出発 3
「死亡推定時刻10時」
私はその言葉に悪寒が走った。
無意識に腕時計に目をやると、今は朝8時だ。
逆算すると、これから14時間後に私は死ぬ。
その現実に私はぞっとした。
硬直して黙り込んだ私を、死神さんは咥えタバコでニヤニヤして見ている。
私が何を思ったか、もう分かっているらしい。
「ビビった?」
彼の声に、私の身体はビクっと反応する。
「そ、そりゃ、まあ・・・」
私は口篭るしかなかった。
どう見ても年下のこの男にからかわれているのは、シャクに触るが認めるしかない。
私はビビっていた。
ゆっくり煙を吐き出しながら、死神さんは言った。
「これから南下して、太平洋に面した、とあるホテルに行く。夜まで自由時間。大浴場で最期の風呂に入ってもいいし、浜辺を散策してもいい。
それから、このメンバーで最期の晩餐をしてツアー終了。最期にプチ贅沢してから楽園に行こうっていう画期的なプランだろ?」
「ツアー終了っていうのは、つまりそこで死ぬってこと?」
「そうだね」
私の問いに、彼はこともなげに言った。
「死因は、何?」
「そこは客のあんたが考える必要はない。主催者側に任せてくれればいい。希望があれば聞いとくけど」
この人は正気なんだろうか・・・?
私は、淡々と話すこの男が恐ろしくなってきた。
「つまり、私はあなたに殺されるってこと?」
「俺は手は下さないよ。どうせ殺されるなら、イケメンの方がいいだろ?」
ニヤニヤしながら彼は言った。
冗談のつもりなんだろうか。
だとしたら、笑えないレベルの低さだ。
その時、車を降りたネオさんとドンと奥様がこっちに向って戻ってきた。
死神さんはタバコを足で踏み消して、首を傾げて私を見てから言った。
「苦しまないようになってるから、安心していいよ。気が付いたら、あんたはエデンにいる筈だ」
◇◇◇◇
私が一番先に車に乗ったため、後部座席の一番奥の席に座ることになった。
その後に続いたのが、きれいな奥様。
つまり、3列目は私と彼女の女性陣が座ることになった。
2列目はネオさんとおじ様が一緒に座った。
死神さんは伸びをしながら運転席に乗ると、エンジンをかけた。
途端、つけっ放しだったFMが車内に響く。
バックミラー越しに彼の片目が車内をぐるりと見回した。
車はゆっくり走り出し、パーキングを出た後どんどん加速し、やがて、高速道路に合流した。
車内は相変わらず、誰が話をするわけでもなかったので、私は景色が変った3列目から外を眺めていた。
反対側の窓にもたれている奥様をちらりと見ると、目を開けて同じように外を見ている。
「あの、初めまして・・・」
緊張感に耐えられず、私は奥様に話しかけた。
奥様はハっとして顔を私に向ける。
笑顔を見せたり、お辞儀をしたりはしてくれなかった。
「あ、はい。初めまして」
落ち着いた大人の女性の声だった。
でも、それだけ言うと、彼女はまた窓の外を見つめる。
どうやら関り合いたくないらしい。
私は益々気まずくなって、黙り込むしかなかった。
バックミラーに死神さんが、苦笑しているのが見えた。
チラチラこっちを見て様子を伺ってるらしい。
片目で運転しながら器用な人だ。
かっこ悪いところを見られて、私はふてくされた。
でも、今更、席替えもできないので、仕方なくまた窓の外を眺める。
再び、車内はFMの音声だけが響いて、口を開く者はいなくなった。
40分ほど経った後、車は高速道路を下りて、ETCの出口を抜けた。