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78話・とうとう雷が落ちました

ボッシュ 姉 視点です




「なぁなぁ、俺はあいつらと行った方が良かったんやないか」



若いのを三人ずつで分け、商人等の宿舎辺りと事務方の執務室辺りを見に行かせた。

俺とマイヤーは工房周辺を見て回る。


マイヤーを行かせなかったのは、無駄な騒ぎを起こさせない為だ。



格下の連中には無体なことはしないだろうが、マイヤーは違う。



本気を出したらどれ程の遣い手か?恐れと共に、見てみたいという思いを抱かせる。



そして、俺の知るレイジーというやつは目的の為には手段を選ばないし、他人にどう思われようと気にしない。



そんな二人が本気で遣りあったら周りがどれくらい被害を被るか。



「……何か、失礼なこと考えとらんか?」



やや下方に位置する同僚の顔を眺めながら考えていると、訝しげに見てきた。


他人の表情を読むのに長けている彼相手に気を抜いてしまった。



「あいつらだけの方が経験になるだろう。あんたが一緒だったら頼るからな」



もっともらしい言い訳は咄嗟に口に出たものだが、マイヤーは特に気にした様子はなかった。



「しっかし、あの子はつくづく運の無い事やなぁ?落ち着く間もなく何かに巻き込まれて」


「目まぐるしいくらいが丁度いいのかもな」



トモがふとした時に見せる寂しげな顔は、郷愁ではないかと思う。

それを上回る何かがあれば気が紛れるんじゃないかと思うんだが。


心身の危険にさらされるのはいただけないが。



「お前、あんまり焦っとらんのは――」



マイヤーが何か言いかけた時、視界が影で覆われた。


現れたのは、赤銅色の肌を汗で光らせたこの砦一番の大男。

工房の責任者、コヴァだった。



「研ぎか?」



しゃがれた声で声をかけてきたので、人捜しをしていることを告げる。

彼は盛り上がった肩をすくめて、腕を組んだ。


いちいち迫力がある人だ。

単純に見た目が恐ろしいので、新人や子供達は近付こうとしない。そこまではラーソン隊長と似た境遇なのだが。

隊長が静かにそれを受け入れているのに対し、コヴァは余計怖がらせて恐怖を煽っている節がある。

リョータはケラーと共に作業をしていたので少しは慣れているようだが、トモは未だに近寄れもしない。

離れたところから様子をうかがっているのは見ていて可愛らしかった。



「ふん、あのふざけた男なら、昨日来てごちゃごちゃうるさかった。渡しとけ」



うんざりしたような表情。レイジーと関わった人間は大抵の人がこの顔になる。


見覚えのある細身の長剣を受け取りながら一番の被害者を思い出すが、このうんざりした顔と怒った顔しか思い出せない。

自業自得とは言え、不憫な女だった。


だがレイジーがトモに与えた妙な薬の出所はあいつしか居ない。

意図的か失敗か知らんが、二度と作らせないようにしないとな。





「なぁ、あのおっさんをへこますとは、なかなかやりよんな?」


「まぁな」



マイヤーの興味をひいてしまったようだ。部屋でおとなしくしていてくれたらいいんだが。






○ ○ ○ ○





あぁもうホントになんだかなぁ。



離れた所から視線がグサグサ刺さるのを感じる。


ジルさんはわきわきして、小鼻がぴくぴくしてて、はっきり言って怖い。


小さくなると、騎士の皆がいかにごついかが再認識できたし。


ものすごい圧迫感だ。


反対にアーニャちゃんと同サイズになった自分は、いつもの椅子なのに足が届かないし、お茶の注がれたカップは両手でないと持ち上げられない。


あぁもうイヤイヤ。


あ、でもボッシュさんにくっつき易かったのは良かったな。

一緒に居て欲しかったんだけど、あの人捜して来てくれるんだから我が儘言えないしなぁ。



「トモ、大丈夫?部屋に戻っとく?」



弟が、アーニャちゃんの相手をしながら気遣ってくれる。


弟が小さくなったんなら、きっと楽しみながら、どうしてそうなったかを調べまくるんだろうな。


小ささを楽しむのはどうやったらいいんだろ?


「外が騒がしくない?」



私を見ていた食堂の人達がそんな事を言いながらそわそわしてるな、と思ったら雷が落ちた。


実際に落雷はしてないのかもしれないけど、そんな感じの衝撃音。



私達は思わず悲鳴をあげて飛び上がったし、少し残っていた騎士の人はすぐに立ち上がって警戒体制をとっている。

さっきまで私をからかってとぼけていた奴等とは思えないな、ちょっとカッコいいかも。



「おっきい音こわいよぅ」


「雷様がおへそとりに来るかもね」


「なにそれ、誰?知らない人に、あげないもん。とれないもん」



ちょっとした日常へのスパイスのつもりだったんだけど、アーニャちゃんは本格的に泣き出してしまった。


うん、私が悪いね。


流石の弟も呆れた視線を送ってきた。



「どこに落ちたかな~」



えぐえぐ言ってるアーニャちゃんからそろりそろりと離れて、扉から外の様子をうかがっている騎士と並んだ。

あ、こういう時小さいと便利だな。



ボッシュさんとマイヤーさんが見えたから、そのまま隙間から抜け出ることに成功した。


アーニャちゃんを泣かしてしまった罪悪感から逃れる為で、そもそもの原因の事は頭からきれいさっぱり無くなっていた。



行かない方がいい、と声をかけられた気がしたけど、短い足で必死に走った。


何か、小さい体に心が引きずられている気がする。


やる事が子供っぽい。



二人に走り寄ると、いっしょに行っていた若い騎士も三人いて、目的の人も側にいた。



やっぱり美人だな。



更に近づいて声をかけようとして、雰囲気がおかしいことに気が付いた。


離れて向かい合う皆の間の地面がえぐれているし、剣に手をかけている。ここに雷が落ちたの?


それにしては、こんなに近くに居て全員無傷なのって変じゃない?



「いい加減にしろ!騒ぎを起こすなと言ってる!」



ボッシュさんが怒鳴った。


滅茶苦茶怖いな。


若い騎士達も青ざめて腰が引けてる。

分かります。


でも、あの美人さんとマイヤーさんは気にしてない。

にやにやして、近付こうと足を踏み出した。



その瞬間、ボッシュさんが二人の間に居て、抜いた剣を降り下ろした。


空気を切り裂くような音がした。


いやいやいや、もうちょっと二人が進んでたら、怪我してたよ?

足とか頭とかザックリいってたんじゃないの?



「俺は、やめろ、と言ってるんだ」



ドスの効いた声で、二人を交互に見据えてボッシュさんは言った。



うん、なんか、皆に恐れられてる訳がわかった。




私の前では優しくて、どちらかというと穏やかな人だから。


裏の顔、というか、仕事中の彼の姿ってこう……。



萌えた。




短くてすいませんです

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