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終わりの鐘

「彼が家に援助をしてくれる。君の婚約者になったシオン君だ。」


そう説明されて私は心臓を鷲掴みにされた。

心臓が軋んで悲鳴を上げる。


「リュア・シルフィードです。よ、よろしくお願いします・・っっ」


緊張して噛んだ。たったこれだけの言葉に失敗したことに顔を青くする。


「---ああ」


彼は頷いた。しかし・・


別れ際のすれ違うときに・・私だけにこういった。


「俺に近づくな。最低限以上のことを話すな。俺に従え。

でないと、お前の行動ひとつで婚約(援助)が取り消されることを肝に銘じるんだな」


「!!」


これが私の服従の始まりだった。




この出会いは数十分前にさかのぼる。


ーーー



ドクンッドクンッドクンッ


心臓がいまにもはじけてしまうんではないかという位に

なり続ける。


私は今から、

受験した高校の合格発表を義父と見に行くところだった。


緊張して、身体はカチコチに固まっている。

いや、高校を落ちた後の最悪の場合を考えて、その恐怖におびえているのだ。


こわかった。とても恐かった。

息が苦しいほどに。


それは、育ての親に

強制的に受けることを薦められた高校だったからだ。


ーーー


「リュア!あんた、落ちたらゆるさないんだからね!!」


ぐっぐっぐっーー・・プハッ と、ジョッキをあおって叫び狂ったように言う母と、


「母さんがこんな調子なんだ。

頼む、受かってくれ。お前が頼りなんだ。お前なら大丈夫さ!」


私にすべてをおしつける頼りにもならない義父。


「あねちゃま!がんばって!ボク、応援する!」


そしてまだ幼くてかわいい義弟。


ーーー


母が家事を放棄し、育児すら放棄したので、

私は、家事と、弟の面倒と、おまけに母や父の言う

ハイレベルな学校に受かるための受験勉強を両立させる羽目になってしまったのだ。


その勉強の成果が出たので、見に行こうとしている。


恐かった。

失敗してると思うと。

とても恐かった。


やることはやった。

忙しい中に時間を作って、頼まれたことを誠実にこなして果たしてがんばった。


それでも不安は大きく募る。


「いこうか」


「は、い」


義父の言葉に私は頷いた。


馬車で向かっておよそ15分。

もし徒歩なら30分以上はかかる場所に、高校はあった。


高校の門でおろしてもらうわけにはいかず、

途中で降りて、そわそわしながら義父と歩いた。


「---」

ドクン、ドクン、ドクン・・


歩くたびに、鼓動が高鳴るのを感じる。

義父にも聞こえるんじゃないかと不安になるくらい音が大きく聞こえる気がした。


校門が見える。

立派な門だ。由緒正しい学校なだけに、気品がある。

新しく作られたようなそれでも古風にみえるという矛盾したアンティークのようだ。

茶色の高そうな木の門に、黒い石が、白く削られて文字が浮かんで見えた。


そこには高校の名前が記されている。


もうすぐ、結果を見ることになるーーーー


緊張が最高潮に高まったそのとき、


校門から、一人の男子生徒が出てきた。


「ーー」


私よりも頭が二個分高いすらっとした背に、端正な顔立ち。

蒼い髪に冷たい青の瞳を持つ人だった。


その人が、私を見る。するどい視線が私に突き刺さった。

刃物のようだ。恐い。


「あ、いた。リュア、彼を紹介したかったんだ」


突然義父がそんなことをいいだした。


「え?」


思わず隣を凝視するが、すでに私を見ていない。


隣にいた義父がにこやかに笑って、彼に駆け寄った。

そしてなにやら話している。


なんだか嫌な予感がした。

恐怖が背筋をなでまわすぞわっとした感じ。


「リュア、このところ家計がたいへんだろ?だから、取引したんだ。

紹介するよ」


「彼が家を援助してくれる、君の婚約者になったシオン君だ」


「!」


一瞬、なにを言われたか理解ができなかった。

いや、したくなかったのかもしれない。


目の前で私をにらむように見つめてくる彼の存在そのものも。


だが、固まっているわけにはいかなかった。


「リュア・シルフィードです。よ、よろしくお願いします・・っっ」


挨拶しなきゃ・・そう思ったときに出た言葉。

だが、受験結果の緊張感もあって、声は震え、たどたどしくなってしまう。


ぺこっと深くお辞儀した。


その失敗に顔を悪することしかできなかった。

深く頭を下げることしか、できないでいる。


「--あぁ」


低い頷きの声。でもどこか嫌そうな頷き方。

恐かった。


「挨拶できてよかったよ、シオン君。

こんな娘だけれど、よろしくね」


「はい。有能だと聞いていますので」


私に大してとは違う軽やかな言い方。

同じ人が言っているようには聞こえずお辞儀をといて姿勢を正す。


「では、また」


そうして別れの言葉を告げた彼は歩き出した。

ふっと視線がそれて、緊張感が解ける。体が開放される気がした。


こ、こわかった・・婚約者、なんてわたしはーーー


そう思っているときだ、そこに彼はつけこんできて


すれ違いざまに


「俺に近づくな。俺に最低限以上のことを話すな。俺に従え。

でないと、お前の行動ひとつで援助が取り消されることを肝に銘じるんだな」


そう冷たく言われた。


「!!」


頭から冷水をかけられた気分に陥る。


「は、い」


かろうじて私は小さく頷いた。


キンコンカンコーン


間違えて鳴らされた学校の昼食の音。


それは私の人生が終わったことを

意味しているのではないかと思った。


彼が恐かった。とても。今までのなによりも。

暴走時の母でさえも、それには遠く及ばなかった。


これが私の恐怖の始まりだった。

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