表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EDEN  作者: 南 晶
始点 -うさぎ-
4/58

死神 2

「ま、待って下さい!私、行きます!」


 私は、長い足でスタスタと先を行く死神さんの後を追いかけた。

 走ってくる私に気が付いて、彼は立ち止まって振り返る。

 ハアハア息を切らしている私を、彼は紅茶色の右目で見下ろした。


「・・・無理しなくてもいいですよ。途中で帰るって言われても困りますから」

「言いません!私、考えたら帰る所もないんだから。連れてって下さい」


 そう訴えながら、私の脳裏には実家に押しかけてきた弟夫婦と子供達が浮かんだ。

 失業保険を受給している弟、専業主婦という名の下に働く気が全くない弟の嫁と、年金生活の両親。

 弟夫婦は子供がいるので、実家に戻る理由は一応正当化されている。

 だけど、私はただのいき遅れのパラサイトだ。

 あの家にこれ以上、無職の人間はいらない。


 死神さんは首を傾げて私を見た。

 目が中央に来るように無意識にやってるクセみたいだ。


「途中下車は認めませんよ。本気なら止めません」


 彼の言葉に私は覚悟を決めて頷いた。


 実際のところ、この時ほど死ぬ事を考えてなかった時はないだろうと、私は思う。

 私はただ、置いていかれたくなかった。

 死神さんに付いていけば、行き先は永遠の楽園だ。

 それがどういう意味かを考えることなく、私はただ、彼に付いて行きたかった。

 ここではないどこかに行ければ、それで良かったのだ。


 私の歩幅に合わせて、死神さんは歩くペースを落とした。

 こちらを見ることなく、真っ直ぐ前を向いて彼は終始無言で歩き続ける。

 彼は主催者だと言った。

 だとしたら、彼は一緒に逝くつもりなのか、単に人を集めただけなのか、私には判断しかねた。


 最初に待ち合わせていた市バスの停留所に戻ると、そこには黒いワンボックスが止まっていた。

 そうは言っても高級車だ。


 彼はそこでくるりと振り返って私を見た。


「今から、この車で出発する。あんたは同行者と一緒に後部座席に乗って。行き先は太平洋側とだけ言っておくよ」


 そう言いながら死神さんが車のキーをポケットから出したので、私はギョっとした。

 まさか、彼が運転するんだろうか?

 その目で?


「あ、あの、あなたが運転して大丈夫?」

「何で?」


 私の問いに彼は首を傾げる。


「だって、その目じゃ危ないでしょ?」


 やっと意味が分かったみたいに、彼はああ、と言って髪をかきあげた。

 真っ白い眼帯が左目を覆っている。


「朝、起きたら結膜炎になっててね。でも、あんた変った人だな。どうせ死ぬのに事故ること心配してんの?」


 意地悪そうな顔をして、彼は開いてる方の目を細める。

 バカにされてるみたいで不愉快だったが、言われてみれば確かにそうだ。

 私は、死ぬ前に不慮の事故で死ぬのは嫌だった。

 どっちにしても同じ結果になる筈なのに。


「心配しただけよ。運転が疲れるかと思って。大丈夫ならいいです」


 私は負け惜しみみたいに言い捨てて、後部のドアを開けた。

 薄暗い車の中には3人の乗客がいた。

 一番奥に座っていた一人は60歳くらいの恰幅のいい男性。

 いかつい顔に四角いメガネをして、スーツ着用だ。

 何となくお金持ちのイメージだ。


 同じ席で反対側の窓にピッタリくっついて座っている40歳くらいの女性。

 私より、少し上に見えた。

 細くて、色の白いきれいな人だ。

 肩までのサラサラの髪をセンターで分けている。

 黒っぽいレトロなワンピースが良く似合っていた。


 真ん中の席に座っていたのは、40代位の男性。

 こちらも色白で細身だ。

 白いポロシャツに綿のスラックス、そしてメガネ。

 インテリな感じだった。


 私が車のドアを開けた途端、彼らは一斉に私を見た。

 私は、突然3人の視線の的になって、思わず目を逸らす。

 真ん中のインテリが笑みを見せて、自分の横の座席をポンポン叩いた。

 ここに座れということらしい。

 私はぺこっとお辞儀して、なるべく彼の反対側の窓の近くに体を寄せてチョコンと座った。


 私が座るや否や、ドアは自動で閉まり、運転席に死神さんんが乗り込んだ。

 運転席から首だけ動かして、後部席の私達を振り返る。


「では、人数も揃いましたので出発します。到着予定地はエデン。ですが、まず東名高速乗ります。最初の休憩は上郷サービスエリア。よろしくお願いします」


 どこまでも堅苦しい感じで、死神さんは私達に向って言った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ