「あ」から始まる物語 ~リア充爆発しろ~
シリーズ五話目(「先輩(♀)と後輩(♂)」シリーズ番外編)
クリスマスなのに彼女がいない! コンビニでバイトするそんな男子高校生のクリスマスの一シーン。
会話の文頭が「あ」から「ん」の五十音順としています。地の文だけは除外しています。なお、濁点と半濁点がついた文字は省略しています。また、「を」の文字を「お」としています。
それでは、「あ」から始まる物語をお楽しみください。
今日はクリスマスイブ。
「あぁリア充爆発しねえかな」
高二にもなって彼女がいない俺は寂しく一人でコンビニでバイトだ。今は七時を回ったあたりで日はすっかりと落ちている。
「いらっしゃいませー」
自動ドアが開きマニュアル通りの対応をとる。
「うわっ。またカップルかよ」
俺はうらやましいと思いつつ、いつまでもジロジロと見ているわけもいかないので、カップルから視線をはずした。
しばらくして、客が数人出入りし、レジ打ちをこなす。今は裏にいる店長以外誰もいない。
「えきから近いからどうしても客が多くなるよなー。しかも駅前の商店街にはすごいイルミネーションがあるらしいし。はぁ、疲れた」
何が疲れたって客の人数もそうだが、イチャイチャしてるカップルを見るのが疲れた。リア充爆発しろ。
「おかしな事言うね君は」
突然声をかけられ、横に振り向けば、店長がいた。
どうやら気付かない内に俺の気持ちが吐露していたらしい。
店長は、まぁいいかと一呼吸おき告げる。
「かのじょが来たから、少し楽になるぞ」
「きたって、シフトは俺だけじゃなかったですか?」
「くるしいだろ? 一人じゃ」
「けっこう何とかなりましたよ?」
「これからが大変なんだよ」
店長はふくよかな体を大きく揺らし、笑いながらそう答えた。
「さいですか」
一人でいけると思うけどなぁ。
「しらんからそんなん言えんねん」
突然店長の後ろから俺とは違う方言が聞こえ、関西弁の小柄な少女――棘士棗――がひょこりと現れた。ちなみに、彼女とは同い年だが、バイト経験が一ヶ月の俺に比べ彼女は一年半。立場上は大先輩である。
店長が言ってた人って棘士のことか。
「すくないじゃん、今」
「せやからなー」
「それじゃあ二人とも頑張ってくれ。僕は用事でしばらく抜けるけど、何かあったら連絡するように」
棘士の話しをぶった切るというマイペースぶりを発揮した店長は、きびすを返しレジ横の裏口から出て行った。
「たくっ、棘士がいなくても俺ひとりで出来るっつーのに」
「ちょうしのんなや」
そう言って棘士が背中を叩いてきた。
「ってーなぁ」
反射的につぶやくが、力加減を調節しているのか言うほど痛くはなかった。
「てんちょうが気ぃきかせてくれたんや。もっと喜び」
そうは言うが。
「とげしだし……」
また叩かれた。しかもさっきより痛い。
なにすんだコイツ。ぷりぷり怒っている棘士をジト目で見る。
棘士の背丈は俺より頭一つ分小さい。さらさらとした髪質のショートカットと前髪の左側には女の子らしいワンポイントの髪留めを付けている。
だまっていれば普通にかわいいと思う。
そんなこと考えていると、棘士は何かを思い出したようにポンと手を叩いた。
「なつめって呼び言うたやろ。棘士って名前好きちゃうねん」
そう言われてもなぁ、女子を下の名前で呼ぶのも気恥ずかしいからな。ということでふざけてみた。
「にんしょうできません、パスワードが違います」
「ぬかせ」
怖っ!
「ねがい下げだって」
「のうミソ堅いなぁ。別にええやん名前で呼ぶくらい」
それは俺も、名前で呼べる親しい女友達が欲しい、けど。
「はずかしくないか? 名前で呼ぶのって」
「ひとの名前呼ぶだけやのに、どこが恥ずかしいねん」
「ふんいき?」
「へぇ、そうなんや。ならしゃーないな――って納得するかい!」
ノリッコミ!?
どうやら、どうあっても棘士は名前で呼ばせたいみたいだ。
「ほらそんな事より、客が来たぞ」
入って来た客に「いらっしゃいませー」と声をかける。
一方、棘士は俺の後ろで、「そんな事ちゃうわ」とぺしぺしと叩いてくる。
おい働け。
横に並んで入って来た客は高校生の男女で、見た感じだとカップルのようだった。
ほんとカップル多いな。リア充爆発しろ。無駄に心の中でつぶやく。
カップルは店内をぐるりと周り、商品を吟味している。その様子を視界の端でぼうっと眺めていると、女の方がこちらに寄ってきた。目的はレジとレジの間に置いている肉まんのようで、ケースの中の肉まんを見ると、ふむと一息ついてからこちらを向いた。
「まぁ後で決めたらいいか。すみません、肉まんとカレーまんピザまんとあんまんを一つずつ」
かしこまりましたと丁寧に返事をして肉まんを包みに入れる。
多いな。一人で四個――は流石に無いな。男の方と分けて食べるのか。
四つの包みに分けて入れ、最後にレジ袋に入れてひとまとめにする。代金を払ってもらい、肉まんの入った袋を渡した所で、男の方がやって来た。手にぶら下げたレジ袋には飲み物が二つ入っている。
男はレジ袋を掲げ、女に声をかけた。
「みた感じ商品棚には先輩の言ってた飲み物はなかったですね。代わりにお茶買いましたよ」
ん、先輩?
「むぅ、そうか、ありがとう後輩くん。前からだんだんと見る回数が減ってきていたからな。仕方ないか」
後輩くん?
「めったに見かけませんねー確かに」
「もう販売してないのかもしれないな。あれは気に入っていたんだがな」
そう言い合いながら、二人のカップル――違うな、部活の先輩後輩コンビは出て行った。
なんだ、カップルじゃなかったのか。
そうこうしている内に、だんだんと店内に客が増え始めた。
「やたら人が増えて来たな」
ざっと見ただけで10人はいるな。
「ゆーたやろ。一人じゃ大変やって。ウチがおって良かったやろ」
確かに、この人数がレジに来たらさばくのは難しい。悔しいが棘士の言うとおりだ。
「よくわかったよ。棘士がいて良かった」
なんだよ、ニヤニヤすんな。ん、棗って呼べって? 考えとく。
客の出入りが多いなか何とか二人でレジをして、せわしない時間が過ぎていった。途中で店長が帰って来てからは三人でいる分ずいぶんと楽になった。
時計が九時を回り、次のシフトの人が来たので交代する。俺は簡易の更衣室でコンビニの制服から私服に着替え、休憩室にある椅子に腰をかけ一息つく。棘士も俺と同じ時間であがりらしく、私服姿で椅子に座り机に突っ伏している。
今日は結構ハードだったなと何となくつぶやくと、棘士がむくりと顔をあげ、クリッとした目をこちらに向ける。
「らくやなかったなー。やっぱりクリスマスは人多いな」
いや、それだけじゃない。
「りあ充(=カップル)が多い。リア充が爆発するルールでもできねぇかな」
俺がそんな発言をすると棘士は呆れた顔で答える。
「るーるって何アホな事考えてるん。それよりイルミネーション一緒に見に行かへん? 確か十二時までやってたハズやから。デートやデート」
そう笑いながら告げる棘士。
デートだと!?
「れ、冷静になれ。これは罠だ」
俺が慌てふためく姿を見て楽しんでるんだ。それでその姿を写真に納めてバイトのみんなにさらすつもりだ。
「ろくでもないこと考えてへん? まぁええわ、ほら行くで」
おい手を引っ張るな。こけるだろ。
商店街まではコンビニから歩いてすぐで、五分で着いた。
「わぁ〜キレイやなー」
たかが商店街の催しと思っていたが、数がハンパじゃない。使用個数は数十万個だとか。
数多くの照明が店の壁や木に飾られて通行人を明るく照らしている。
「をもってたよりスゴいな」
「ん♪ 来て良かったな」
優しく微笑みかけてくる棘士に少しドキッとした。
気のせいか、誰かにリア充爆発しろって言われた気がする……
お読み下さりありがとうございました。
この小説はあらすじにも書いているように会話の先頭が
50音順としています。
書いて思った事は「ら行」がすごくつらかったです。
よろしければ、作中にも出てきた先輩と後輩が主役の「先輩(♀)と後輩(♂)」シリーズもよろしくお願いします。