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EDEN  作者: 南 晶
始点 -うさぎ-
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始まり 1

  朝焼けが始まりかけた、明け方5時。

 八月とはいっても、太陽が昇る前のこの時間帯は澄み切った冷たい空気が肌に心地いい。

 半分消えかけた月が、まだ僅かに薄紫色の空に張り付いている。


 私は、家族が眠っている家の玄関をこっそり出た。

 薄暗い玄関を出る時、懐かしい家の匂いがして、私の鼻が少しツンとした。

 でも、後戻りはもうできなかった。

 私は覚悟を決めて、死への道のりを歩き出した。



◇◇◇◇



「もう死んじゃおっかな・・・」


 1週間前のことだ。

 35才の誕生日を迎えた先週の日曜日、私は唐突に思った。

 何故と言われたら、主な理由は二つあった。


 一つ目は失業保険の給付が終了すること。


 リーマンショック後、私は今まで勤めていた人材派遣事務所が潰れた。

 派遣されていた人たちが一斉に解雇されたあの時、日本中に失業者が溢れて派遣村ができた。

 その派遣会社自体が、経営困難になり潰れていったことはあまり知られてないだろう。

 解雇された従業員ばかりクローズアップされ、派遣会社は中間搾取業としてバッシングを受けまくったが、結局は一蓮托生だ。

 派遣先がなくなれば、事業自体が存在意義を無くす。

 その派遣会社には10年くらい勤務していて、居心地は良かったのだけど、潰れてしまっては仕方が無い。


 でも、その後、35歳になっていた私に新しい職場はなかった。

 今までは面接で落ちた事などなかったのに、履歴書だけで断わられる。

 大した資格も職歴もない三十路の独身女には、どんな職業も狭き門になっていた。

 私はその時、自分がいかに価値の無い、何の取り得もない人間だったかを思い知らされたのだ。


 失業保険の給付が終わるという事は、私は完全に無職無収入の人間になってしまうということだ。

 年金暮らしの親の実家に住んでいるからまだ生きていけるものの、同じくリーマンショック後、押しかけてきた弟夫婦と二人の子供が同居している家で、ニートになる訳にはいかなかった。


 私は仕事だけでなく、自分の居場所もなくしていたのだ。


  二つ目の理由は、大したことじゃない。


  婚活で知り合って付き合い始めた男性が、同じパーティーにいた他の女と電撃結婚したのだ。

  今まで結婚はしなくてもいいと思っていた私も、経済的に不安定になると、高所得の男性を捕まえて扶養配偶者になることを考え出した。

  我ながら、小さい上に姑息な思考回路にウンザリする。

  でも、その時は、家から出られて仕事をしなくてもいい立場になるには、永久就職するしかないと思われたのだ。


  私と同じ思考回路の女はゴマンといるようで、婚活パーティーは常に男性不足だった。

  その中で、何とか私がデートまで漕ぎ着けた、40歳バツ一、チビでメタボの男がいた。

  公務員というだけで彼はモテモテで、何と私は二股かけられていた。

  その場で知り合った女の子と婚活情報を回しあう為、メールのやり取りをしていたのだが、その男が最近結婚したという情報が私の所にも回ってきたのだ。

  最初から、好きでもなかった男だったけど、あんな男にまで軽くあしらわれたのが惨めだった。

  これでも、学生時代は恋多き女だったのに。


  いつの間に時間は経ってしまったのだろう。

  私は35年という年月を無駄に過ごして、もうやり直しも効かないことを身に染みて感じた。

  やり直すには、一回死ぬしかないと単純に思ったのだ。

  その時、既に私は病んでたのかもしれない。

  普通の状態ではなかったのは、自覚していた。


  彼の結婚報告メールが届いた先週の日曜日の夜、私はネットで闇サイトなるものを探した。

  噂に聞く自殺サイトで仲間を探そうと思ったのだ。

  今まで何度も自殺サイトを利用して亡くなってる人がいるんだから、すぐに見つかりそうなものなのに、自殺仲間を一般公募しているサイトはなかなか見つからなかった。


 やっぱり、規制されてるのかな・・・。


 半分諦めかけたその時、検索サイトを見ていた私の目に飛び込んできた文章。




『一人で逝くのが不安なあなた。このツアーで一緒にEden(楽園)へ逝きませんか? by 死神』




 私は何かに誘導されるかのように、その文章に引き付けられ、無意識のうちにクリックしていた。




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