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EDEN  作者: 南 晶
始点 -死神ー
34/58

獲物 2

「名古屋在住、ハンドルネームうさぎだって。早速、会員登録してきた。興味あるから連絡くれってさ」

「うさぎか・・・さしずめ、本名は宇佐美さんだろうな」


 俺と根尾はパソコンの前に張り付いて、初メールを見つめた。

 まさか、本当に来るとは。

 何てバカなヤツだ。

 殺されるとも知らずに・・・。

 でも、死にたいんだから、殺されるとしてもそれが本望なんだろうか?


 俺は嬉しいような悲しいような複雑な気持ちで唇を噛んだ。

 これは俺達が望んでいた第一ステップになる筈なのに。

 つくづく俺は覚悟ができない。

 生温い自分の性格を恨んだ。


「岸上君、スケジュール表添付ファイルで返信して。絶対、逃がさないように」


 対照的に、さっきまで弱気になってた根尾は、いつもの残酷スイッチが入ったみたいだ。

 ギラギラと肉食獣みたいに目を光らせ、俺に指示する。

 情けないけど、俺はテンパって慣れないメールを打つのにオタオタしていた。


「根尾さん・・・」

「何だ?」

「俺、敬語で書くの苦手なんだけど。冒頭に前略とか、拝啓とか書いた方がいいのか?」

「バカ、要る訳ないだろ。業務的に必要事項さえ書けばいいんだ」

「ダメだよ、俺、事務職やったことないもん。あんた書いてよ。医者だろ? 報告書くらい書くだろ」

「そういうのは医療事務っていう仕事をする人が別にいるんだ。大体、敬語が書けないって、君は大学くらい行ってないのか?」

「行ったけど、俺、経済学部だもん。あんたは?」

「僕は医学部に決まってるだろう! もういい、どきなさい!」


 根尾は俺を突き飛ばし、パソコンの前に陣取ると、ものすごい速さでキーボードに指を走らせ、さっさと返信してしまった。


「なんだ、打つの早いじゃん」


 感心して口笛を吹いた俺を根尾はキレた視線で睨み付けた。

 いつもの飄々とした根尾にしては珍しい狂気を孕んだ表情に、俺は少し怖気づく。


「岸上君、これはチャンスだ。この人は絶対に自殺してもらう。もし適合すれば、明日にでも心臓移植をする。瑞希にはもう時間がない。最期のチャンスになるかもしれないんだ」

「・・・落ち着けよ、根尾さん。スケジュール通りにするなら、名古屋に迎えに行くのは来週になるよ。しかもまだ一人しかいないじゃん?」

「構わん。初回だからリハーサル代わりに今回は一人だけの参加でいい。せめて事前に、血液型が分かれば・・・」


 俺は大事な事に気が付いて、ハタと顔を上げた。


「瑞希ちゃんは何型なの?」

「彼女はB、しずかの娘もB、ちなみに僕もしずかもA。だから、今メールくれたうさぎさんはB型であることが望ましい」

「もし、違ったら?」

「遺体は病院から直接、クルーザーで沖まで持って行って水葬とさせて頂く」


 それを聞きながら、少し考えた。

 俺の目はどうなってんだ?


「俺はB型なんだけど?」


 根尾は思い出したような顔で俺を見返した。


「じゃ、B型の場合は、君にも角膜が移植されることになる。ま、血液型だけじゃないんだけど。適合したらの話さ」


 俺の事はすっかり忘れてた根尾のすました顔を見て、俺は苦笑いする。

 この左目が大好きな根尾には、治らない方がいいくらいなのかもしれない。


 運行スケジュールを送った後、再びウサギなる希望者からの返信が来た。

 名古屋駅のバスターミナルで朝6時に迎えに行く旨を、根尾は素早く書いて返信した。

 これで、後は実行するだけだ。


 だけど、どうやって?


 具体的な殺害方法なんかはまだ考えた事もなかった俺は、今更ながら根尾に聞いてみる。


「なあ、自殺ツアーに一人しかいなかったら変に思わないか?」

「サクラ部隊として、我々全員、参加者として同行する。君は主催者を名乗って運転してくれればいい。全員で同行すれば逃亡も防げる」

「運転はいいけど、誰の車だよ?あんたのプリウスじゃ定員オーバーだろ?」

「自分の車を使うわけないだろ。病院名義の接待用アルファードを拝借する。もちろん、院長の承認済みだ」

「名古屋からここまで連れてくるのか?」

「そうだ。まず、院長の力で、このホテルを一日貸切にする。死んでもらうのはこのホテルになる。文字通り、楽園に来て頂くんだ。できれば仮死状態の内に病院に搬送して、そのまま移植手術をしたい。血液型等、適合しなかったらそのまま水葬だ。」


 理路整然と話す根尾を俺は感心して見つめた。

 きっと何度もシュミレーションして考えたんだろう。

 だけど、一つ聞いてないことがある。


「死因は何にするの?」


 根尾はニヤリと笑った。

 その冷酷残忍な表情に、俺は寒気がした。

 多分、これがこの男の本性だ。


「岸上君、勘違いしないでくれ。僕らは殺さない。うさぎさんが、自殺するんだ。自殺を図った女性の健康保険証にドナー希望が書いてあったので、搬送先の病院で移植手術が行われた、というのが今回のシナリオだ。彼女は死ぬ為にやってきて、自らの意思でドナー登録していた。だから、医療機関としては当然、摘出したという訳だ」


 俺は黙って、根尾の強引な理論武装を聞いていた。


 根尾は手を下さないんだ。

 何故なら、仮死状態にして生きたまま臓器を摘出するのが、この男の目的なんだから。

 俺は、既に狂気を孕んだ根尾の端正な顔を見つめていた。





ここまで読んで頂きまして、ありがとうございます。


ここで第2章終了、次なる展開にご期待下さいませ。

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