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無神経と少女達


 豚臭い洞窟を抜けて森の中へと進み、茂みの奥へと入る。


 そこには毛皮をかけられた女子達を慰めたり宥めたりしながら食事を摂らせている美希達が居た。


 一瞬健一達が戻ってくる茂みの揺れや足音に警戒を行っていたが、その正体が健一達だと分かると美希達は警戒を解き、小銃を地面へと置く。


 健一はなるべく今さっき助けだした女子達を視界に入れないように、美希へと声をかけた。


「洞窟内の豚達は全部処理した。ココらへんに危険な気配も無いし、今日はここでキャンプしよう」


「それが良いと思います。彼女達もこれ以上は動け無さそうですから」


 そう言うと美希は申し訳無さそうな表情を浮かべる。


 何故ここで美希がそんな表情を浮かべているのか分からない健一だが、健一の横に控えていた凜音が声をかける。


「美希先輩は、余り気に病まない方が良いかと。どうしたって、私達とは立場が違いますから」


「ん……そうなんだけどね」


「んー、良く分からないが、七瀬が気に病む必要は無いぞ」


 健一がそう言うと横からグイと腕を引かれ、凜音に耳を引っ張られる。


 自然と凜音の吐息がすぐ近くにかかるような距離まで顔を近づけた健一だが、凜音の至極真面目な表情に何かしたかとドギマギする。


 そんな健一を理解しつつ、凜音が小声で、だがしっかりと健一へと伝えた。


「健一先輩、余り無神経な発言はしないでください! デリカシーが無いんですか!」


「……済まん、無神経な発言だったのか?」


「はぁ……。私達と七瀬先輩は、汚されたか否かという深い溝で隔たれています。そこに負い目を感じているんですよ、七瀬先輩は」


「……そんなもん、感じてたってしょうがないじゃねぇかよ」


「はぁ、これだから……。本当に先輩は、短絡的でいいですね」


 呆れた物言いの凜音に何か反論したいが、その反論材料が手元に無い健一は何も言えず黙っているしか無い。


 そんな様子を見ていた美希が、二人の顔を見比べて気付いた。


「なんだか二人共、仲良いですね。何かありました?」


「まぁ、なんつうか……共闘した仲間というか、何というか、な」


「えぇ、そうですね。掻い摘んで言うとそういう感じです」


 そんな良く分からない言葉にも美希は笑顔で何か頷いて納得している。


 そうして美希は健一達にも食事を摂るよう促した。


「二人とも、化け物の相手で疲れたでしょう。ご飯作りますから食べてくださいね」


「あぁ、よろしく頼むよ」


「七瀬先輩、私も手伝います」


 美希の手配で健一が焚き火を付け、調理用の火はまた別に美希が七輪等を取り出してオオカミ肉や戦闘食を調理していく。


 全ての調理が終わった頃には日も暮れ、先に食事を摂っていた脱出組が自然と眠りに落ちた頃には、健一と美希、凜音と香澄が焚き火の回りで暖を取っていた。


 パチパチと静かに燃える焚き火を眺めつつ、健一は周囲の警戒に意識を裂く。


 とは言え感覚に何ら危険な気配は引っかからない事から、この場所もまだ安心して良い場所であると言えた。


 回りに寝ている人間が居る為、自然と言葉少なく燃える焚き火を見つめる四人。


 そんな中で、凜音が一人口を開いた。


「……この後の段取りは、どうするんでしょうか」


「この後、って言うと?」


「脱出してきた皆さんと一緒に行動するのか、何を目標に行動するのか、ですかね」


 美希の問いかけに凜音が応えると黙って健一を見つめる。


 その視線を受けて、健一が続けて口を開いた。


「そうだな。まずは脱出してきた三人のレベルアップをして、森でも中々死なないようにする。その後で、この島を脱出する事を考えようかと思うんだが」


「まぁ、それが妥当だと思います」


「でも彼女達、精神的に相当疲弊しているみたいだし、少しスローペースで進めたほうが良いかもしれないわ」


 脱出させた三人の様子を見て、治療の魔法を使っていた香澄の言葉に美希も同意するように頷く。


 だが健一は、その提案に首を縦に振らなかった。


「そんな甘やかすような余裕、この島には無いでしょ。戦わないと死んだり、酷い目に遭うのはもう解ってるでしょうし、すぐにでもレベルアップを目指しますよ」


「確かにそれはそうなんだけどね……。私達も救助されてすぐ、レベルアップに他の人の救助作戦にと、少し休憩したい気分でもあるのよ」


「それは、うんまぁその通りなんだろうけど。そもそも休憩、心を落ち着かせられるような場所、ここには無いでしょ」


「そうね……。周りは森だし、森の中には化け物がどれだけ居るか分からないし」


「だったらまずは、脱出を目指して行動するのが一番良いかと思うんですよね。その為にも彼女達のレベルアップは必須だと思います」


 健一のその言葉に、香澄が渋々とだが同意を示す。


 だがやはり自分を含めた救助組の人間には、多少の休憩が必要だと言う思いもあった。


 そんな中で、美希が口を開く。


「あの……。そもそも、どうやって脱出するんでしょうか。この周辺は森だらけで、森を抜けたからと言って島から出れないんじゃ」


 その言葉に、健一は虚を突かれたような表情を浮かべてから、頭を絞って応える。


「えーっと、少なくとも森の中に居るよりは外の方が安全だと思うので、外に。それか、森の南側にマップで見ると茶色いゾーンがあるだろ。そこへ向かう」


「茶色いゾーン……あぁ、ここですね」


 健一の言葉にガジェットのマップアプリを開いた凜音が場所を確認する。


 だが場所としては健一達の居る森の北東上から行くと南西側、森のど真ん中を突っ切って行くのが最短距離の位置取りだった。


 この提案に凜音も美希も、うーんと唸るしか無い。


「やはり森の中を集団で突っ切って行くのは難度が高いのでは?」


「結構距離もあるし、南方の茶色いゾーンに出るよりは東に向かって森から出た方が良いかもね」


「うーん、そうか……。じゃあ南方の茶色いゾーンは無しにして、一先ずは森を脱出する為に東へと向かうとしようか」


「そうね。東へ向かいながら、彼女達のレベルアップをする、休憩できそうな場所があればそこで休憩する。それでどうかしら」


 締めに紡いだ香澄の言葉に、四人は合意してその日は寝る事となった。


 何事も無ければ、この香澄の言葉通りに翌日から動く事になる予定であった。


 何事も無ければ。



----



「――こんなもの、扱えないわ!」


「そうよ! なんで私達が化け物と戦わないといけないのよ!」


 その翌日。朝食の時から何だか雰囲気がおかしかったのを健一は感じていた。


 第二陣救出組として前日に助けた三人の間で、何やら健一達を探るような訝しげな視線が交わされ、ひそひそ話がされている。


 というのもこの三人、健一と同じ三年生という事もあり、健一は覚えてはいないが健一の事を彼女達の一人が覚えているのだった。


 自分と同じクラスの人間で無くて良かったと思っていたが、健一の事を知っている人間が居たというのが妙に健一の心の中をささくれ立たせる。


 そして朝食の後、改めて全員の前で今後の方針と、第二陣救出組のレベルアップを行う旨を伝え、その為の武器として全員にHK417を改めて渡そうとしたらそんな声が第二陣救出組から上がったのだった。


 何を言っているのか理解し難かった健一だが、彼女達の言葉はそれからも続く。


「あんな化け物に汚されて私達は傷ついているのよ! なんでそんな危険な事を今度はしなくちゃいけない訳!」


「もう沢山よ! こんなのうんざりだわ!」


「早くこんな陰気な森から抜けださせてよ!」


 こんな時に何を言っているんだと思いつつ、健一は額に手を当てて美希を見る。


 美希は美希で、物凄く困った表情を浮かべて、健一の代わりに彼女達の説得へと言葉をかけた。


「で、ですがこの森は危険なので。皆さんにも自衛が出来るように武器を使って貰わないと……。それに、レベルもあがれば身体能力も上がりますし」


「だから、なんで私達がしなくちゃいけないのよ! あなた達で守ってくれてもいいでしょ!?」


 彼女達の放った言葉に、凜音酷く醒めた視線を向けて言う。


「……呆れた。助けて貰った上に守りなさいと。少しは自分でなんとかしようと思わないんですか」


「何とかって、どうやってよ! 私だってなんとかしたいけれど、こんな銃なんて使った事ないもの!」


「だから、練習もさせますし脱出の途中で狩りを行ってレベルアップをして貰います。それの何が不満なのですか」


「練習なんてしたって使えないわよ!」


「練習もせずに使えるかどうかを指し図るのは些か早計なのでは無いですか? 現在の銃社会では銃はより取り回しやすくなっています。火縄銃でも無ければ子供にだって扱える程です」


「それでも……!!」


 何か彼女達が反論する前に、凜音が深い溜息を吐いて健一へと告げる。


「健一先輩、これ以上の説得は無駄です。ご判断を」


 そう告げられた健一は、何故ここで凜音が健一へと判断を委ねてきたのかの意味を汲み取ることが出来た。


 その意味を汲み取った上で、健一は第二陣救助組の三人へと醒めた視線のまま向き直った。


「まぁ、なんていうか。あなた達の納得は必要無くて、極端に言えば生き残りたいなら武器を取れって話でしか無いんだわ」


「ひ、必要ないって……!?」


「必要無いだろ。別に武器を取らなくてもいい、だけれど少なくとも俺は、この場で武器を取らない奴を護る必要性を全く感じない。一緒に戦って生き残ろうとしてるのに一人のほほんと傍観しようというのは、そりゃ仲間じゃない」


 そう言うと、健一は傍らの槍を肩にかけて最後通牒を行った。


「武器を取るなら一緒に連れて行く。武器を取らないならここでサヨナラ、お別れだ。俺達は脱出を目指して行動する。良く考えて答えを出してくれ」


 厳しくもなく、優しくもない。極々当たり前のように見捨てる選択肢を提示した健一に、三人は健一の本気度を鑑みる。


 やがて、絞りだすような声で、一人が答えた。


「……分かったわよ、やればいいんでしょやれば!」


「人を無理やり戦わせるなんて、酷い……!」


「サイッテー! 信じられない!」


 口々に健一へ辛辣な言葉をかけて、それぞれが銃を取る。


 その事を見届けた後に、健一は何でもない風を装ってリュックサックを背中へと担いだ。


「よし、じゃあ東へ向かうぞ。目指すは森の脱出だ」


 こうして内部に燻った火種を抱えつつも、健一達は一路東へと歩みを進める事となった。


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