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男心と中二病


 森の中、洞窟の入り口が木陰から覗ける位置で、美希は洞窟の入り口を監視していた。


 香澄の言う「普通の鬼とは違う、恐ろしい鬼」が本当に居た場合、健一がどうするのか。


 逃げてくるのであればすぐにでも援護に出なければいけないと、手元の小銃を強く握りながら考える。


 この小銃はHK417という耐塵性、耐泥性の高い製品であり、軍用自動小銃として複数の口で利用されているものであるが、そんな事に詳しくない美希や健一の中では良くハリウッド映画に出るような銃、という認識である。


 使い方もある程度練習済みであり、ストックを肩に当て、セーフティを解除して引き金を引く、という動作だけは覚えている。


 どういう訳か弾切れ等は起こさないようになっているこの銃で、健一が脱出してきた際には援護をするつもりである。


 美希がそんな決意を固めている所に、横から香澄が顔を覗かせる。


「どう、彼戻ってきた?」


「いえ、まだです。他の方は食事は摂られました?」


「えぇ、今は横になってるわ。毛布まで用意してくれて、ありがとう」


「いえ、そんな事」


 香澄からのお礼の言葉に笑みを浮かべて対応していると、視界の中の洞窟入り口で動きがあった。


「何か、きます!」


 その言葉と同時に、洞窟の入り口からワラワラと子鬼、大鬼が出てくる。


 結構な速さで駆けている鬼達は先を行く鬼が転んでもそれを踏みつけ前へと進み、かなり凄惨な状況となっていた。


 そんな事も気にせず鬼達は次々と洞窟から飛び出し、森の中へと一直線に逃げていく。


 幸いにして美希達の隠れている方向とは逆方向へ集団で逃げている為、美希達は気付かれる事は無かった。


 だがあの鬼達が、それほどまでに慌てて逃げ出すとは一体何事なのか。


 美希達が目を見張っていると、洞窟の奥からそれはやってきた。


 黄金の煌き。


 金色に輝く槍が大鬼を貫き、地面へと縫いとめたのだ。


 刺し貫かれた大鬼は既に息はなく、身体をピクピクと痙攣させるだけである。


 そんな槍へと、ゆっくり洞窟の奥から健一が近づいていった。


 洞窟に入る前とは違い、上半身の服がボロボロになり両腕が黄金色と化しているが、その姿は間違いなく健一だった。


 健一は大鬼から槍を引き抜くと、つまらなそうに呟く。


「畜生、我先へと逃げやがって。人をボコボコにしといて逃げるとはプライドは無いのか」


 化け物相手にプライド云々言ってもしょうがないだろう、と美希は心の中で突っ込んだ。


 そうして、木陰から姿を現して健一へと声をかける。


「中本さん! ……だ、大丈夫、ですか?」


「あぁ、七瀬。まぁ色々あったけど、大丈夫だ」


 美希の姿を確認した健一は一瞬苦笑いを浮かべた後、爽やかな笑顔へと変えて力瘤を作ってみる。


 黄金色に輝く力瘤が何だかスポーツ番組の優勝トロフィーのような異様さを醸し出しているが、元気そうなので問題は無さそうだと判断した。


「それより七瀬……悪いんだが、食事を用意してくれないか。すげぇ腹が減ってるんだ」


 困った表情を浮かべつつ腹を押さえる健一の姿に、美希は安心した笑顔を浮かべるしか無かった。



----



 物凄い勢いで炊き込みご飯を掻っ込み、鯖の味噌煮缶詰を一缶まるごと口に入れる。傍らから差し出されるオオカミ肉のステーキを一枚ペロリと食べて、また軍用飯の炊き込みご飯を食べる。


 戦闘食のバリエーションが豊富で味に飽きないというのが非常に健一の食欲を掻き立てていた。


 缶詰にパック飯、高カロリーの糧食と様々な味のバリエーションで健一は本能の赴くままに食事をしていた。


 その余りの量に香澄が驚きで目を見張り、美希が苦笑を浮かべつつ健一に問いかける。


「洞窟の中で、レベルアップしたんですか? 普段の何倍も食べてますけど」


「レベルアップっつーか……んくっ、はぐっ……なんつーか」


「その両腕と何か関係あるんですか?」


「んっ……まぁそうだな。えーっと……」


 口の中の物を全て飲み込んだ健一は新たにチョコレートバーを咥えつつズボンのポケットを探り、ガジェットを確認する。


 確認する項目は勿論ステータスだ。


 ステータスの表示を見て、ガリッとチョコレートバーを噛み砕きつつ呟く。


「843レベルか……これが基準として高いのか低いのか分からないが、少なくともレベルはあがってるみたいだ」


「高い、んじゃないんですかね。私レベル245ですし、ここにいる中では一番高いんだと思います」


「そうなんだろうが、比較対象が居ないし、分からないしな。けどまぁあの鬼達はかなり強かったって事だな」


「えっと、レベルがあがって、両腕がそんな金色に?」


「いや、これは何というか別口で。追い詰められて覚醒したというか、槍の真の力が目覚めたというか……」


 しどろもどろになりながらも両腕が黄金色に変貌した理由を告げるが、美希達は一瞬間を置いてから、何か可哀想な物を見るような目で健一を見つめた。


「いや、ちょっと、これマジなんですよ」


「あー、はいはい。分かりました、そうなんですね」


「信じてない、絶対信じてないだろ七瀬」


「まぁ、そういう時期は男の人にはあるって聞きますし、あんまり気にしてませんから」


「いやそうじゃなくてな、お願いちょっと話を聞いて」


 何とか健一が拝み倒すと、「しょうがないなぁ」という風に美希が佇まいを直す。


「いいか、見てろよ」


 健一はそう言うと傍らに置いていた槍を軽く放り投げ、樹の幹へと突き立てる。


 軽い投擲で刃が半ばまで食い込んだ事に美希達は驚きの表情を浮かべるが、その後は劇的だった。


「戻れ」


 健一がそう告げて右腕の伸ばすと、槍がひとりでに樹の幹から抜け、まるで巻き戻るように健一の手の中へと収まった。


 その事に美希と香澄の二人はもはや声も出ない程驚きを浮かべ、健一を見つめる。


「まぁ、なんだ。槍の力が目覚めてこういう事が出来るようになってな。槍の振るい方とかも色々分かるんだ」


「えっと、じゃあ本当に、その槍の力が目覚めて……」


「うん、本当にそうなんだわ」


「はぁー……そういう事もあるんですね、この世界……」


 健一から告げられた真実に、美希は呆れを通り越して感心した。


 この世界、何でもアリなんだな、などと実感してしまった。


 そんな健一と槍の真実の話と健一の食事も終わった所で、三人で佇まいを直して地面へと座る。


 上着を着替えた健一と、料理を終えた美希と、二人を待っていた香澄だ。


 香澄がまず二人へ向けて頭を下げる。


「改めてになるけど、助けてくれてありがとう。渡辺香澄、養護教諭よ」


「中本健一、三年生です」


「私はもう自己紹介しましたから」


 そう先を促す美希に頷き、香澄が話を先に進める。


「今回は本当に助かったわ。それで、助けてもらった上で厚かましい事は承知なんだけれど、引き続き助けて欲しいのよ」


「……具体的に言うと?」


「一人、身動きも取れず、意識もはっきりしない子がいるんです。多分その子の事だと……」


 美希の言葉に香澄が静かに頷く。


「そうなの。私と他二人は大丈夫なのだけれど、その子は心が壊れてしまったようで……」


「……でも、俺達じゃそんな心なんてものどうにも出来ないぞ?」


 健一の尤もな言葉にだが、香澄が首を横に振る。


「あなた達に彼女の心を癒して欲しいという訳じゃないわ。多分、私の力がもっと上がれば、そういう事が出来ると思うの」


「先生の……癒やす力、ですね」


「えぇ。だから助けて欲しいのは、私の……レベルアップを、手伝って欲しいのよ」


 非常に言いづらそうにレベルアップを口にする香澄に、さもありなんと美希な頷く。


 レベルなどという概念はこの世界に来て体感しなければ分からない概念である。


 まだ恐らくレベルアップをした事の無い香澄には、その恩恵などの実感は無いだろう。


「そういう事ならまぁ、俺達でも手伝えるけど。その間その、心の壊れた女子は誰が面倒見るんだ?」


「手が空いている時は基本私が面倒見ます」


 美希が挙手して言うと、健一は一つ頷くしかなかった。


「じゃあ、それでいいんじゃないかな。幸い武器はあるし、レベルアップ、手伝いましょう」


「ありがとう。……よろしくね、中本君、七瀬さん」


 二人に向けて、香澄はしっかりと頭を下げた。

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