 巨大な蟻がギチギチと密集した地中を想像した凜音が思い切り嫌そうな表情で呟く。


 他の面々も同様に、想像しただけで嫌そうな表情を浮かべていた。


『さて、それではここで情報です。君達の居る地点から東に10キロほど向かうと、そこから先は辺り一面、イービルトレントが鬱蒼と生い茂る彼らの住処になっています』


 兎の男のその言葉に、健一を含めた全員がギクリとする。


 イービルトレント、木の化け物で木に顔が生え地中から根を突き出し刺し貫いて殺してくる化け物である。


 普通の木に化け近くに居る生物を地中からの根で攻撃するその化け物の不意打ちは、健一でも無ければ予測して避けるのは無理なものである。


 そんな化け物が鬱蒼と生い茂る場所が、この先にある。


 それだけで、この場の雰囲気が暗く沈んだものになってしまった。


『ちなみに、この森の外周西側と東側は全て、イービルプラントです。外敵を外周で阻止し、森の中に入った生命を逃さない。そのように出来ているからです』


「なんつー……。クソッタレだな本当にこの島は」


 次々齎される情報に健一は手で顔を覆う。


 想像しただけで鬱陶しいことこの上ない状況だった。


『まぁ中本君一人なら生きて出られるでしょうが、他の人が居るとどうでしょうねぇ~ケヒヒヒッ。それじゃあ今後の動向、楽しみにしてますよぉ~』


 言いたいことだけ言って宙空から消えていった兎の男に罵声の一つも浴びせたかったが、周囲の自分を見つめる視線にそれも出来なかった。


 一番最後に齎された情報が一番、健一の中で厄介なものであった。


 美希や凜音、香澄達が心配そうな表情を浮かべ一様に健一を見つめている。


 置き去りにするのか否か、問われているような気分だ。


「……クソッタレ兎め。絶対殺してやる」


 この状況を招いた憎んでも憎み足らない兎の男へ向け、健一は呟くのだった。


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