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EDEN  作者: 南 晶
始点 -うさぎ-
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出発 2

 日曜日の朝の東名高速道路は、まだ交通量も少なかった。


 カーステレオからはFM放送の早口のDJの声が流れてくる。

 何を言ってるのか意味不明だったが、沈黙が続く車内の中では重要な役割を果たしていた。


「ネオさんはこれからどこに行くのか知ってるんですか?やっぱり、あのサイトでこのツアーを見つけたんですか?」


 死神さんに声が聞こえないように、私は少し体を屈めてネオさんに耳打ちした。

 彼は理知的な顔を少し緩めて、笑った。


「どうして内緒で話すんですか?」

「・・・だって死神さんに聞かれたらマズイんじゃないですか?」

「どうして? 彼は運転手ですよ。ツアコンみたいなもんじゃないですか」

「ツアコン・・・ですか」


 自殺ツアーのツアコン兼運転手。

 まさか、毎日運行している訳ではあるまい。

 普段は何やってるんだろう。

 私は死神さんの素性が少し気になりだした。


「うさぎさんは聞いてないみたいですね。これからの日程」


 ネオさんの声に私は我に返った。


「あ、はい。行き先はエデンとしか教えて貰えなかったので。でも、死に場所は知っておいてもいいと思うんですけど」

「確かにね。おい、死神クン、ツアーの日程表くらいないのか?」


 ネオさんが運転中の死神さんに向って呼びかける。

 バックミラーに映る死神さんの片目がチラリとこっちを見た。


「そんなに気になるなら、次のパーキングで教えますよ。最終的に行く所はエデンですけど」


 分かってるくせに、どうして知りたがるのか分からない。

 どうせ死ぬのに。 

 そういった顔で、死神さんは私を見て溜息をつく。

 うるさい女だって、顔に出ていた。

 でも、確かにそうだ。

 私は自分がどこに連れて行かれるのか分からず、怖かったのだ。

 つまりそれは、自分が生きる事に執着してるって認めることになる。

 自分の決意の弱さを見透かされているみたいで、私は黙った。


 私達が話しをしている間、後部席のおじ様と奥様は、窓にもたれて外を眺めていた。

 会話に口を挟む様子もない。

 二人のその余裕の表情に私は少し悪寒がした。

 何となく、この二人は覚悟がある気がした。

 死ぬ為の準備はできているみたいだった。


 車は20分ほど走った後、パーキングエリアに入って停車した。

 名古屋から東京方面に向う最初のパーキングで、岐阜から静岡、三重くらいまでの広範囲すぎる土地名物を売っている大型のみやげ屋がある。

 巷で流行った大食いのタレントも来たと言う、結構、規模の大きいパーキングエリアだ。


「ではここで10分休憩入れます。外に出ても構いません」


 運転席で前を見たまま、死神さんは言った。

 後ろの二人が立ち上がったので、私は慌ててドアを開けて外に出た。

 私が座っているとシートが上がらず、後部席の人が出れないからだ。

 私が外に出ると、後ろから二人、そして私の隣に座っていたネオさんも出てきた。


「ウサギさん、ちょっと店の中見てきますよ。この間に死神さんと話でもしたらどうですか?」

「あ、はあ・・・」


 私は曖昧な返事をした。

 ネオさんは颯爽と、店に向っていく。

 意外に背が高くて痩せているネオさんの後姿は、ホントにマトリックスのキアヌ・リーブスみたいだ。

 後の二人も無言のまま彼の後に続いたので、車には死神さんと私だけが残された。


 いつの間にか死神さんも車から降りて、ぼんやり突っ立てる私の隣に来た。

 背が高くて真っ黒ないでたちの死神さんは、隣にいるだけでも威圧感がある。


 おまけにこの髪型。

 左目が結膜炎になったって言ったけど、それは、この斬新過ぎる髪型のせいではないだろうか。


「・・・タバコ、吸ってもいい?」


 突然、低い彼の声がした。

 私が返事する前に、彼はポケットから半分潰れたキャスターマイルドを引っ張り出した。

 同じくポケットに突っ込まれていた安物ライターで火をつけ、煙を吐く。


 いいって言ってないのに・・・。


 喫煙者ではない私は、少しムっとして彼を横目で睨む。

 彼も片目をチラリと動かして私を見て、潰れたタバコの箱を差し出す。

 どうやら勧めているらしい。


「要りません。私、吸わないから」

「だったら尚更どう? 最初で最後じゃん」


 彼は意地悪そうにニヤっと笑った。

 バカにされたみたいで、私はムキになって差し出されたタバコを掴んだ。

 そこから一本だけ引っ張り出して、口に咥える。


「火! 火つけてよ」

「はいはい」


 ニヤニヤ笑いながら、死神さんは体を屈めて、ライターを私の顔に近付けた。

 しばらくタバコの先端が燃えていたが、火がつかない。


「吸わないと付かないよ」


 彼の言葉に、私は慌てて思いっきり息を吸い込んだ。

 その途端、大量の煙が口の中に入って、私は思わずむせ返る。

 ゲホゲホ咳をしている私を、彼は面白そうに眺めていた。


「タバコ吸った事ないの?」

「な、ないよ。体に悪いじゃない」

「じゃあ、死ぬ前に吸っといて良かったね。好きになるかも知れないよ。慣れたら結構、クセになるし」

「なりません! クセじゃなくて中毒って言うのよ、それ!」


 彼は面白そうに笑いながら煙を吐いた。


「日程、聞きたいんだろ?そんなに長くはないよ。死亡推定時刻は夜10時になってるからな」


 普通に語る彼の紅茶色の目を見ながら、私は硬直した。





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