始まり 2
クリックした先のサイトは、誰かの個人ブログみたいな簡単にできたページだった。
真っ黒な画面に文字だけが白く浮き上がっている。
画像も背景も何も無いそのページは、シンプルが故にむしろ不気味だった。
『エデン(楽園)を目指すツアー 参加者募集中
人生の幕をご自分の手で引こうとされている貴方。
でも、勇気がなく戸惑っているあなた。
このツアーに参加して一緒に逝きましょう。
最後の楽園に。
興味をもたれましたら、下記の手順で会員登録してから、改めてログインしてください。
その後、ツアー詳細を登録されたメールアドレスに送らせて頂きます。』
私は記載通りの手順で会員登録して、返事が来るのを待った。
5分も経たないうちに、見知らぬアドレスから携帯にメールが送信されてきた。
私は早くなった鼓動を抑えて、携帯の受信トレイを開く。
送信者 死神
件名 ツアー詳細
本文 会員登録ありがとうございました。
サイトで見て頂いたとおり、こちらは自殺ツアーです。
路線は毎回変えておりますが、定期的に運行しておりますので、あなたの街に近いところに
停車した時に乗り込んで下さい。
希望日、希望停車場決まりましたら、こちらのメールに返信お願いします。
メールの本文にはそこまで書かれていて、その後には運行スケジュール表が添付ファイルに入っていた。
名古屋に止まるのは8月某日、午前6時。
自宅との距離を考えると、何とか行けそうな場所はそこしかなかった。
私はその旨をメールに打ち込んで送信した。
再び5分も経たない間に返事が来た。
送信者 死神
件名 ツアー申し込みありがとうございます。
本文 ご希望通り、8月某日 6:00am 名古屋駅に停車します。
15分以上遅刻された場合はキャンセルと見なします。
時間厳守でお願いします。
尚、貴方がご覧になりましたサイトは、これで閉鎖されます。
今後の連絡は直接こちらのアドレスにお願いします。
中学生のイタズラのような、怪しさこの上ないメールだ。
私は思わず苦笑いした。
どうせ、誰かが面白半分にやってるに決まっている。
その時間に行っても、誰もいないに違いない。
いや、もしくはデジカメ片手に構えた中学生が、ドッキリ企画を楽しんでるかもしれないが。
とにかく、全く信用していなかった私だが、逆にそれが興味をそそった。
一体、誰がこんなくだらないイタズラを時間を裂いてやっているんだろう。
きっと私みたいな、無職で独身の暇な人に違いない。
どうせ死のうと思ってた矢先だ。
面白半分に、このイタズラに乗ってやるのも冥途の土産になるかもしれない。
死神という、ベタなハンドルネームの送信者のバカ面を見てから帰ってくるのも悪くない。
最初はそんな軽い気持ちだった。
実際の所、自分が本当に死ぬことはまだ考えてなかったんだろう。
ただ、死のうと思った瞬間、何かが私の中で弾けたのは事実だ。
何にも興味が無かった私が、このツアーには以上な興味を持ったのだから。
何かの啓示だったのか。
かくして私は、家を出る事に決めたのだった。