楽園 2
「最初から私達の仕事の休みも組み込んで、運行スケジュールを作成しておいたらどうでしょう?私達が迎えに行ける場所と時間を提示して、応募者にそれに合わせて来て貰うんです。」
しずかちゃんの提案に俺は拍手した。
さすが、女は考える事が具体的で、現実的だ。
「ネットで応募があっても岸上君が言うように、現実的に送迎するのが難しい地域が殆んどです。だから、応募があったらまず、運行スケジュールを送って、それに合わせて来て貰うんです。向こうも来れなかったらそこで諦めるでしょう」
「うん、僕もそれを言おうと思ってたんだ。なのに、岸上君が揚足取るから・・・」
俺のせいかよ・・・?
もう訂正するのがめんどくさくて、俺は苦笑いしてヤツの顔を眺めた。
「ネットで募集するのは危険もあります。失敗した時にすぐに足がつく。だから、何時間かおきに非公開モードにしたり、複数のサイトを時間差で公開したりした方がいいですね。私達は仕事があるから、WEB管理は岸上君にやって貰うしかありません。岸上君はブログ書いたりしたことあります?」
しずかちゃんの質問に、俺は首をすくめた。
いくら暇な俺でも、ブログ書くほど暇じゃない。
そもそも、そんな文才もない。
しずかちゃんは、業務的に続けた。
「分かりました。私が簡単な募集サイトをブログ形式で作ります。やり方は教えるから、岸上君はその管理と、応募者が来たらフォローをお願いします。根尾先生は車の手配ですね。万が一の場合、全身麻酔で眠ってもらうように薬品の準備も・・・」
「了解!」
理路整然と説明するしずかちゃんを、俺達は尊敬の眼差しで見つめた。
根尾が彼女を引き抜いてまで、アシスタントさせてたのが理解できる。
常識が欠如したこの医者には、現実的な女性のフォローは不可欠に違いない。
「おっと、その前に、最初に約束しておきたいことがあるんだ」
根尾が、口を挟んだ。
さっきまでの爽やかな笑顔が消えて、少し真面目な顔をしている。
「僕らは一蓮托生、共同体だ。この計画はここにいる三人が全て夢を叶えるまで継続する。一人だけ先に求める物が手に入っても、中途脱退は認めない。そういう意味じゃ、この計画は何年越しの長期戦になるかもしれない。それでいいかな?」
つまり、俺が両目になっても最後まで付き合わなきゃいけないってことか。
元から少ない人数なんだから、一人欠けたら計画はご破算だ。
尤も、失敗して刑事事件になったら三人とも実刑は免れない。
下手すりゃ三人一緒に死刑判決かもしれない。
実感がまだ湧いてなかったせいか、俺は全然怖くなかった。
むしろ、最期の瞬間まで一緒にいられる仲間ができて嬉しかった。
しずかちゃんと顔を見合わせてから、俺達は同時に頷いた。
◇◇◇◇
根尾は朝食を済ませると、名古屋の病院に入院している妻の転院の準備があると言って、出かけてしまった。
病気とは言え、一応、妻がいるのによくあんなことできるもんだ。
それとも本気の浮気はダメだけど、複数プレーはカウントしないんだろうか。
「根尾さんは、奥さんを愛してるの?」
俺は朝食の後片付けをしているしずかちゃんの背中に問い掛けた。
「愛しています。でも、男女の愛ではありません。岸上さんも彼の奥さんを見れば意味が分かると思います」
少し悲しげな顔で、しずかちゃんは答えてくれた。
「私もこれから向こうの病棟に入院している娘に面会に行くんですけど、良かったら、会ってやってくれませんか?娘も喜びます」
いきなり、家族に紹介・・・?
俺は焦ったけど、まあ、他意はないだろう。
「娘さんて、マンガ貸してくれた娘さんだよね?」
「そうです。あなたの事話したら、すごく会いたがってるんですよ。是非、来て欲しいの」
しずかちゃんは少女のように顔を高潮させて、俺の腕をクイクイ引っ張る。
俺の事を話してくれたのか・・・。
娘に話すって、やっぱり俺の事を最初っから・・・。
勝手に妄想を膨らませて、俺は照れながら頭を掻いた。
これは行くしかない。
娘さんとも今後のためにも上手く付き合っておかなければ。
「分かりました。行きましょう。俺の事、何て話してたんですか?」
「マンガの剣士みたいに片目がなくって、すごい刺青した海賊みたいな男の人が入院してるって」
ホホホ・・・としずかちゃんは口元を押さえて笑った。
・・・この人も根尾に負けず劣らずブラックだな。
この際、海賊でも何でもいい。
そんなしずかちゃんも、俺は好きだった。