8・なんて素敵な筋肉
弟 姉 弟の順で視点変更です
偉い人だから砦の上の方に部屋があると思ったら、中途半端な3階にいらっしゃいました。
最上階とみせかけていきなりボス戦、というフェイントでしょうか。
階段を続けて4階へあがろうとしていた僕達を見て、パイクさんが吹き出しました。
「ふっ、やっぱり、隊長だったら上の階にいると思うよねぇ?隊長は、緊急時に飛び出せるようにって執務室をおろしたんだよ」
緊急時に飛び出す?って、それはつまり・・・
「窓から飛び降りるということですか?」
「どんだけ臨戦態勢なの」
おもわず僕達は顔を見合わせました。そんな恐ろしげな人は遠くから応援するくらいにしたいものです。
普通3階は安全に飛び降りられる階ではありません!足折れますよ!
しかし、これからその人に会って信頼を得なくてはなりません。
戦え!とか言われたらどうしましょう?
ここは砦だから、力仕事とか戦闘とかの物騒なスキルが求められそうですが、はっきり言って皆無です。簡単な護身術程度を教わったくらいですね・・・。
掃除くらいならできるかな
暗澹たる気分で歩いていると、扉の前に騎士が立っている部屋へたどり着きました。階段には近くないってことは飛び降りる気満々なんですね。
表の騎士さんは上着の色だけが違って緑色。役職などで違えているようですね。
赤褐色の肌に黒っぽい髪と目のラテン系、と表現したくなる、陽気そうな雰囲気の人です。
姉と僕を興味深そうに見てからパイクさんたちに笑いかけて、扉をゴンゴンゴンと叩いて、そのまま開きます。あれ、返事待たないんですか〜心の準備が!
部屋の中はシンプルで、本棚二つに重厚な机が一つ、その横には使い込まれた武具がいくつか。
机の真後ろが、例の窓兼緊急出口。
僕達を見て、書類を見ていたその人は立ち上がって机の前に回ってきました。
イメージ通り!
ボッシュさんより少し大きく見えるから190センチくらいあるんじゃないでしょうか。
厚い胸板、袖を捲ったぶっとい腕とがっしりした首から上は陽に焼けて、いかにも働き者な様子。白っぽい金髪は短くてピンピン立っていて、水色の目は厳しく透き通って容赦なく睨んで・・・見つめてきます。
居心地悪ぅ・・・
○ ○ ○ ○
パイクさん達に連れられて隊長の執務室に来た。
騎士団の砦警備隊隊長、らしい。
ジルさんによると職務に忠実で部下には気を配るいい上司らしい。
でも窓から飛び出すって。前線の戦士タイプなんだろうか?隊長とかお偉いさんは後方から指示を出すんじゃない?
それともこの砦はそんなに危ない所なのか。
ちょっと不安になりつつ弟を伺うと、あっちも暗い表情になっていた。・・・友達に体育会系が一人もいなかったから、ちゃんと応対できるかな。大丈夫かな。
ちょっと不安になりつつ部屋に通されて、目的の隊長に会った時、私の頭は変な台詞でいっぱいになった。
気を付け!歯を食い縛れ!返事の前後にはサーをつけろ!
男のなかの男
漢とかいておとこと読む。
そんな感じ。
両腕に一人ずつ綺麗なお姉さんをぶら下がらせるのができそうな、そんな腕を組んでこっちをじっと見ている。
あれ?パイクさんたちも見ている?
サー!ちょっと自分の世界に突入してました、サー!
「・・・で?お前達はどこから来たと?」
曖昧に表情をつくって隊長さんを見返すと、ため息混じりにしぶーい声で言われた。
「私達はこの国に来たという覚えはありません。祖父の家の近所の森にいて、歩いていたら、いつの間にかパイクさん達にお会いした場所に出ていたんです」
この国がなんて国か、名前だって知らないけどさ。
これだけはわかる。
「元居たところとは、国どころか世界が違うとしか、申し上げられません」
思わず自信たっぷりに言っちゃったよ。
○ ○ ○ ○
隊長の尋問?が始まって、なぜだか放心していたトモが珍しくまともな対応をしています。
多分、筋肉について考えていたんだと思いますが。
「ふむ、やはりあの森か。パイクのところの妙な獣、あれらも森から現れたな」
「あの生きものは、どれも僕達が居た世界のものでは・・・」
思わず口を出してしまうと隊長がギョロリとこっちを見たので、語尾がフェードアウトしてしまいます。
この人怖いです・・・。
しかし僕の無礼を怒りはせずに、重々しく頷いてくれました。
「どうやらあの森からは、稀に別世界の生物、としか思えない生きものが出るのだ。昔に人も来たという。そして森に入った者が行方知れずになったという記録もある」
えーとそれはつまり不思議な森ですね!
異次元空間なんかがあるんでしょうか?
「じゃあ森に入ったら私達帰れるかもしれない?」
ちょっとだけ嬉しそうに姉が言うと、騎士3人は顔を見合わせました。あれ?
「えっと、さっきリョータが言ったよね?うちの子達は見たことない生きものだって。森に入ればもしかしたら家に帰れるかもしれないけど・・・」
あぁそういうことですね。
「運が悪けりゃ違う世界にご案内されるということだな」
ボッシュさんなんで嬉しそうなんでしょ。他人事だと思って〜〜ジルさんに振られてしまえばいいんです!
隊長さんは、僕達を元気づけるようにでっかい手で肩を抱いてくれました。
「お前たちは我々が面倒を見る。砦はそのために造られたようなものなのだ。
民が森に入らぬよう。森から来たものを守るよう。・・・街道警備はついでのようなものだ。めったに何も起こらぬのでとても暇だ」
なんか最後にぶっちゃけてるけど、肩にのるごつい手と真剣な眼差しからは、労りとか真心とか、なにか暖かいものを強く感じます。
帰れないのが決定的なってしまったけれど、こんなに無条件に受け入れられるとは思っていませんでした。
この人の目がこんなに優しいとは。父を思い出してほんの少し、泣きました。
筋肉いいよね細マッチョが好き
隊長の名前出してなかったああぁ