表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EDEN  作者: 南 晶
始点 -うさぎ-
14/58

迷い 2

「なあ、これから夕食まで何するつもり?」


 私が座っている一人掛けのソファの前に、死神さんは向かい合ってドカっと座った。

 肌蹴た浴衣から足がすらりと出てきて、私は中まで見えてしまうんじゃないかと慌てて下を向いた。

 面白そうにニヤニヤ笑って、彼は首を傾げて私を見つめる。

 この人の見えない左目には、見えないモノが見えているみたいだ。

 どんな嘘をついても、見透かされてしまう。

 そんな気がした。


「・・・何もしないよ。ここで海見てる。他の人たちも自分の部屋に篭っちゃったんでしょ?なんか、集団で来た意味がなかったわ」

「・・・そうだね。どうして一人で死ななかったの?」


 私は沈黙して考え込んだ。

 どうしてだろう。

 一人が怖かったのかな・・・。


「死んだ事ないから自殺するのが怖かった、と思う。きっと、私と同じ思いの人が一緒にいれば、心強いと思って・・・。でも、ちょっと後悔してる。これから死ぬ人たちと今更仲良くなったって、意味がないことに気が付いた」

「・・・そう。でも、ちょっと遅かったね」


 彼の言葉に私は思わず、顔上げた。

 色違いの両目で、死神さんは無表情に私を見つめている。


「・・・遅いよね」

「そうだね。生きたくなった?」


 言葉が出なかった。

 唇を噛み締めて俯く私を、死神さんは見ている。

 心を見透かすスモークガラスの瞳で。

 それを見つめ返す勇気は、私にはなかった。


 やがて、彼は無表情のまま、立ち上がった。


「・・・夕食は7時から地下のレストランで。時間厳守でお願いしますね、うさぎさん」


 私は彼の顔を見上げた。

 この自殺ツアーエデンから抜け出す事は、彼の許可がいるに違いない。

 濡れた髪で彼の顔はよく見えなかったが、厳しい表情をしているのは分かった。


 彼は濡れた自分の服をユニットバスから集めてくると、まだ座ったまま茫然自失している私を見下ろして少し笑った。


「浴衣、借りるよ。じゃ、後からレストランでね」


 パタンと部屋のドアが閉められる音がして、私は一人で取り残された。


 もう帰ったら?なんていう台詞を、私は待っていたかも知れない。

 残念なことに、彼の口からその言葉は出てこなかった。

 私は、脱力してソファに座り込んだ。



 窓の外には白い波が光る太平洋がキラキラ輝いていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ