75話・手繰り寄せたる腐れ縁
ずっと姉です
あぁ寒い。
まだ眠い。
でも今朝は卵当番なんだ。真冬は暖かい室内で産ますけど、産む時間が早いらしい。
鶏飼ってるのは見たことなかったから、奴らはどうなのか知らない。
冬だと卵が凍りそうな気がするけど。
羽毛布団みたいなのが乗るから大丈夫か。
今度、ダウンジャケットについてケラーさんに教えてみよう。
求む、商品化!
「トモ、寒いんでしょ、鼻が赤いわ」
ジルさんに言われて鼻を擦ると、先が冷たいし、危うく鼻水を垂らすところだった。やばいやばい。
「んあ?」
上を向いて誤魔化そうとした私の目に、気になる光景が飛び込んできた。
目線の先は砦の工房なんかがある一角、そこの屋上部分。私の胸より高い位置にある塀?柵って言うのか、とにかく落下防止のためにあるはずの部分に、人が座っていた。
二度見したけど、人だ。
色的に見て制服じゃないから、休みの人か一般人。
そんな人がこの鼻水も凍りそうな早朝に、屋上でする事ってある?
「ジルさんこれお願い!」
「え、ちょ、何?」
卵入れを押し付けて、兎に角全速力で駆け上がった。
「っはぁ、はぁ、あのぉ、おはよう、ございますっ」
息切れするけど、少し離れた位置で声をかけてみた。テレビで見たけど、あんまり近寄りすぎても興奮するから良くないんだよね。
まぁこの人が飛び降りようとしているとは限らないんだけど。
ん、その場合、私の方が大丈夫か?
早朝に息切れしながら声をかけてくる女。
変質者かと思われたらどうしよう。でも今さらか。
「おはよう。この砦は夜と朝の境が曖昧だ。いつも誰かしらが動いているね。でもまぁ自然の音は豊富だ」
んんん~、変な人だ。
でも――とんでもなく美人さんだ。
真っ黒な長い髪はうなじ辺りで一つ結びにして、不揃いでちょっと長めの前髪。お肌は白くて、そばかすも見当たらない。
ちょっと薄目の唇はピンク色。
一番印象的な目は、青。深くて濃い青は、宇宙から見た海の色みたいだ。
残念なことに一つしかないけど。
「口、開けてると舌が凍っちゃうよ」
美人さんは口半開きで見惚れていた私の口を、ぎゅっと摘まんでぴよぴよ口にして、笑った。
「……あの、ここで何してたんですか」
できるだけやんわりと手を外していただき、聞いてみた。
だってちょっと行動が変な人だし。
残念な美人という可能性が大きいし。
「高いとよく見えるし、よく聞こえるからね。あ、もしかして心配してくれたのか」
首を傾げて、目元だけで微笑むあなたは何だか、こう危険な香りがしているけど見ちゃう、そんな感じ。
「良い子だねぇ、お兄さんは優しい子が結構好き。うん、これあげる」
お兄さんだと!
何この超絶美形。
人外めいた美貌に目が釘付け。
キラキラバカ様とは格が違うわ~。
あんまり驚いたから、知らない人なのに飴のようなものをもらってしまった。
「トモ!なんだったの、急に。お腹でも痛いの?」
戻った時には作業は終わってて、心配までされてしまった。悪い事したな、と思うけど、まぁよかったか。
そんな感じであとは久々にまったりした日常を過ごして、夕食後に貰った飴をなめた。
白い紙に包まれた飴は透き通った緑色で、薄荷みたいなすっきり味。
この世界ののど飴かな?
冬は空気が乾くもんね。
あと一つあるから、明日弟にもあげよう。
「ふぁぁ、あ~」
今日の当番は夜だから、二度寝してしまった。
いい加減起きないと誰かが呼びに来そうだ。
朝はなかなか食べられないけど、お茶くらいは飲まないと寒い。
「うぅ~っうあ!」
ベッドから降りようとしたら、何故か足が着かずにそのまま転がり落ちた。
膝!
膝打った!
痛みで一気に目が覚めた。
どんだけ寝ぼけてんだ?
でも、起き上がろうとして今度はパジャマの裾を踏んでつぶれた。
えぇ?
何これ。
ずるずると体を起こして、床について痛む手のひらを確認。
なんか、ちっちゃい?
ゆっくり、立ち上がるとベッドの位置が胸より高かった。
どうやら私は縮んだ様ですよ?
異世界トリップと時間差で幼児化か?
「リョータっ」
確かめねば!
一緒に縮んでいるのか、私だけなのか、もしかしてあっちは大きくなってるかもしれないし!
着替えようにも服が無いので、マキシワンピースになったパジャマの上からシャツを何枚か重ね着して、ショールをぐるぐる巻きにした。
靴は更にどうしようもないから、冬用に作って貰ったモコモコブーツの上から紐で巻いて脱げにくく。
ああぁ、動きにくい。
比較対象がベッドしかないから微妙だけど、五、六歳まで戻ってるんじゃないだろうか?
有り得ない。
こんな非力な軟弱な姿に戻ってしまうなんて。
部屋を出て、どうしようかと悩む。
この時間、弟はどこだ?
散歩かな……。
いやいやいや、まずいよそれは。
私小さい=もふもふがでかい、じゃないか!
くわれる。
あれらに会わずに弟と接触するには……他の人にはこんなみっともない姿で会いたくないし。
「うわ」
考えながら歩いてたら、また裾を踏んで雪道に転がった。痛くないけど冷たい。
「だいじょーぶー」
何となく、転がったまま落ち込んでたら後ろから間延びした声がかかった。
最近よく聞く幼女の声。
恥ずかしくなって慌てて起きると、目線がほぼ同じ高さになって泣きたくなったというか、涙が出た。
「痛いの?怪我したの?」
慌てるアーニャちゃんに、首を振って否定する。
自分について考えてたら、泣けてきたんだよっ。
「あのさぁ、リョータ見なかった?」
最近よくストーキングしてるよね、君。
アーニャちゃんは黙って私を見て、やれやれという感じで手を繋いできた。
なんだろうこれ、仕方ないから連れてってあげるみたいな空気。
「はは、は。アリガトね」
毎日寒いですね、皆さんお元気ですか?
今回はトモちゃんをちっちゃくしてみました。
定番ですね。幼児化で可愛がられる……。
大好きです。
まぁこの子はひねくれているので、大人しく可愛がられませんが。
遅くなりましたが、今年もよろしくお願い致します。




