66話・実は、やっぱり好きなんです
姉 ボッシュ 弟
ここに来た最初のうちは、現実じゃないと思った。夢を見てるか、実は事故かなんかで病院で意識不明とかね。いや、これは流石に弟には言わなかったけど。
映画化された児童文学では異世界に行った兄弟は大活躍するらしいけど、私達はする事がなかった。
そもそも、何で異世界トリップしたんだか今だに解らないしね!
この世界、がどうも変らしい。
色んな世界と通じてる?森があって、そこからたまに異世界生物や品物が出てくるらしい――調査しろよって思うけど、こっちからも行っちゃうので危なくて立入禁止。
近くに砦を建てて、出入りを毎日見張っていたら私達が出て来た、と。
初めから受け入れ態勢バッチリの場所で拾われた私達はすごく運がいいと思う。しかも、相手はお人好しのイケメンだったし。
そう言えば初めはパイクさんの方が印象が強かった。この国の事情なんて知らなかったから、あからさまに怪しい私達を優しく保護してくれたこの人は、お人好し過ぎるんじゃない?大丈夫?なんて失礼な事を思っていた。
逆に、一緒にいたボッシュさんは興味なさそうだったし、ちょっと意地悪そうに見えたよ。うん、まぁ今でも解りにくい。
取り敢えず、最初に会ったこの二人とはどうにかして仲良くなっておこうと、弟と話し合って、何かと相談したりお手伝いしたり、兎に角頑張った。主に弟が。
私はひねくれているから、素直に他人の好意に甘えるのが苦手だ。
優しくされても、捨てられたらどうしようって思う。手に入らないなら初めから望まなければいい。
ずっと、そう思っていた。
だから、だからきっと、微妙な距離感のあるボッシュさんはとても安心できた。
なんて言うか、斜め後ろから見守られている感じ?
普段は気付かないけど、怖くて一歩下がったらそこにいる、そんな安心感。
嫌いなヤツならストーカーだけどさ。
好きだって自覚すると、ちょっと世界が広がった。
いや、元々広くてそれを見てなかっただけなんだろうけど!
そうすると、今度は逆に苦しくて、辛くなってきた。
結局、失うのが怖いんだ。
自分の意志でここに来た訳じゃないから、また、って事もあるかもしれない。
珍しいから相手をしてくれてただけで、やっぱり地元の人がいいと思うかもしれない。
「お前なぁ……俺の言った事、聞いてなかったのか」
べしょべしょ泣きながら、途切れ途切れに頭に浮かんだどうしようもない色々を訴えると、ボッシュさんはため息をついた。
気付いたら、ベッドに座ったボッシュさんの膝の間に抱え込まれてた。
前にもこんな事があったような?
こんな風に子供っぽいのはうざくないかな。
あ、子供が泣いてたら大抵の人は優しくするよな。これはやっぱり同情?この際それでもいいか?
「……トモ?」
ツン、と髪を引っ張られて顔をあげると、怒った様な顔と真正面からぶつかる。
私はひどい顔に違いない。見ないで欲しい。
「逃げるな、もう。逃がさない。お前が帰りたいと言っても帰さない」
耳に響く、低い声以外は何も聞こえなくなった。
「お前は俺のもので、俺はお前のものだ。誰にも譲らない。リョータだろうが、王だろうが」
「あの、それっ、て」
しゃっくりで上手く喋れません!
「愛してる」
目を細めて、首を少し傾けてこっちを見て。
何か返事をしなきゃいけないのにしゃっくりは止まらないし何言っていいか解らないし頭に血が昇ってクラクラしてきたしまた涙がでてきてどうしようありがとう?って違うよね鼻血出そうだ変態っぽいよね嬉しいっていうのは返事と違うかも?
「ああぁのっ、ボッシュ、さんっ、結婚、してくださいっ」
テンパった。
わたわたしながら、どう言おうか考える。
そんな私をボッシュさんは黙って見つめて、優しく背中を撫でてくれた。
お陰で落ち着いたけど、何で無言なんでしょ?
「訂正はきかないぞ」
誤魔化そうかと思い始めた時、ボッシュさんがゆっくり口を開いた。
小さな子供が胸の内をさらけ出すように、トモは泣きながら色々な事を語った。
表面上は落ち着いて見えても、溜め込んでいた不安は膨れ上がっていたらしい。
いかに辛い過去であろうと家族や故郷は忘れ得るものではない。
解ってはいたが、自分の傍に居て欲しいと思うばかりで気付かない振りをしていた。
ここで幸せになり、帰りたいと思わないようにしたかった。
ここまで他人に執着を覚えたことはない。
『自分にとっての唯一つ』
長くかかってやっと出会えたんだ。トモには悪いが、手放す気は毛頭ない。
「愛している」
心からの、ただそれだけを伝えた。
繊細で、怖がりな癖に大胆で強い。
細い野花が強風に耐えるような、そんな印象の少女。
いつからか自覚がない程、自然と目が離せなくなっていた。
顔を真っ赤にして、涙を拭いもせずに腕の中で慌てふためくトモ。呼吸が怪しくなってきたので背中を撫でていると、漸く落ち着いてきた。
ゆっくりと深呼吸をして、真面目くさった顔でこちらを見上げている。涙を湛えた上目使いに心を揺さぶられるが、ここは耐えて話を聞かなくては。
聞き違いでなければ、トモは俺との結婚を望んでくれているようだ。混乱の余りに口をついたようだが。
宣言したらそれはもう撤回できないぞ?
「ほんとはね、お父さんの夢みて、すごく会いたくなったの。オルガさん達の事もあったし。でもね、帰りたくないって思ったんだ。思っちゃったんだ。だからさっき反省してたの」
やや要領を得ない言葉に、問おうと口を開くと冷たい手のひらで塞がれた。
「本当に、私も、ボッシュさん好きなの。ずっと一緒にいたいの。でも、正体不明だし、色気無いし、後悔しない?私でいいの?弟つきで面倒な子だよ?」
なんだ、そんなことか。今だってどれだけ我慢していることか。
口にあてられていた、震える手をとって改めて口づけするとトモの肩がビクリと揺れた。涙を浮かべた目を見つめたまま、もう片方の手もとって同じく口づけをする。
「あ、あの、聞いてる?」
「勿論。聞き逃す訳がないだろう?お前からこんな情熱的な言葉を聞けるとは。悪いが帰す気は毛頭無い。さっきも言ったが、俺が欲しいのはお前だけだ。そろそろ覚悟してもらおう」
腕の中で震えていたトモは猫のような呻き声をだしてこちらの胸に顔を埋めてきた。
「妻として、ずっと傍に居てくれ。傍らでただ幸せで居て欲しい」
そっと両手で顔を包み、許しを請う。
トモはまた涙を溢したが、満面の笑みで頷いた。
○ ○ ○
義父から託された指輪を持って、しばし悩みました。様子がおかしかったから姉を焚き付けたものの、そのまま勢いに任せて……というのは十分に考えられますから、やっぱり邪魔してやりたいのですが。
たまに出る肉食ボッシュさん怖いんですよね。
「あ、リョータ!ちょっと手伝ってくれ」
悩みながら砦内を歩いていると、内騎士のレオさんに声をかけられました。南の出身だからか、他人より一枚多く着込んでいて少しカッコ悪いですね。言いませんけど。
「どうしたんですか」
「迷子かなんからしいぜ。暇潰しに一緒に探そうぜ」
どうして、砦に迷子が発生するんでしょうね?
職員の家族なら慣れてるでしょうから、近所の子供か収容した旅人というところでしょうか?
まぁレオさんが乗り気ということは女性ですね。九割がた。
「そう言えば、あいつらいつ結婚するんだ?」
唐突な台詞に吹きそうになりましたよ。
横目で見ると、レオさんは興味津々といった顔でこっちを見てます。すっごい見てる。
「都の実家に連れて帰って顔見せ済んだろ?実はもう結婚成立したのか」
あれ、情報が錯綜してる?結婚の挨拶に行ったと思われてませんか?
まぁ今思えば間違ってはいない気がしますが。
マルキンさん強引だったしなぁ。
「お前も寂しくなるよな。いつでも相談にのるぜぇ」
ばし、と背中を叩かれて雪道で滑りそうになりましたが。
いつもは男には冷たい、というか女の人しか相手にしないレオさんが気をつかってくれるのが新鮮です。
「さっさと美人をさがしに行こうぜ」
結局それですか。
でも迷子になる美人って、いくつなんでしょうかね?
お久しぶりの投稿です。
だらだら書いていたものの気に入らず、結局こんな感じに落ち着きました。




