到着 1
高速を降りてから、しばらく道なりに車は真っ直ぐ進んでいく。
国道を走っているようだ。
私は、自分の車で高速に乗ったことがないので、現在地がどこなのか把握しかねた。
ペーパードライバーという程ではないけど、遠乗りするほど車好きでもなかった。
大した距離でもなかったと思う。
ただ、この車内の重苦しい雰囲気が、一層、時間の流れを遅く感じさせていた。
名古屋から高速に乗ったから、太平洋岸に行くとすれば静岡か、愛知の先端の半島かだろう。
そこで、ホテルでプチ贅沢という趣旨は納得できるような、できないような・・・。
こんな見知らぬメンバーと一緒に宴会して楽しい訳がない。
だったら、一緒に死んで楽しい訳もないか・・・。
私は、何故、集団で死のうと思ってしまったのか、少し後悔した。
今まで、何度も見た集団自殺のニュース。
ネットで知り合った全国津々浦々の初対面のメンバーが、いきなり同じ車の中で自殺する。
一人は心細いのだろうが、見知らぬメンバーと一緒にいても安らぐとは思えないのだ。
自分は集団生活に向かない性格だからだろうか。
少なくとも、このメンバーが最期に一緒にいることに、私は不安を覚えるばかりだった。
私は2列目に座っているネオさんとドンをこっそり見た。
ネオさんはイヤホンをしてケータイから音楽を聴いている。
おじ様は腕を組んだまま、窓にもたれて目を閉じていた。
人には人の悩みがあるんだろうけど。
この人たちは何故、死にたいのだろうか。
◇◇◇◇
国道から外れた車は更に1時間くらい片道一車線の道を走った。
建物がだんだん減ってゆき、開けた田んぼや、畑が眼下に広がる。
いわゆる田舎の一本道を走っているのが分かった。
その畑の向こうに時々、キラキラ光る波が見えて、もう目的地までは遠くない事が分かった。
畑の後ろには太平洋が広がっている筈だった。
やがて、一本道も終点になる頃、巨大な要塞のような施設が見えてきた。
『リゾート施設 パシフィックホテル』
そう書かれた大きな看板が見えて、車はその看板の矢印に沿って、施設の中の滑走路のような車道に入っていく。
ホテルらしき白い建物の向こうに、プールと、テニスコートが隣接しているのが見える。
施設をグルリと囲んだガードレールの向こうは、白い砂浜と波が打ち寄せる太平洋が見えた。
広大な敷地の中には、ホテル以外の施設も併設されているようだ。
ホテルの横には広大な駐車場、それを挟んで大きな建物が並んでいる。
企業の保養所のような雰囲気だった。
老人ホームでもやっているのだろうか。
とにもかくにも、その広大な施設に入った車は、滑走路のような車道をグルリと回って、南国系の木が並んだホテルのエントランスに到着した。
「お疲れ様です。到着しました。一先ずロビーに集合願います」
死神さんが、振り向きもせず、ミラー越しに話しかけた。
その声に、まず、窓際にいたネオさんがドアを開けて外に出て、その後はおじ様が出て行く。
二人が出た所で、2列目シートが上げられ、奥様が降りる。
最初に乗り込んだ私は、一番最後に外に出た。
おじ様と奥様は私を待つことなく、ホテルのエントランスに向ってどんどん歩いていってしまった。
この二人の「誰とも関わりたくない」態度は終始一貫している。
ネオさんだけが、私が車高の高い車から降りるのを待って、手を貸してくれた。
「やっと着きましたね。自分で運転してればなんて事ない距離なんですが、人の運転は疲れますね」
ハハハ・・と笑いながらネオさんは言った。
ネオさんも、車内の重い空気が苦痛だったんだろうか。
私はホっとして笑った。
「ヘタな運転で申し訳ございませんね。お二人ともさっさと中、入って下さいよ」
いつの間にか、車にもたれてタバコに火をつけてた死神さんが、横目で睨んで言った。
聞こえてたか、とネオさんは肩をすくめて、私にウィンクする。
「君の運転はヘタじゃないよ。長旅ご苦労様。さ、行きましょうか。」
ネオさんは、私の肩を抱くようにして、グイグイ押して行った。
私は、横目で睨んでいる死神さんを見ながら、その時、何か違和感を感じた。
今日、会ったばかりの死神さんとネオさん。
私は最後の乗客だった。
ネオさんがどこから乗り合わせたのかは知らない。
でも、初対面にしては二人が妙に馴染んでいる気がした。